ちいかわの「1分アニメ」朝の放送に合う納得理由
ちいかわたちとめざましくん ©ナガノ / ちいかわ製作委員会(撮影:梅谷秀司)
Z世代はじめとした若年層だけではなく、30〜40代の社会人の間でも人気になっている『ちいかわ』。もともとTwitterから生まれたキャラクターだが、その人気を幅広い層へと押し広げる火付け役となったのがフジテレビ系の朝の情報番組『めざましテレビ』内でのアニメ化だ。
2022年1月から『ちいかわ占い』が始まり、同4月には週1で番組内で1分程度のアニメ放送をスタート。今年4月からは週2回に拡大した。老若男女に愛される人気の理由と朝の情報番組との親和性を考えてみる。
社会人への認知を広げた朝の情報番組内アニメ放送
2017年にイラストとしてTwitterに投稿された『ちいかわ』。その後、ショート漫画の連載になり、じわじわと人気が広がった。かわいらしいビジュアルのキャラクターたちの何気ない日常の物語は、特に若い世代や女性層の心を掴んでいった。
『めざましテレビ』フジテレビ系にて毎週月〜金 午前5時25分放送/ テレビアニメ『ちいかわ』毎週火・金 午前7時40分ごろ『めざましテレビ』内にて放送。 ©ナガノ / ちいかわ製作委員会
昨年4月から『めざましテレビ』内のミニアニメとして放送がスタートすると、瞬く間に幅広い層に知られるようになった。同番組のメイン視聴者層の30〜40代の社会人をはじめ、男性も含めた老若男女から愛される大人気キャラクターになった。
同時に、かわいさだけではない、キャラクター性やストーリーは、朝の情報番組とマッチし、いまや『めざましテレビ』にとっても『ちいかわ』は不可欠なコンテンツになっている。
そもそも『ちいかわ』は、なぜ『めざましテレビ』内でのアニメ放送となったのか。
フジテレビ・アニメ制作部の障子直登氏は「アニメ制作部にアニメ化のお話をいただきました。1話が1ページの漫画をアニメ化するにあたって、1分ほどのミニアニメとして考えました。それを今年30年目を迎えたフジテレビの看板番組の中でやらせていただきたいと考えて、プロジェクトがスタートしました」と振り返る。
アニメ『ちいかわ』19話 ©ナガノ / ちいかわ製作委員会
『めざましテレビ』のコンセプトは、1日のはじまりに視聴者それぞれの心のスイッチをオンにして、ポジティブな気持ちになってもらうこと。そこにつながる、頑張る人を応援するようなショートコーナーが積み重なって番組が成り立っている。
『ちいかわ』は子ども向けに見えながら、キャラクターたちが労働をして頑張っている姿などが、幅広い年代の心に刺さっている。漫画が持つ世界観は、番組が視聴者に届けたいコンセプトと親和性の高いコンテンツだった。
フジテレビ・アニメ制作部の障子直登氏(撮影:梅谷秀司)
フジテレビ『めざましテレビ』チーフプロデューサーの高橋龍平氏は、「コンセプトも描かれる世界観も『めざましテレビ』とシンクロします。(提案を受けた際に)世の中でも『ちいかわ』に対する熱量があり、まさに社会的なブームになる直前だと感じました。情報番組として、時代を捉える新しいコンテンツとタッグを組ませていただくことがとても重要なことなので、ぜひご一緒させていただきたいと思いました」と企画時の心境を明かす。
フジテレビ『めざましテレビ』チーフプロデューサーの高橋龍平氏(撮影:梅谷秀司)
たしかに、大人向けの深夜アニメ放送枠よりも、小さな子供も大人も楽しめる朝の情報番組のほうが、『ちいかわ』の内容との相性がよく、視聴者の属性とも合っているだろう。幅広い視聴者層が見る『めざましテレビ』での放送が、『ちいかわ』を老若男女に愛されるコンテンツとして育てている側面もありそうだ。
公式アカウントフォロワー数、YouTube再生数共に激増
昨年4月から週1のアニメ放送がスタートすると、その影響は顕著に現れた。
『ちいかわ』(ナガノ氏)の公式Twitterアカウントのフォロワー数は、アニメ化前の80万から伸び続け、現在では220万を超えている。『めざましテレビ』YouTubeチャンネルの登録者数もアニメ化前の18万から現在は40万ほどに増えた。
高橋氏は「アニメ配信は毎話150万回ほど再生されており、番組YouTubeチャンネルのほかの動画と比べると圧倒的に再生回数が多い」とその人気ぶりを語る。
そんな中、この4月からは週2回の放送に拡大した。障子氏は「週2回、楽しみにしていただきながら、続きもののお話もあるので、追っていただきたい。1話1話を大切に、アニメを長く見ていただきたいと考えたときに、ちょうどいいペースになっていると思います」と語る。
『ちいかわ』と『めざましテレビ』とのタッグには双方にメリットがある。
アニメ化により、『ちいかわ』は高齢者などSNSだけでは届けられない層にも広く認知されるようになった。さらに、朝の情報番組内での放送だからこそ、アニメ放送だけでなく、グッズや関連イベントなども番組内で紹介することができ、多面的なアプローチをすることが可能となっている。
ナガノ氏とも意見交換を行う
一方、『めざましテレビ』にとっては、時代の先端をいく人気コンテンツを独占放送し、一緒に育てていくことができるメリットがある。現在、同番組の30周年ポスター2種のうちの1つは『ちいかわ』と番組キャラクターの『めざましくん』になっている。
ちいかわたちとめざましくん ©ナガノ / ちいかわ製作委員会(撮影:梅谷秀司)
番組との相乗効果が生まれているアニメ化には、原作者のナガノ氏もアニメ制作スタッフとのコミュニケーションを密に取ってクリエイティブに関わっている。
「『めざましテレビ』の中で放送するアニメとしてどう落とし込むかというときに、音楽の有無など細かな意見交換をさせていただき、番組全体の中でこういうふうに放送していきたいということをお話しさせていただいています」(障子氏)
『ちいかわ』がZ世代など若年層と相性がよく、現実社会とリンクする内容で社会人層にも訴求していることはこれまでにも伝えられている。では、実際にアニメ化を手がけたフジテレビの障子氏と高橋氏は、30〜40代の視聴者層に受け入れられている理由をどう捉えているのだろう。
「その世代がまさにアニメで描かれるような現実社会の問題に直面しています。ファンシーな世界の中で追体験することで、心を奪われてしまうのではないでしょうか。現実的かつ人間味のあるストーリーに加えて、作品のかわいらしさを好きになって楽しんでいただいています。そこが大きいと感じます」(障子氏)
「自分たちの世界で起きていることがアニメの中にもあり、そこで健気でポジティブに頑張る姿が大人にも受けています。ファンタジーだけではないところが『ちいかわ』のよさではないでしょうか。1分間で作品の世界観にぐっと入っていける。視聴者が自分を投影する対象になっています。時代とマッチした、自分を重ねられる共感性の高いアニメだからこそ支持が広がっているのでしょう」(高橋氏)
ちいかわは発展性の高いコンテンツ
そんな『ちいかわ』は、コンテンツとしての発展性も高い。すでに『ちいかわ』3体の着ぐるみは全国各地を巡業する『めざましテレビ30周年フェス』などで大人気になっており、フジテレビ開局65周年イベントとして開催される『お台場冒険王2023 SUMMER SPLASH!』<7月22日(土)〜8月27日(日)開催>ではオリジナルグッズやグルメも登場する予定だ。
その先には映画化やアニメ番組化といった映像作品としての拡張も視野に入ってくるかもしれない。『サザエさん』や『ONE PIECE』などフジテレビ発の長く愛されるアニメ作品は多い。『ちいかわ』を次なる国民的アニメに育てるべくプロデュースしていくようだ。
(武井 保之 : ライター)