1アウト三塁をつくるためにはいろいろな方法があることを頭に入れておく

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なぜ小学生が大人の指示がなくても、自らプレーを選択・決断できるのか。なぜ毎年強いチームであり続けるのか。

「座学」と「練習」で子どもたちの先を読む力、主体性を引き出す辻流指導法が凝縮された一冊、「多賀少年野球クラブ『脳(ノー)サイン野球』で考える力と技術が自然に伸びる!」が7/10(月)に発売されます。本書の中から、第一章【「脳サイン野球」を行うために必要な座学】の一部を紹介します。

【第1章「脳サイン野球」を行うために必要な座学】

1アウト三塁をつくるためにはいろいろな方法があることを頭に入れておく

さて、座学の話に戻ります。得点するには1アウト三塁をつくれるかどうかがポイントになるわけですが、ここで応用問題です。

「1アウト三塁の場面では許されても、ノーアウト三塁の時にはバッテリーがバッターに対して避けなければいけないことは何でしょうか?」

答えはフォアボールとデッドボールです。少年野球では、一、三塁になると、かなり高い確率で一塁ランナーの盗塁が成功します。守備側は一、三塁とされた時点で、二、三塁にピンチが広がる確率が高くなります。「1アウト三塁またはノーアウト二塁=1点」という私たちの考え方では、1アウト二、三塁は1点止まりです。ところが、ノーアウト二、三塁は2点入ります。つまり、1アウト三塁とノーアウト三塁では、フォアボールやデッドボールでランナーを許す意味合いが全く違うのです。

そう考えると、バッテリーとしては1アウト三塁の時はスクイズを警戒してボールをウエストしたり、三振を狙って厳しいコースを続けたりする幅広い選択肢を持てます。結果的にフォアボールを与えても構わないからです。しかし、ノーアウト三塁の場面ではフォアボールが失点に直結するので、ストライク先行の投球が求められます。

もう1つ応用問題です。

「攻撃で1アウト満塁のチャンスをつくりました。バッターのカウントは3ボール、ノーストライクです。得点を取るために有効なサインは?」

この場面ではエンドランのサインが効果的です。ピッチャーはストライクがほしいので、甘いボールが来る確率が高くなります。ランナーがスタートを切れば、シングルヒットでランナー2人が生還できます。投球がボールなら見送って押し出しとなります。もちろん、バッターが空振りして、三塁ランナーが三塁とホームに挟まれてアウトになる可能性はありますが、エンドランのサインを出したバッターは空振りとフライを避ける打ち方をしますし、それができる練習をチームでしています。

このように、状況に応じてどんなプレーを選択すれば良いのか、場面別に説明していくのが座学です。選手たちは座学で私の考え方を全て身に付けているので、私が試合中にサインを出したり、指示したりする必要がありません。

この座学は、小学校低学年や園児にもしています。当然ながら、最初は私の言っていることが全然理解できません。それで構わないんです。子どもたちには「ホワイトボードをボーっと見ておいて。そのうち、自然と分かるようになっているから」と話しています。座学は基本的に雨で練習ができない時に行い、同じ内容を同じ構成で繰り返し子どもたちに伝えます。そうすると、子どもたちから「覚えてる」、「それ分かる」といった声が上がります。私が「点数を取るにはノーアウト二塁が大事になるけど、どうやったらつくれる?」と質問すると、「先頭バッターがツーベースを打つ」、「フォアボールで一塁に出て盗塁する」とテンポ良く答えが返ってきます。「この場面でランナーは、どうやって動くんだった?」と聞けば、「二塁で止まる」と自信満々に子どもたちは回答します。

この時に大切なのが、保護者も一緒に参加してもらうことです。当たり前ですが、子どもは話を聞き漏らすケースがありますし、人生経験が少ないので言われた内容を活字で覚えようとする傾向があります。経験豊富な大人は聞いた話を映像化して覚えられます。保護者が座学の内容を把握すれば、自宅で子どもと一緒に復習できます。元々は野球のルールが分からなかったお母さんでも、何度か座学に参加すれば十分に理解できます。野球の戦略や戦術が家族共通の話題にもなりますし、親の積極性は子どもの成長と比例すると感じています。

座学を始めようと思った時、私には迷いがありました。少年野球は毎年、小学6年生が卒団し、新しい選手が入ってきます。座学の分量は少なくないので「毎年、一から教えるのは、しんどいだろうなあ」と想像していました。しかし、選手が頭を使ってプレーする楽しさを知り、自ら考える野球を体現するには、座学が不可欠だと分かっていたので覚悟を決めました。

選手たちは私の考え方を想像以上に吸収していきました。そして、思わぬ収穫もありました。練習の最中に、最上級生の6年生が5年生や4年生に「今は無理して三塁を狙う場面ではないよ」などと教えているんです。

今度は上級生に教わった子どもたちが、自分より下の学年に教えるようになります。こうした流れが自然とチームに浸透していきました。子どもは知っていることを教えたがる傾向にあります。お兄ちゃんになった気分になるのだと思います。子ども同士のコミュニケーションは、私が座学で直接伝えるよりも効果が高く、どんどん知識を深めていきました。小学1年生からチームに入った選手は、3年生の段階で大人と同じくらいの考え方ができるようになっています。

*続きは本書からお読みください。

【目次】

第1章 「脳サイン野球」を行うために必要な座学

第2章 練習の組み立て方と進め方

第3章 指導者や保護者からよく聞かれる10の質問

第4章 他チームの指導者から見た多賀少年野球クラブ

第5章 「脳サイン」野球から「令和の根性野球」へ

【詳しく見る】

辻正人(多賀少年野球クラブ監督)著

カンゼンから2023年7月10日発売

1800円+税