弁護士指摘「寿司ペロ訴訟勝ち取れて800万円」の衝撃的理由…やったもん勝ち、ヤラレ損の実態「収入と親が出す出さない」

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 世間を賑わせた寿司ペロ事件。寿司チェーン側は訴訟までに踏み切ったが、実際のところいくら勝ち取ることができるのか。作家の小倉健一氏が消費者問題に詳しい野澤隆弁護士に聞いたーー。

「謝罪」と称する動画をアップしていたが…

 2023年2月、名古屋市中区にある回転寿司チェーン「くら寿司」の店舗で「迷惑行為」を撮影してSNSに投稿し、21歳の男が逮捕・起訴された。東海テレビ(4月25日)の取材によれば、同事件の容疑者は「ご迷惑をかけて本当にすみませんでした。本当に二度としないので、本当にもうまじめな環境に身をおいて、本当にもう反省してるので、本当に申し訳ございませんでした」「まず真っ先に出てきたら、弁護士さんと話したんですけど、ご迷惑をおかけしたくら寿司さんに、反省文を渡しに行こうと思っていました」として、くら寿司に向かい、反省文をエリアマネージャーと店長に渡してきたのだという。

 同容疑者は、問題の動画を撮影した直後、「謝罪」と称する動画をアップしていたが、嘲笑すら含まれているような態度に、大きな批判が上がっていた。「面白半分というか、そういうので撮ってみたら人気になれるんじゃないかって感じですね。本当にそれだけの理由で…ここまで大きくなると思っていなかったんで」「その場の空気ですね。その場のノリというか。炎上したんですよね。知り合いには『すごい』みたいな『おもしろい』みたいな感じでありましたけど、他の人は『汚い』とか『迷惑してる』とか、コメントたくさん来ていしたね」とコメントしている。

 その後、東海テレビの番組では、元受刑者らを雇用し、社会復帰を支援する企業との面談のため、大阪へ赴いている様子が報じられていた。

消費者にとって寿司チェーンへの衛生的な不安が広がったのは事実

 他の寿司チェーンでも「寿司テロ」は頻発している。例えば、「スシロー」の運営会社「あきんどスシロー」が3月、迷惑行為をした岐阜県内の男性に約6700万円の損害賠償を求める訴えを大阪地裁に起こした。「訴状によると、男性は岐阜市内の店舗で1月、しょうゆのボトルや湯飲みをなめたり、レーンを流れる商品につばをつけたりする行為をした。スシロー側は、その様子を撮影した動画がSNS上で拡散された後、全国の店舗で客数が大幅に減り、株価も急激に下落したほか、迷惑行為の対策などのコストも生じたと主張している」(朝日新聞・6月9日)のだという。

 こうした飲食店への迷惑行為は、ずっと昔から頻繁に行われていた可能性が高いのだが、SNSの普及により爆発的な伝播と大炎上をすることになったというのが実際のところではないだろうか。過去から続いてきたこと、そしてまた「飯テロ」が寿司チェーンだけではないのだが、消費者にとって寿司チェーンへの衛生的な不安が広がったのは事実だ。

 消費者問題に詳しい城南中央法律事務所の所長・弁護士野澤隆氏は、次のとおり解説する。

弁護士は「訴訟は外向けのアピ-ル」と指摘。加害者側との和解交渉進む可能性

「企業損害の請求は、領収書等に基づき立証する要素で構成される実費系損害と、『来ると見込んでいたお客が何人失われ、その結果、固定経費がいくら無駄にされ、お客1人当たりにつき何円・人数分合計何円の利益が喪失した』『(目には見えないが)会社のブランド価値が何円損なわれ、また、(株価というのは複雑な要素が絡み合って乱高下することを前提としつつ、)事件が原因で株式時価総額が何円下落した』といった要素で構成されるフィクション系損害に分けて検討されます。フィクション系損害の請求難度が高いことは容易に想像できるところであり、加えて、『そこまで手広く大金をかけて事後対策する必要があったの?』といった行為との因果関係的視点、『大量仕入れ・大規模宣伝システムを前提とした多店舗展開で、1店舗の不祥事が全体のブランド価値毀損につながりやすく、かつ各店舗で店員の目などがもともと行き届きにくい構造である以上、客用テーブル上に置きっぱなしにするのではなく、顧客ごとに醤油提供等をしておいてもよかったのでは?』といった過失相殺的議論なども争点として浮かび上がります。

 結局、寿司チェーン店側も、『(世間の関心がまだ高いということもあり、)いたずらすると大変な目にあうぞ』といった外向けにアピールする面も重視する形で各種対応をしていると思われ、加害者側との和解交渉等は、裁判官の心証だけでなく、世間の動向や株主の意向などといった特殊要素もふまえ進められることになるでしょう」

勝ち取れる賠償総額は300万~800万円

 現時点では具体的な和解交渉や裁判手続き等はあまり進んでいないが、実際の賠償はどのような結末を迎えることになるのか。野澤隆弁護士は、予測的・仮定的な部分が多々あることを前提に次のとおり分析する。

「日本では懲罰的損害賠償はほとんど認められておらず、フィクション系損害を中心とした事柄の立証にお金と時間をかけても、『そもそも判決で認められるのか?』に加え『判決等に基づく強制執行の実行力が我が国では弱く、判決正本を何とか取得したが強制執行段階で行き詰まるケースはかなり多い』のが実情ですので、少なくとも和解するとなれば、相手方の収入、フトコロ具合などを見極め、ある程度妥協せざるを得ません。判例の傾向等をふまえて、めいわく行為・パワハラ行為系が10万から200万円程度、性的重大被害系が500万から1000万円程度、が一応の一般的基準であると仮定し今回はその中間だろうと判断した場合、『賠償総額を300万から800万円の範囲内で決め、親については頭金拠出に協力させた上で残額の分割払いの連帯保証人にもなってもらう』といったあたりで話をまとめられれば一定の成果を得たといえるでしょう」

消えていく回転する寿司…

 実際の損害額でなく、加害者側の収入やフトコロ具合で和解金額が決まってしまうと言うのは、被害者の側からすれば、やられ損であり、なんとも歯痒い思いだろう。迷惑系YouTuberのように迷惑をかけてもやったもん勝ちということなのだろうか。

 スシローは、一連の「ペロペロ動画」と呼ばれた動画の大炎上によって、全店舗で「注文した商品のみを提供する」オペレーションに変更した。大きなセールスポイントであった寿司の「回転」をやめたのである。NHKによれば、回転をやめたのは、スシローだけではないようだ。「歴史的に見ても、回転寿司はそのスピード、バラエティー、お得感から人々を惹きつけてきた。客は選択肢の多さを楽しみ、ユニークなサービススタイルが観光客にも人気だ。しかし、レストランによってはそうでないところもある。長寿丸は東京とその近県を含む関東地方に約90店舗を展開する大手寿司チェーンである。その東京の人気店のひとつが昨年10月、すでに危険を回避する形で全面改装された。以前は大きなベルトコンベアーが客席を走り回り、タッチパネルを使って個別に注文することもできた」(4月17日)という。

「注文式ではピーク時にオーダーがさばききれなくなる」

 これによって、他の客が注文した寿司を取るというミスがなくなるということなのだが、お客の楽しみも奪われたのではないだろうか。番組内では、「日本国内の4000~5000店舗の約80%がすでに回転寿司を止めた」という推定もあった。

 回転する寿司は「注文式ではピーク時にオーダーがさばききれなくなる」「タッチパネルではどうしても味気ない」「さまざまな商品を回して見せることで魅力を視覚的に訴える効果もある」という効果があるとされていて、今後、元・回転寿司業界の動向が注目されているところだ。