脂肪や糖分が豊富に含まれているジャンクフードは非常においしいものの、食べ続けると肥満になったり不健康になったりといった問題が生じます。そこで、アメリカのテキサス大学サンアントニオ健康科学センターの研究チームが、「ジャンクフードを食べ続けても太らない薬」を開発したと発表しました。「CPACC」と名付けられたこの薬を投与されたマウスは、人生の大部分にわたり高脂肪・高糖分の食事を与えられたにもかかわらず、体重増加や肝臓の異変といった問題を抱えなかったとのことです。

Limiting Mrs2-dependent mitochondrial Mg2+ uptake induces metabolic programming in prolonged dietary stress: Cell Reports

https://doi.org/10.1016/j.celrep.2023.112155



Scientists Develop Drug That Prevents Weight Gain in Junk-Food-Eating Mice : ScienceAlert

https://www.sciencealert.com/scientists-develop-drug-that-prevents-weight-gain-in-junk-food-eating-mice

人間の細胞内では、細胞小器官の1つであるミトコンドリアが電子と酸素分子を利用して「生体のエネルギー通貨」とも形容されるアデノシン三リン酸(ATP)を産生し、それに伴って水や二酸化炭素、そして熱エネルギーを放出しています。生物の体におけるエネルギー産生については、以下の記事を読むとよくわかります。

生物は活動に使う「エネルギー」をどのように作り出しているのか? - GIGAZINE



研究チームは以前から、人体に必要なミネラルであるマグネシウムが細胞内のエネルギー代謝にどう影響するのかを調べてきたとのこと。マグネシウムはカルシウム、カリウム、ナトリウムに次いで体内で4番目に多い陽イオンであり、血糖値や血圧の調節、骨の強化といった健康維持に必要なさまざまな機能を持っています。

ところが、体内のマグネシウム量が多すぎると、細胞の発電所ともいえるミトコンドリアのエネルギー産生が遅くなってしまうそうです。論文の共同筆頭著者である博士課程学生のトラヴィス・マダリス氏は、「これはブレーキをかけて減速させるだけです」と述べています。

研究チームは、ミトコンドリアへのマグネシウム輸送を促進するMRS2という遺伝子を欠落させたマウスでは、ミトコンドリアにおける糖と脂肪の代謝がより効率的になることを発見しました。そこで研究チームは、MRS2が欠落したマウスと正常なマウスに、長期間にわたって高脂肪・高糖分・高カロリーのジャンクフードを与え続け、体にどのような影響が出るのかを調べる実験を行いました。

実験の結果、MRS2が欠落したマウスは生後14週から最大1年間にわたりジャンクフードを食べ続けたにもかかわらず、ミトコンドリアにおける糖と脂肪の代謝が改善された、よりやせて健康的な状態でいられることがわかりました。また、これらのマウスでは肥満や2型糖尿病に起因する脂肪肝の兆候もなかったとのことです。



MRS2の欠落がミトコンドリアのエネルギー代謝に影響するという研究結果を基にして、研究チームはMRS2の欠落と同じ効果をもたらす「CPACC」という薬を開発しました。実際に、マウスへCPASSを投与してジャンクフードを食べさせ続ける実験でも、MRS2が欠落したマウスと同じような効果が確認されたと研究チームは報告しています。

論文の共著者である博士研究員のManigandan Venkatesan氏は、「ミトコンドリアのマグネシウム量を下げることで、長期にわたる食事ストレスの悪影響が軽減されました」とコメントしました。

研究チームはすでにCPACCの特許出願を行っていますが、マウスでみられた効果が必ずしも人間でも再現されるとは限らないほか、MRS2の欠落が人体の代謝調節にどのような影響を及ぼすのかについても調査する必要があります。

研究チームを率いた医学教授のMadesh Muniswamy氏は、「これらの発見は、数年間の作業の結果です。心臓発作や脳卒中などの心血管代謝疾患のリスクを軽減し、脂肪肝疾患に続く可能性のある肝臓がんの発生率を減らすことができる薬は、大きな影響を及ぼします。私たちはその開発を続けていきます」と述べました。