現役時代は長らく広島カープの主力として活躍し、監督としてもチームをリーグ3連覇に導いた緒方孝市氏が、5月某日、有料配信サービス「カープ県」の体験会にゲストとして登場した。


バーチャル空間、「カープ県」の様子。ゲストの緒方さん(画面右上)が質問に答えた

「カープ県」とは、バーチャル空間でカープの試合を楽しめるサービス。自らアバターを操作してバーチャル空間内を移動することができ、その中のMAZDA Zoom-Zoomスタジアム内に入るとカープの1軍主催試合の生中継を観戦することが可能。さらに、それを観ながらアバターで近くにいる人とチャットでカープ談義をすることもできる。

 体験会で緒方氏は、フリーアナウンサーの山田幸美さんとともにアバターを操作し、取材陣の質問に答えた。サービス開始後も、緒方氏をはじめとしたカープOBのゲストがユーザーの質問に生で答えていく予定になっているため、カープファンにとっては夢のような時間になるだろう。

 そんな緒方氏の「カープ県」への期待、体験会で語った新井カープのここまで、期待する選手などを紹介する。

【「カープ県」の魅力と期待】

−−サービスが開始される、バーチャル空間「カープ県」を体験してみていかがですか?

緒方 初めて操作の方法を教わりながらやってみたんですが、まだ思ったようにはできません(笑)。普段から、パソコンやスマートフォンを使う時はメールなどのやりとりくらいしか経験がないものですから......操作自体は複雑ではないので、これから慣れていけたらと思います。

−−バーチャル空間にファンが集い、カープのホーム戦が楽しめる試みについてはどう感じていますか?

緒方 私も監督時代に感じていましたが、カープファンは広島にお住まいの方だけでなく、全国にも本当にたくさんいらっしゃいます。新幹線を片道1便貸し切って、広島まで応援にきてくださるツアーなどもありますし、愛が深いですよね。

 ただ、現地になかなか来られない方もいます。そういったファンが試合を映像で観られる環境、交流できる環境が新たにできることは素晴らしいですね。

−−「カープ県」では緒方さんをはじめ、カープOBの安部友裕さんや木村昇吾さんもゲストとして登場予定。試合を観戦しながらチャットなどで質問を受けつけ、それに答えるシステムもあるようですね。

緒方 私は、ファン視点で見る野球に興味があるんです。いろんな野球の見方、カープへの想いもそれぞれでしょうから、そういう"生の声"をたくさん聞いてみたい。それにこちらも生で答えられる場として魅力を感じていますし、楽しみにしています。

【新井監督の采配、キャッチャー専念の坂倉の印象は?】

−−カープのファンにとっても、本当に貴重な体験ができそうですね。イベントでもファンから質問があると思いますが、今季のカープについて伺います。まずは新井貴浩新監督についてどう見ていますか?

緒方 私は開幕前の順位予想で、申し訳ないのですがカープを1位には予想しませんでした(笑)。戦力としては投手、野手ともに、ベテランも健在で楽しみな新戦力も揃っていますが、監督が変わっての1年目はさまざまな難しさがあるんです。

 新井監督は昨年まで解説をしていて、「すごく野球を勉強しているな」と感じていました。ただ、外から見るのと、指揮官として采配をするのはまったく違います。目の前で起こることに瞬時に対応しないといけないですからね。藤井彰人ヘッドコーチなどの支えもあるでしょうが、長いペナントレースを戦い抜いて優勝することは本当に大変。新井監督にとっても経験を積む1年になるでしょう。


今季からカープの指揮を執る新井監督 photo by Sankei Visual

――緒方さんも、初めてカープの指揮を執った2015年には、同じように苦労しましたか?(同年はリーグ4位)

緒方 語り出したらキリがないほど、たくさんの苦労がありました。どれだけ試合前に「いい準備ができた」と思っていても、その通りにいかないことが多かった。そういったことを1年、また1年と過ごしていくうちに、徐々に形ができていくと思います。

――昨年のチームとの大きな違いのひとつは、坂倉将吾選手をキャッチャーに専念させている点があると思います。

緒方 坂倉は私の監督時代にキャッチャーとして入団してきた選手ですが(2016年ドラフト4位)、非常に打撃力が高いと感じたので、キャッチャー以外のポジションで起用してその部分を伸ばそうと思いました。その後も、主にファーストやサードでプレーしていたところから、キャッチャーに戻ったことでの大変さはあるでしょう。

 実際にキャッチング、リード、スローイングなど、すべての面で成長が必要です。例えばキャッチングは、ボールが収まるミットの位置もあまりよくない。守備への意識から、打撃も本来の力を発揮できているとは言えません(打率.271、4本塁打/6月1日現在)から、我慢が必要だと思います。

【期待の若手、林と中村の魅力】

――今季の守備では、ショートが固定できていないことも気がかりです。レギュラーを掴んだかに思えた小園海斗選手が開幕から不調で出場選手登録を抹消され、田中広輔選手、上本崇司選手らで回している状態です。

緒方 小園も高卒5年目ですから、本来であれば主力としてやってくれないといけない選手なんですが......開幕から期待された成績が残せませんでした(19打数1安打)。やはりセンターラインを固定できないのは痛いです。ただ、元気を取り戻しつつある田中、昨シーズンにキャリアハイの成績(94試合の出場ながら打率.307)を残した上本、若手の矢野雅哉などにとってはチャンスでもありますね。

――大卒3年目の矢野選手をはじめ、新井監督は若手の選手を積極的に起用している印象があります。

緒方 そうですね。スタメン選手のケガによる離脱もありますが、林晃汰(高卒5年目)、育成ドラフト出身の中村貴浩(大卒1年目)なども出場機会を得ている。すぐに活躍することは難しくても、実戦での経験は成長につながりますし、それを積極的にやっていることは素晴らしいと思います。

――林選手、中村選手の魅力を教えていただけますか?

緒方 林は、巧打者が多い今のカープには少ない、左の長距離打者です。松山竜平なども、どちらかというと巧打者の部類ですからね。林は将来的に、クリーンナップを担うことが期待できる素材だと感じています。

 中村は、私が春の2軍キャンプに行った時に、首脳陣から「楽しみな育成の選手がいる」と紹介されたイチ押し選手だったんです。その時のキャンプにいた選手の中で、もっともいいバッティングをしていると。

 オープン戦の後半で打席に立っているのも見ましたが、タイミングの取り方がよく、バットの出し方がシャープだった。振る力がつけば1軍に上がってくるかな、と思っていたら、2軍で5打数5安打を打つなどして1軍に呼ばれました。1軍レベルの投手相手だと、速いまっすぐや変化球に苦しんでいるものの、それは"慣れ"ですから。大きく成長できる可能性があると思いますし、今後が楽しみです。

【交流戦の戦い方】

――投手陣についてはいかがですか?

緒方 まずは先発陣について、力のある投手は多いですが、床田(寛樹)が左ひじの炎症で離脱するなど揃い踏みにならないのが苦しい。リリーフ陣も絶対的な守護神だった栗林(良吏)が離脱していた中で、矢崎(拓也)や島内(颯太郎)が復活して、現役ドラフトで巨人から移籍した戸根(千明)なども頑張っている。その奮闘があるからこそ、今の順位で踏ん張れている面があると思います。

――5月30日から交流戦が始まりましたが、シーズンとは違う戦い方が必要でしょうか?

緒方 交流戦はパ・リーグのチームとの"短期決戦"のようなもの。だから、3連戦の初戦を取れるかどうかが非常に重要になりますし、それで流れが変わってきます。ベンチとしてはエンドラン、極端な例ですが初回からスクイズなどを試みてもいいし、とにかくどんどん仕掛けてほしいですね。投手も厳しめに内角をついていくなど、気持ちの面でも"攻め"の意識が必要だと思います。

――緒方さんは「カープ県」のイベントで、6月3日(土)のソフトバンク戦など、交流戦中も何度かゲストとして登場しますね。

緒方 普段は対戦しないパ・リーグのチームとの対戦ですし、相手がどんなチームなのか、どんな選手なのかを見ながら、ファンの方とさまざまなことを一緒に話せるのは楽しみです。シーズンの順位を左右する大事な交流戦ですし、注目したいですね。