2023年4月12日、A-29「スーパーツカノ」にNATO構成国向けの最新タイプが登場しました。注目集める軽攻撃機になっている同機ですが、元々はブラジル国内で麻薬密輸や不法伐採・採掘に対抗するために作られました。

元々は練習機だったものが攻撃機に

 ブラジルの航空機メーカー、エンブラエルは2023年4月12日、軽攻撃機A-29「スーパーツカノ」シリーズの新型A-29Nを発表しました。

 最新タイプは、NATO(北大西洋条約機構)構成国向けとしての運用条件を満たすように新たにアップデートしたものですが、同機の母国ブラジルでは、通常の軍事行動以上に、とある勢力に対しての威力の高さが評価されています。それは、麻薬密輸や不法伐採・採掘など行う反社会勢力です。実は、A-29は元々こうしたマフィアなどを相手にするために誕生しました。

 同機のベースとなったのは、エンブラエルが開発したEMB-312「ツカノ」練習機です。同機は、旧式化したT-37練習機の後継として1983年9月からT-27の名称でブラジル空軍へと引き渡しがスタート。使い始めると、ターボプロップ機でありながらジェット機に近い操縦感覚を得られると現場で評判になりました。


麻薬輸送取り締まりになどに従事しているA-29「スーパーツカノ」(画像:ブラジル空軍)。

 同機導入からやや時は進み1990年代、ブラジルはアマゾンでの麻薬密輸や不法伐採・採掘による環境破壊に頭を悩ませるようになります。

 こうした違法行為をしている勢力は、自前の航空機を保有するだけでなく、違法に作った滑走路などまで整備し、かなり大規模に活動していました。それらの勢力に対応するには軍用ヘリでは速度が遅く、ジェット機では、滑走路の問題で遠くの基地から駆けつける必要があるうえ、低空を監視し続けるには、速すぎるという欠点がありました。

 問題解決のためには、新たな軽攻撃機を導入する必要があると判明したため、ブラジル政府は1997年にアマゾン地域の防衛を改善するため、アマゾン監視システム計画(Amazon Surveillance System)、通称「SIVAM」を立案します。そして、練習機で操作性の良さが証明されていたT-27をベースにした軽攻撃機を導入することにしたのです。

 こうして生まれたのがA-29「スーパーツカノ」でした。

反社相手に猛威ふるう!

 SIVAMでは、広大なアマゾンを監視するために早期警戒管制機のほか、人工衛星や航空機によるリモートセンシングの導入も計画されており、A-29「スーパーツカノ」は、それらの特殊機体と共同任務をこなす装備と、低速・低空時の操作性の高さ、不整地や短い滑走路でも離着陸する性能が求められました。


対地攻撃訓練をするA-29「スーパーツカノ」(画像:ブラジル空軍)。

 武装としては、両翼内に12.7mm機関銃が2挺を装備、武装を吊り下げるハードポイントは、胴体下部に1か所、左右の翼に2か所用意され、そこにはブラジル国産のピラニア空対空ミサイル、ロケット弾ポッド、レーザー誘導爆弾、20mm機関砲ポッドなど様々な武装の取り付けが可能なようになっていました。

 また、空対空戦闘だけでなく、低空域における地上からのミサイル攻撃に対応できるよう、レーダー警戒装置やミサイル警報装置、チャフおよびフレアのディスペンサーが搭載されています。そのため、エンジンもプラット・アンド・ホイットニー・カナダのPT6A-25CからPT6A-68へ換装され、出力も750馬力から1600馬力に大幅向上しています。

 A-29は、2003年に運用が開始されましたが、先んじて運用が始まっていた、エンブラエル製の早期警戒管制機E-99、リモートセンシング機R-99と共同作戦を行うようになると、その優秀性をいかんなく発揮するようになりました。

 一見、国内の過激派相手に過剰な戦力かと思うかもしれませんが、そこはブラジルの反社会勢力。日本とは保有する武器のレベルが段違いで、違法に改造した航空機や船舶、そしてそれを運用する地上の支援施設、さらにはミサイルや対戦車ロケットなど重火器まで所有しているのですから、軽く見てはいけません。

 だからこそ、ブラジル空軍も軍隊とはいかないまでもテロ組織相当の規模で挑んでいるようです。特に、E-99と組んだ防空網はかなり強力で、捕捉されるとすぐにA-29「スーパーツカノ」が迎撃にやってくるため、違法な航空機は慌てて違法滑走路に着陸し、犯人たちはジャングルへ逃走しているとか。ゆえに大量のコカインが毎年のように押収され、ニュースにもなっています。

バツグンの汎用性で多数の国が導入

 2023年1月末には、違法採掘業者の暴力や環境破壊で危機に瀕していたヤノマミ族を支援するためブラジル政府と軍は、「ヤノマミシールド」という“準軍事作戦” まで発令しています。同作戦では、北部地域の上空で防空識別圏(ADIZ)を有効化し、衛星とE-99を中心として監視に当たるという、まるで敵国相手のような方法で挑みました。

 4月初旬まで行われた同作戦で、A-29「スーパーツカノ」は低空監視の要として活躍しました。現地の情報によると、作戦により、違法採掘業者の8割近くが消滅したと予想されています。しかし、ここまでしても違法の飛行場などを作って対抗してくる勢力は後を絶たないということで、ブラジルにおける麻薬問題やアマゾンでの違法行為がいかに根深いか、実感できるでしょう。

 こうして反社会勢力相手に実績を積み重ねたA-29「スーパーツカノ」は、持ち前の武装搭載力と、低速性能を活かし、地上近くの偵察・監視や対テロ支援も可能な優秀性を見せたことで、チリ、コロンビア、エクアドルなど、他の南米諸国にも採用されるようになりました。


エンブラエルが発表したNATO 構成国向けのA-29「スーパーツカノ」(画像:エンブラエル)。

 さらに2013年には、アメリカ空軍が進めていたアフガニスタン向け軽攻撃機の選定計画、「軽航空支援(LAS)プロジェクト」において、A-29「スーパーツカノ」が選定されます。これを受け2019年にはアメリカ空軍にも導入が決定しました。

 また2020年代に入ってからは、巡行速度が520 km/hで、ジェット機よりは遅いが、低速では安定するという特性を活かし、ドローン迎撃機としての活用にも期待されるようになっており、それらを踏まえて今回、NATO仕様が登場したと考えられます。もしかしたらこれにより、採用国はさらに増えるかもしれません。

 そして直近では、4月24日にエンブラエルがポルトガル企業と防衛パートナーシップを拡大する覚書に署名。今後ポルトガルでNATO向けの機体が開発される可能性が高まり、南米生まれの軽攻撃機の“快進撃” は、まだまだ続きそうです。