「株は安く買って高く売るもの」それは投資初心者にありがちな誤解といえます(写真:taa/PIXTA)

投資初心者にありがちな誤解「株は安く買って高く売るもの」。

たしかに売却益を狙う投資手法もありますが、安定した配当金をくれる銘柄を長期的に保有、配当金を再投資して資産を雪だるま式に育てる手法も存在します。

そこで本連載では凄腕投資家たちに「一生涯、保有に値すると考えて、購入した銘柄」(=永久保有銘柄)についてインタビュー。「なぜ持ち続けるのに値すると考えるのか」「どの価格帯で買ってきたか」などを尋ねることで、読者の皆様に「銘柄を定量的に分析する目」を養っていただくことを狙います。

連載初回では、本連載の聞き手であり、『半オートモードで月に23.5万円が入ってくる「超配当」株投資 日経平均リターンを3.86%上回った“割安買い”の極意』などの著書を持つ個人投資家・長期株式投資氏が、永久保有を明言する17銘柄の1つである「日本電信電話(以下、NTT)」について、解説します。(本記事は後編です。前編はこちら

NTTの配当政策について

前編では私自身の投資歴の話や、NTT株がオワコン扱いされてきた背景、NTT株の「EPS(1株利益)」の推移についてお話ししてきました。後編では、「配当」「永久保有性」「どの程度の水準なら買っていいか」についてお話ししていこうと思います。まずは「配当」について解説します。

企業が利益を生み出しても、それを株主に還元しなければ、投資家として恩恵を多く受けることはできません。その点、NTTは12期連続(今期で13期になる見込み)で増配している、株主還元に積極的な企業です。


NTTの経営指標等。1株利益や配当額は25分割前の数値/出所:『半オートモードで月に23.5万円が入ってくる「超配当」株投資 日経平均リターンを3.86%上回った“割安買い”の極意』

HPには《株主還元に関する基本方針》がありますが、配当についての言及はシンプルで、「株主還元の充実は、当社にとって最も重要な経営課題の1つであり、継続的な増配の実施を基本的な考え方としております。」と、1行軽く書いてあるだけ。ただ、これはネガティブなことではなく、「それで十分」ということなのだと思います。それはなぜか。


(出所:NTT公式サイト)

比較対象をあげて考えてみましょう。例えば上場企業の中には、「配当性向30%」などと明言している会社があります。わかりやすく言うと、「1年間で出た利益のうち、30%を配当に充てます」という意味合いです。利益が多く出た年は問題ありませんが、利益が減ると株主への配当額も減る(=減配)可能性があり、配当がなくなる(=無配)こともありえます。

しかし、NTTの場合、12期(今期で13期になる見込み)にわたって「増配」を続けているという、純然たる実績があります。この「増配」というのがポイントであり、株主としては購入時点の株価で、現時点での配当利回りが計算できます。だからこそ、HPでも簡潔な記載で十分なのです。

なぜNTT株が「永久保有に値する」のか

ここまでNTT株について分析してきました。ただ、それでも未来はわからないもの。「本当に保有し続けて大丈夫なのか?」と思う方もいるでしょう。

もちろん未来は不確定ですので、100%絶対大丈夫とは言い切れません。しかし、NTTは現在業界首位で、世界でも有数という座を長年保っている企業です。今後も保ち続ける蓋然性(がいぜんせい)が一定程度あると考えられます。

さらに、同社の場合、ビジネス環境の変化に適応できる組織力も有していると考えられます。これはKDDIにも当てはまる話ですが、両社ともに音声の時代から通信の時代に変わったのを経て、今はプラットフォーマー、通信を核にして音楽動画配信サービスや農業など、幅広くビジネスを展開しています。中核事業に付随するビジネスをいくつも作って、しっかり利益を確保しているイメージです。

上場企業の決算資料を読むと、「セグメント」という言葉が登場します。これは企業が提供するビジネスごとの塊を指す言葉で、NTTの場合、今は「総合ICT事業」「地域通信事業」「グローバル・ソリューション事業」「その他(不動産、エネルギー等)」という、4つのセグメントから成り立っています。

前編で、バブル崩壊で損をした投資家たちが現役だったこともあり、銘柄へのイメージが悪かったというお話をしましたが、音声中心だった昭和〜平成初期の頃とは、企業としての実像が大きく変わっているのです。


(出所:IRプレゼンテーション資料の5ページ目)

またNTTの場合、「IOWN(アイオン)」という世の中を一変させる可能性があるビジネスも進行中であることも、注目すべきポイントです。このプロジェクトは「データ伝送容量が125倍になる」「電力効率が100倍になる」などが売りで、実現すれば社会に大きなインパクトを与えることが予想されます。

電力不足の解消にもなりますし、いろんな会社が取り入れる余地もあります。安定した大手企業で、こういうプロジェクトをやるのは夢のあることだと思いますし、投資家に利益を還元しつつ、新たな事業に投資していく姿勢も好感が持てます。

優秀な企業は、準備を欠かさず、自ら将来を作っていきます。業界トップの企業は、ビジネスの革新をそれだけ長きにわたって行い続けてきているのです。

KDDI、ソフトバンク、楽天と比較すると…

なお、同じく携帯端末事業を手掛ける会社として、KDDIは決して悪くはありませんが、個人的にはIOWNのようなインパクトと希望のあるビジネスを期待したいところ。

ソフトバンクは自己資本比率が10%台と、NTT、KDDIと比較して低すぎるため、財務健全性に懸念があります。業績がいい時はいいものの、悪い材料が出て業界全体が沈んだ時に、影響が出てくる可能性があるのです。

自己資本比率:総資産のうち純資産(新株予約権を除く)の占める割合のこと。自己資本比率が高い企業は、一般的に財務健全性が高いと考えられます。

また、成長性という面でも、ソフトバンクには疑問が残ります。ソフトバンクは配当性向85%を打ち出しており、これは投資家目線では魅力に感じますが、言い換えるとほとんどの儲けを株主に還元しているということでもあり、中長期的に見ると新たなビジネスを作ることを犠牲にしているとも考えられるのです。配当性向が高いだけで、選択する理由にはなりません。

楽天はそもそもモバイル事業で利益を上げていないため、私個人としては投資対象外としています。

以上のような理由により、私はNTT株について、「とくに売る理由がないのでそのまま持っている」というスタンスでいます。

前編でお話しした通り、NTT株は国(財務大臣)が株式の3分の1を保有する大株主となっており、過去にあった携帯電話料金の引き下げ圧力など、政治的思惑による影響を受ける可能性は払拭できない面があります。そういう事象はなかなか予想できず、通信料引き下げによる影響で、NTT株は2018年11月に一度ストップ安になっています。そのようなリスクも、NTT株には存在しています。

ただ、それでも私にとってNTTが優良な投資先であることに変わりはありません。また、このような過去を知っていると、焦らずに済むもの。心理面で事前に想定があると、実際に起きた時に冷静な判断ができるものです。

「こういう条件でこういう理由で持つ」と自分の中で決めて、実際にその通りに進めば、永久保有銘柄はほぼほぼ売却する理由がないのです。

実際、NTT株はいつ、どの程度の価格なら買っていい?

オワコン扱いされていた頃と異なり、安定した業績や配当が評価されて、現在では再び評価されるようになってきているNTT株ですが、今年5月に大きなニュースが流れました。7月1日付で、同社の株式が25分割されることが発表されたのです。

そして先日、25分割の効力が発生。1株が170円前後となり、1単元(100株)でも1万7000円から投資できるようになりました。(※その後、株価は162円程度まで下がっています)

「25分割なんて、今後どう株価が動くのかわからない……」

そう思って購入を躊躇している方もいるかもしれませんが、私としては「100株を、家族名義分購入してもいい」と考えています。理由は、株主優待のdポイントにあります。

NTTは以前から、100株以上保有する株主を対象に、2年以上の保有で1500ポイント、5年以上の保有で3000ポイント、dポイントを進呈してきました。1株4000円だった頃の水準では、約40万円かけて得ることができた権利だったのが、25分割後でも、100株の保有で進呈の対象になっているのです。

仮に1株を170円とすると、1万7000円で4500円の還元を5年以上の保有(3月末の権利を6回またぐ必要があり)で受けられることになります。dポイントだけでも4%強、配当を足せば7%程度の利回りが期待できる計算です。こういう条件は、今の株式市場では他にありません。

今後利回りが3.5%になることはそうそうない

なお、近年値上がりの傾向にあるNTTですが、指標的に見ると現在の価格に、そこまで加熱感はありません。どういうことか。前編で触れた、PER(株価収益率)という指標を使って解説しましょう。

PER(株価収益率):株価が1株利益(EPS)の何倍まで買われているかを見る指標。5〜10年間の推移を見ることで、その会社の株価が現在「割高か」「割安か」を測ることができる。

PERは株価がEPS(1株利益)の何倍まで買われているかを見るもので、株価の割高さ、割安さを測る代表的な指標です。


NTTの場合、2010年代以降、PER(株価収益率)が10.6〜15.6程度で推移してきました。そして、現在のPERは11.0となっています。株価チャートだけを見ると上がりきった印象を覚える人もいるかもしれませんが、指標的にはそこまで過熱感はないのです。

なお、同社はここ10年で株主が4倍に増えているのですが、それでいて今でも過熱感がないのもポイント。それだけ資本配分が優れており、株主還元を意識した経営がなされているということです。

NTTの経営は穴がないため、相場全体が崩れてどんな株でも売られるような相場環境にならない限りは、今後利回りが3.5%になることはそうそうないと思いますが、数年前のストップ安のように突発的な事象が起こらないとも限りません。

配当利回りで言えば3%以上を確保しつつ、可能であれば3.5%〜4%程度を確保できれば文句はないでしょう。

(構成:東洋経済オンライン編集部・岡本拓)

(注意書き)本連載では「永久保有に値する」と、著者や登場してくださった個人投資家が考えた銘柄を紹介していきますが、「結果を出している投資家が、どんな考えで、どのタイミングで株を購入しているか」を学ぶことを本質的な目的としています。株式投資にはさまざまなリスクがつきものです。それらを正しく認識したうえで、自分自身の判断と責任に基づいて行ってください。

(長期株式投資 : 「日本の配当株」メインの個人投資家)