物語を作る際には、舞台設定やストーリー展開、キャラクターの特徴付けだけではなく、ストーリーをどのように分割したり時系列や視点を入れ替えたりするか、どのような語り方をするかなど、「構造」も大きな役割を果たします。そのような物語全体を強力にレベルアップさせるストーリー構造について、「ガール・オン・ザ・トレイン」などで知られるジャーナリスト兼作家のポーラ・ホーキンス氏が語っています。

Paula Hawkins on Creating a Strong Story Structure ‹ Literary Hub

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ホーキンス氏は「物語の語り方に特別な理由があり、その理由に読者が気づく瞬間のような、驚きの瞬間を実現したいと思っています」と話しています。「ストーリー構造」を工夫することで、純粋なストーリーに付け加える形で「驚き」を追加できるため、非常に貴重なアイデアとなるとのこと。また、あらかじめ工夫した構造を設定しておくことで、執筆する際のフレームワークにもなるため、次に何が必要か、次に何を明らかにすべきか、というようなことを把握するガイドとして役立ちます。

映画化もされたホーキンス氏のベストセラーである「ガール・オン・ザ・トレイン」では、離婚して職も失ったばかりの女性が、毎日のように電車に乗って車窓から元夫や近所の理想的な夫妻の生活を監視する日々を送ります。作中では、「毎日電車で行き来する」ということを序盤で明らかにしたことから、以降は今どこから何を見ているのかを読者が理解しやすい構成となっています。このように、舞台設定だけではなくどのような舞台かをストーリー構成によって正しく伝えることで、よりよい読書体験を与えることができます。

『ガール・オン・ザ・トレイン』 予告編 95秒 - YouTube

無残に殺害された3人の男性と関わりのある女性3人の憎悪と復讐(ふくしゅう)を色濃く描いたスリラーの「A Slow Fire Burning: A Novel」では、まず核心となる事件を明確にし、「水に石を投げ込んだときの波紋のように、その事件が波及効果を起こす」ことをイメージした構造を制作したとホーキンス氏は解説しています。事件の詳細を軸に、物語の語り方、登場人物の紹介の仕方を考え、彼らがどのように出会ったか、どのような関係をそれぞれ結んでいったか、という設定を固めていくことで、ブレずに執筆を進めていくことができます。一方で、作品を読む人は中央にある「事件」に収束していくような感覚を味わうことができます。



具体的に「強力な構造」を作るための手段として、ホーキンス氏はいくつかのポイントを示しています。プロットや筋書き、設定集などを作成した際には、一歩下がってこの計画を全体的に確認し直すことで、ストーリーのパターンに気づいてキャラクターの生かし方に気づいたり、逆にストーリーに合わない不均衡な設定や展開を理解したりできます。また、アクションが偏っている部分や、読むペースが落ちてしまうそうな部分に気づくことができたら、読者が一息入れられるような構造に組み換えることが望ましいです。その他、極端に画面のイメージが暗くなりすぎていたら、撮影の際に光を取り入れるように、イメージを変化させる工夫も良い編集とのこと。



物語を執筆する際には、小説の冒頭を書き始める時には最終的にどのようなストーリーになるかまったくイメージできていない人も、各章を綿密に計画する人も、あるいはその中間で一部は計画的だが一部は未知数のまま書き始める人もいます。ホーキンス氏は「私の場合、書き始める際には小説がどのようなものになるのか、全く分かりません」と話していますが、どのプロセスを採用する作家であっても、ある種の「回路図」を作成することで執筆の支援となるとアドバイスしています。

また、綿密にプロットを作成してから執筆を始める場合、構造を工夫する余地が無い場合もあります。それでも、特に初期の構想段階では、操作の余地を十分に残しておくことで「驚きのためのスペースを自分に与えてください」とホーキンス氏は述べています。構造を工夫することは、読者の読書体験を高めるだけではなく、執筆する自分にとっても最初は考えもしなかった物語上のつながりを発見したり顕在化できたりして、より深く自分の物語を知ることにつながるとホーキンス氏は語っています。