2023年7月、韓国・高麗大学量子エネルギー研究センターの研究チームが発表した「常温・常圧で超伝導を実現する物質」についての論文は大きなセンセーションを巻き起こしました。しかし、各所で行われている再現実験はなかなかうまくいかず、科学ライターのダン・ガリスト氏は科学誌Natureで、「研究者らは懐疑的に見ている」と述べています。

Claimed superconductor LK-99 is an online sensation - but replication efforts fall short

https://doi.org/10.1038/d41586-023-02481-0



量子エネルギー研究センターの発表は「常温常圧超伝導」でしたが、記事作成時点で同様に常温常圧での超伝導を再現できたグループはなく、たとえば中国・東南大学の研究チームは110K(およそマイナス163度)での超伝導を確認しています。これは、従来の研究に比べれば超伝導体としてかなり高い温度といえますが、「常温」というには低すぎる温度です。また、超伝導体であればみられる「マイスナー効果」は確認されませんでした。

常温常圧超伝導体「LK-99」再現実験について東南大学のチームがマイナス163度で「抵抗ゼロ」を観測したと発表 - GIGAZINE



論文が発表された当初、アメリカのローレンス・バークレー国立研究所は「LK-99」の存在を支持する研究結果を発表していました。

夢の常温常圧超電導体「LK-99」の存在を支持する研究結果が相次いで発表される、再現したLK-99が超電導物質だと示唆する動画も公開 - GIGAZINE



しかし、研究所のシネイド・グリフィン博士はのちに「報告書は超伝導性の立証や証拠の提示を行ったものではありません」と、一歩引いています。



カリフォルニア大学デービス校のインナ・ヴィシック氏は当初から懐疑的な目を向けている人物で、「こうした『未確認超伝導体』はときどきarXivに登場するものです。年に1件ぐらいはあります」と述べています。

また、超伝導が進歩することで日常に用いられる技術にも影響が出るのではないかと期待する声に対しては「見当違い」とヴィシック氏は指摘し、室温超伝導体が実用化される保証はないと語りました。

なお、量子エネルギー研究センターは常温常圧超伝導を確認したというムービーを公開していますが、これが誇大宣伝であると感じるビンガムトン大学のエリック・アスリング氏は、透明テープで浮かせたフォークを揺らす映像を作成。「『これで誰が納得するんだろうか』と思いました」と述べたとのことです。