Gacha Popのジャケット

写真拡大

音楽配信サービス・スポティファイに登場した公式プレイリスト「Gacha Pop(ガチャポップ)」に大きな注目が集まっている。

音楽ユニット・YOASOBIの「アイドル」、ミュージシャン・藤井風さんの「死ぬのがいいわ」、女性アイドルグループ・超ときめき宣伝部の「すきっ!〜超ver.〜」、ボーカロイド・初音ミクが歌うsasakure.UKさんの「トンデモワンダーズ」など、多種多様な楽曲を一つのリストに束ねる。SNSではその意図を探る声が広がった。

いったいどんな狙いがあるのか。J-CASTニュースは2023年6月14日、スポティファイジャパンの音楽企画推進統括を担当する芦澤紀子さんに取材した。

「カラフルなカプセルトイのように、何が飛び出してくるか分からない」

ガチャポップは、5月9日に公開された。プレイリストには、次の説明が添えられている。

「What pops out!? Roll the gacha and find your Neo J-Pop treasure.
(編集部訳:何が出る!? ガチャを回して新たなJ-POPのお宝を探してね)」

音楽ライターの小熊俊哉さんが5月30日、ツイッターで次のように紹介したことをきっかけに、注目を集めた。

「日本の音楽を海外に届けるには、藤井風など現行シーン?シティポップ?アニソンなど一括りにした『J-POPに取って代わる新しいワード』が必要という話があったわけだけど、海外ウケという意味では絶妙なネーミング」

小熊さんのツイートは6月16日までに3000件を超えるリツイート、1万1000件を超える「いいね」が寄せられるなどの大きな反響があり、「最高に可愛い名前でよい」「確かに最近増えてきた新しい姿のJPOPが並んでいた」などと共感する声が寄せられている。

取材に対し芦澤さんは、プレイリスト名について、カプセルトイのガチャとポップを掛け合わせた造語だと説明する。

「日本で独自の進化を遂げたカラフルなカプセルトイのように、何が飛び出してくるか分からないワクワク感を表しています。ガチャという語感も合っていて、日本のカラフルなポップカルチャーを表現するのにふさわしい言葉ではないかと考えています」

海外視点の「日本のクールなポップカルチャー」を参考に

芦澤さんは、スポティファイではこれまでアニメに関連する楽曲が世界中で聞かれる傾向が強かったと説明する。

大手音楽系事業統括会社・ソニー・ミュージックエンタテインメントが、1995年にアニメ配信を手掛ける子会社「アニプレックス」を立ち上げて以降、アニメと音楽を連動させるビジネスは加速したという。2000年代には「鋼の錬金術師」、「BLEACH」、「NARUTO」などの主題歌やエンディングテーマが世界で聴かれていた。

さらに昨今は、スポティファイともコラボレーションを行った劇場版アニメ「ONE PIECE FILM RED」や「すずめの戸締まり」のように、「音楽とアニメの相乗効果による進化した取り組みも生まれている」という。

「逆に、アニメとタイアップを獲得しなければ、日本の音楽が世界で聴かれづらいのではないかという発想が広がっていました。
今は、その状況に変化が生じています。ストリーミングの広がりも後押しし、必ずしもこの枠組みにあてはまらずとも世界で聴かれる機会が増えました。そういった世界に進出する可能性のある日本の楽曲を詰め込んだプレイリストがGacha Popです」

背景としてスポティファイでは現在、アニメ作品のテーマ曲だけでなく、シティポップ、ローファイヒップホップ、「ボーカロイド」などの音楽ソフトで作った楽曲、VTuberによる楽曲など、多様な音楽が海外で聴かれているという。

「ここ数年海外でバイラルヒットとなった代表的な国内アーティストの楽曲としては、松原みきさんの『真夜中のドア〜Stay With Me』、YOASOBIの『夜に駆ける』、藤井風さんの『死ぬのがいいわ』などが挙げられます。これらのヒットはバラバラの現象に見えますが、拡散の過程にアニメーションによる表現が加わるといった共通点がありました」

アーティスト写真やミュージックビデオがアニメ風だったり、リスナーがアニメのワンシーンを想起させる内容とともにSNSなどで音楽を拡散したりしていた。さらに海外のアニメ好きの配信者がカバーした楽曲が注目を集めることもあった。

「楽曲自体はアニメ曲ではなくてもアニメ風な表現と掛け合わせられることによって、アニメやゲームなどに隣接する『日本のクールなポップカルチャー』という別の価値観で海外の人々を魅了していたのではないかと、仮説を立てました」

海外で発見された日本の魅力を取り入れる「カリフォルニアロール現象」

芦澤さんは、海外の視点から日本の魅力を捉えることで新たな価値が生まれる現象を、「カリフォルニアロール現象」と呼ぶ。日本発祥の寿司を土台に海外で独自に発展したアメリカの創作寿司「カリフォルニアロール」のように、日本の既成概念にとらわれず、海外から見た日本のポップカルチャーを象徴する楽曲を「Gacha Pop」と名付けたプレイリストを通して紹介している。

「日本人から見たらシティポップとアニメ、ボーカロイドなどの音楽は、バラバラのジャンルで一緒に並べるようなものではありませんが、海外から見たら日本のポップカルチャーを代表する楽曲として並べることができる。これらの楽曲を『Gacha Pop』という1つのコンセプトで提示し、海外の方々に関心を持ってもらいやすい形でプレゼンテーションしています」

プレイリストの更新日は定まっていないが、多くのアーティストが新曲をリリースする水曜日と金曜日に楽曲が更新されることが多いという。

「Gacha Popはジャンルではないと考えているので、選曲に厳密な決まりごとはありません。海外で聴かれる比率の高い楽曲、スポティファイが日本のポップカルチャーを象徴していると考える楽曲、海外のバイラルチャートで上昇中の曲、アニメやSNSで話題になった楽曲など、多岐にわたります」

芦澤さんは、SNSで感想などを共有・拡散する若い人口が多い地域は大きな影響力を持つと話す。特にインドネシアやフィリピンの若い世代が起こすソーシャルバズは世界にも伝播しやすい。

「海外で日本の楽曲がヒットするきっかけに、アニメタイアップは依然として大きな要素ですが、一般のユーザーの投稿の影響も見過ごせません。その際にアニメの文脈が加わるとすごい勢いで拡散されることが多いです。それが短尺動画でだった場合は、フルサイズで聴きたい人がストリーミングサービスを訪れ、バイラルヒットにつながります」

Gacha Popの反響

Gacha Popは、海外に向けて日本のクールなポップカルチャーを発信するというコンセプトをもとに、様々な楽曲を1つのプレイリストに束ねる。芦澤さんは、日本の音楽の強みはこの多様性だと語る。

「日本のコンテンツはどちらかといえばガラパゴスで、独特の環境の中でアニメやゲームなど日本が誇るべきカルチャーが生まれ、それらと相乗する形で優れた音楽が発展しました。統一化したフォーマットでなく、多様化した独特の音楽、それ自体が日本の音楽の魅力と考えています」

こうして誕生したGacha Popは、海外の若い世代に好評だ。

「もともと海外に日本の音楽を発信していくために作られたので、立ち上げた当初は海外のリスナーが9割ほどでした。特にアメリカやインドネシアが多いです。年齢層は国にもよりますが、特にZ世代に聞かれています」

現在Gacha Popは、スポティファイ内の日本の楽曲を採用した全プレイリストの中でも好評で、一時はアクセスランキング3位にまで浮上したという。Gacha Popにピックアップされている曲の多くは、リスナーが能動的に曲を選んでいることが多いという。繰り返し再生するコアなファンも目立つそうだ。

Gacha Popは日本でも注目を集めている。芦澤さんは、「予想より早かった」と驚いた様子だ。ツイッターで話題になったことをきっかけに、国内でも再生数が増えたのだ。

「Gacha Popは日本のポップカルチャーの多様性が詰まっており、聴き方に1つの正解はありません。『世界に向かうポテンシャルのある日本の楽曲にはこういうものがあるのか』など、新しい発見があるはずです。おもちゃ箱から飛び出したようなGacha Popのカラフルな世界観を、先入観なくそれぞれの価値観で受け止め楽しんでほしいです」

(J-CASTニュース編集部 瀧川響子)