相次ぐ水難事故…子どもが溺れた場合、ボランティアの引率者は法的責任を問われる?
夏の訪れと共に、海や川など水辺での楽しいレジャーで遊ぶ人が増えてきます。しかし、同時に今年も水難事故の発生が多く報じられています。
遊泳禁止の場所で泳いでしまったら・・・。気軽に近所の子どもを連れて海に行き、溺れてしまったら・・・。そんなとき、誰がどのような法的責任を問われるのでしょうか。
楽しいひとときを過ごすためにも、水難事故から身を守るための注意とともに、知っておきたい法律のポイントを水難事故にくわしい上野園美弁護士に聞きました。(弁護士ドットコムニュース編集部・猪谷千香)
●遊泳禁止の場所で泳いでしまったら?
--水難事故でよくあるケースが、遊泳禁止の場所で泳いでしまったというものです。泳いだ人は何かの法的責任を問われるのでしょうか。
遊泳禁止の場所は「入ることを禁じられた場所」であり、正当な理由なく立ち入ったときは、軽犯罪法違反(軽犯罪法1条32号)となりえます。
現実的には、ただちに罪に問われるというものではないと思います。ただ、注意を受けながらも、繰り返し泳いでしまった場合などは処分を受ける可能性があります。
注意したいのは、飲酒して水難事故に遭うケースです。たとえば、明らかに飲酒で危ない状況なのに、本人が断れない状況で「泳ごう」と誘って、事故に遭った場合には、誘った人が賠償請求される可能性はあると思います。
--飲酒しなくても、未成年や大学生のグループだと、先輩に言われて断りきれず、泳いでしまうことはありそうですね。
実際に裁判で争われたケースがあります。都立高校1年生4人が上級生らに指示されて、堤防から海に飛び込み、高波に巻き込まれて水死・行方不明になった事件で、4人の遺族が上級生らや都を相手取り、賠償を求めた裁判です。
一審・二審判決ともに被告らに違法行為があったとして賠償命令が下され、2002年の最高裁の決定で確定しています。
●気軽に引き受けた引率でも責任は問われる
--水難事故で心配なのが、保護者ではなく、ボランティアや友人家族が海や川に子どもを連れて行き、子どもが溺れてしまったりした場合です。引率者に責任は問われるのでしょうか。
たとえ、ボランティアであったとしても責任が追及されることがあります。これまでの裁判で争われた事例ですと、佐賀県伊万里市で2010年7月、小学生がキャンプに参加し、川で溺れて亡くなった事故がありました。
遺族がキャンプの主催者(伊万里市などで構成する協議会)を相手に賠償を求めた訴訟では、注意義務違反があったとして、被告に賠償を命じています(2審・福岡高裁の判決が確定)。
また、ボランティアの責任が問われた事例として、「四ツ葉子ども会」事件があります。これは、三重県津市の子ども会が主催したハイキングで1976年8月、小学生が川遊びで溺れて亡くなった事故で、ボランティアの引率者が過失致死罪で起訴された裁判です。
刑事裁判で、引率者は1審・津簡裁で有罪判決、2審・名古屋高裁で無罪判決となりましたが、民事裁判では引率者らの賠償責任が認められました(津地裁判決)。
事故を起こさないためにも、ボランティアであっても、下見や天候のチェックを怠らず、計画に問題がないか確認することが大事です。
●「免責同意書」に署名してたら自己責任になる?
--ダイビングなどの水のレジャーを楽しむ際、事業者に対して「万が一事故が発生しても責任は負わない」という免責同意書を書かされることがあると聞きました。これに署名してしまったら、いわゆる「自己責任」になってしまうのでしょうか。
死亡や重大な後遺症が発生する事故については、免責同意書の署名を根拠にして、事業者は責任を逃れることはできません。
実は現在、「免責同意書」ではなく「危険の告知書」などに名称が変更になっています。
この背景には、2000年と2001年に、ダイビングの事故で事業者らの責任が問われた2件の裁判がありました。いずれも被告は免責同意書を理由に責任がないという主張をしましたが、両判決では、そもそも「免責同意書」自体を公序良俗に反するとして無効と断じています。
ダイビング以外でも、サップやカヌーで漂流したりする事故も多いです。水のレジャーでは、体調不良や天候の急変も事故につながります。さまざまなことに注意をして、安全に遊んでいただければと思います。
【上野園美弁護士略歴】
青山学院大学経済学部経済学科卒業。2000年10月司法修習終了(53期)。2005年シリウス総合法律事務所サブパートナー に。2006年12月公認会計士登録。豊島岡女子学園監事。著書に「事例解説 介護事故における注意義務と責任」(共著・新日本法規)、「事例解説 保育事故における注意義務と責任」、(共著・新日本法規)「事例解説 リハビリ事故における注意義務と責任」、(共著・新日本法規)「交通事故事件処理の実務−Q&Aと事例−」(共著・新日本法規)、「アウトドア六法」(共著・山と渓谷社)など。