季節のサイクルやエルニーニョ現象、地球温暖化の三重苦によって、2023年7月4日における地球の平均気温が17.18度と、記録が始まった1979年以降で最も暑い日となっていたことが報告されるなど、2023年7月は北半球において記録的な猛暑となっています。気候変動や異常気象を調査する国際研究機関「World Weather Attribution」は「温室効果ガスの排出量がただちに減少しない限り、今後数十年でこのような猛暑は一般的になる」との分析を発表しました。

Spiral: Extreme heat in North America, Europe and China in July 2023 made much more likely by climate change

https://doi.org/10.25561/105549



Extreme heat in North America, Europe and China in July 2023 made much more likely by climate change - World Weather Attribution

https://www.worldweatherattribution.org/extreme-heat-in-north-america-europe-and-china-in-july-2023-made-much-more-likely-by-climate-change/



Climatologists: July’s intense heat “exactly what we expected to see” | Ars Technica

https://arstechnica.com/science/2023/07/current-heatwaves-almost-impossible-without-climate-change/

2023年7月、アメリカの南西部やメキシコ、南ヨーロッパ、中国など、北半球のいくつかの国と地域で極端な熱波が発生し、7月16日にはアメリカのデスヴァレー国立公園や中国北西部で気温が50度を超えたことが報告されています。

World Weather Attributionが「極端なイベントアトリビューション」と呼ばれる手法を用いて分析を行った結果、温室効果ガスの排出などに伴う地球温暖化によって、地球の平均気温が産業革命の時代からセ氏2度上昇すると、2023年7月のような熱波は2〜5年ごとに発生することが判明しました。World Weather Attributionは「世界が化石燃料の使用をただちに停止しない限り、これらの出来事はさらに一般的になり、地球はさらに熱く、より長く続く熱波を経験することになるでしょう」と推測しています。

以下はWorld Weather Attributionによる分析の結果です。北アメリカや南ヨーロッパ、中国の一部の地域では2023年7月に最高気温が連日セ氏30度を超えていることが確認できます(左)。また、同時期の平均気温を1950年〜2023年で比較した結果、これらの地域の平均気温は過去70年で上昇していることが明らかになりました(右)。



また、温室効果ガスの排出量が現在と同じペースで増加した場合、約30年以内に地球の平均気温がセ氏2度以上上昇するとされています。

World Weather Attributionは「人間の経済活動によって産業革命の時代からセ氏1.1度暑くなった現在の気候では、2023年7月のような極端な熱波はもはや珍しいことではありません」と述べ、「このような熱波は、北アメリカでは約15年に1回、南ヨーロッパでは約10年に1回、中国では約5年に1回発生すると予想されます」と報告しています。

さらに、World Weather Attributionは、温室効果ガスの汚染によってヨーロッパでの熱波がセ氏2.5度、北アメリカでセ氏2度、中国でセ氏1度上昇したことを分析しています。World Weather Attributionによると、北アメリカのヨーロッパのここまでの熱波は地球温暖化の影響がなければほとんど発生し得なかったとのこと。

World Weather Attributionのフリーデリケ・オットー氏は「気候変動における温室効果ガスの役割は非常に大きく、2023年7月の記録的な猛暑が世界で同時多発的に起こっているのは当然のことです。温室効果ガスの排出量はここ数年でますます増加しているので、記録的な猛暑の発生が観測されるのは驚くべきことではありません。私たち気候学者は以前からこのような状況が起こることを予想していました」と指摘しています。



さらにオットー氏は「気候変動に対する人類の社会システムと生態系の脆弱(ぜいじゃく)性は、これまでの数十年で十分な研究が行われてきませんでした」と述べ、極端な気候への準備が遅れていることを指摘しています。

しかし、温室効果ガスの排出量をただちに減少させる国家間の取り組みは遅々として進んでおらず、一例として、2023年7月25日に行われたG20の会合では、「化石燃料の段階的廃止に関する合意」が締結されることはありませんでした。



2022年夏のヨーロッパでは熱中症によって約6万1000人以上が死亡したことが報告されており、2023年の夏ではさらに多くの犠牲者が発生することが見込まれています。赤十字・赤新月気候センターのジュリー・アリギ氏は「極端な猛暑に対する考え方に関して、文化的な変化が必要です」と主張しています。アリギ氏は「猛暑から命を救うために、高齢者や基礎疾患がある人、ホームレスの人、涼しい空間へのアクセスが制限されているコミュニティなど、最も弱い立場にある人々へのサポートが必要です」と述べています。

さらにアリギ氏は「多くのコミュニティでは依然として適切な熱中症警戒アラートや、猛暑に対する行動の指針が作られていません。また都市計画や健康、電気、水、輸送などの重要なシステムにおける猛暑からの回復力の強化など、必要な投資が行われていません」と指摘しています。

オットー氏は「2023年7月の熱波は異常気象ではなく、もはや一般的な気象です」と強調しています。また「覚えておいてほしいのは、極端な猛暑は人々を死に至らしめるだけでなく、人々の生活を傷つけ、破壊してしまうことがあります」と述べています。