中国・上海海昌海洋公園 ウルトラマンのエリア開業の際の写真(写真:Costfoto/アフロ)

「ウルトラマン」シリーズを手がける、円谷プロダクション(以下、円谷プロ)が2023年4月12日に創業60周年を迎えた。

昨年は映画『シン・ウルトラマン』の大ヒットが話題になった同社が、60周年を機に改めて力強く打ち出すのが、映像や商品、イベント、デジタルコンテンツといった国内外でのフランチャイズ展開だ。

多業種企業と作品IPを核としてタッグを組み、長期スパンでの消費者の取り込みを目指す。

同社の代表取締役会長 兼 CEOの塚越隆行氏に、そのビジョンと60周年の取り組みを聞いた。

国内外でのさまざまなシナジー効果を狙う

コロナ禍を経て3年ぶり、3回目の開催となった「TSUBURAYA PRESENTATION 2023」。円谷プロと同社のビジネスパートナーとのBtoBカンファレンスだ。

広告代理店からメディア、シアター、イベンター、プラットフォーマー、プロダクション、映像技術関係各社のほか、商品ライセンシング関連の各種メーカー、流通など多種多様な業界の取引先から2000人を超える関係者が一堂に介した。

そのオープニングで塚越氏がまず語ったのが、円谷プロの企業ビジョンの根底にある、新しいウルトラマン像を生み出せるような“空想の力”だ。これは創業者の円谷英二氏が日頃から大切にしていた言葉でもある。


円谷プロダクション代表取締役会長 兼 CEOの塚越隆行氏(撮影:尾形文繁)

塚越氏は、この理念に根差した3つのブランド(ウルトラマンシリーズ作品の『ULTRAMAN』、怪獣作品などの『TSUBURAYA・ULTRAMAN』、オリジナルドラマ作品などの『TSUBURAYA』)のフランチャイズ展開など、長期的なライセンシング戦略を説明。国内外での「作品」「商品」「イベント」のシナジー効果を狙う、“チーム円谷”への参画を呼びかけた。

そんな円谷プロの、大きな成功例の1つとなっているのが中国市場だ。

中国では、配信プラットフォームをはじめとするメディアを通してコンスタントに作品を届ける仕組みを作るとともに、トレーディングカードゲームのほか、玩具やアパレルなどライセンシー商品を拡充し、さまざまなイベントも実施してきた。

その結果、直近の2022年第3四半期(2022年4〜12月)で中国のMD(マーチャンダイジング)ライセンス収入は37億5300万円となり、前期比313%増(前期第3四半期:9億800万円)。通期では40億円超えが見込まれる。

この先、同スキームをアジア全域、さらには欧米へと拡大していくのと同時に、ブランドやフランチャイズによっては、日本企業とタッグを組んだ海外進出も見据えている。

塚越氏も「それぞれの国のライセンシー商品を海外でも販売できるような、国境を超えて企業が協力し合えるボーダーレスなチーム構造を作っているところです」と語る。

世界同時放送から目指す多国籍フランチャイズ

そんな世界進出への次なる後押しとなる施策が、サイマル放送(同時放送)だ。

これまでは、中国だけが日本と同時に新作が放送されていたが、7月スタートの新テレビシリーズ『ウルトラマンブレーザー』はアジア各国でもサイマル放送される。


『ウルトラマンブレーザー』ⓒ円谷プロ ⓒウルトラマンブレーザー製作委員会・テレビ東京

また、Netflixと共同制作中のCGアニメ長編映画『Ultraman(原題)』(2024年公開)は全世界同時配信を予定。今後もこの方向性を継続していくという。


CGアニメ長編映画『Ultraman(原題)』ⓒ円谷プロ ⓒウルトラマンブレーザー製作委員会・テレビ東京

さらに、数年後には、新作のテレビシリーズ、映画を含めて全世界で同時に視聴できる体制を整えることを目指している。

「サイマル放送によって、多国籍で並行して連携することで、チーム円谷も成長し、進化していきます」(塚越氏)

それは塚越氏が掲げる、長期スパンでのビジネススキームにもつながるという。

「(ライセンシング関連の会社とは)必ずしも作品ごとではなく、作品をまたいで継続的にタッグを組むことで、(お互いに)ナレッジ(知識や情報)を蓄積する、中長期のパートナーになる発想です。それがチーム円谷のフランチャイズビジネスのポイントであり、強みにもなります」(塚越氏)

60周年の節目を次の10年へ向けた新たなスタートと位置付ける円谷プロ。ウルトラマンだけではない豊富なIPをグローバルに展開していくエンターテインメント企業を目指すとともに、チーム円谷として幅広い業種とのフランチャイズビジネスを拡大、循環させていくことを掲げる。

その戦略のベースに、塚越氏は原点回帰を据える。

「60年前に円谷英二監督は、“空想の力”を、映像を通じて届けようとしました。いまの時代はそれがフランチャイズです。映画、テレビ、配信といった映像だけでなく、商品、イベント、デジタルコンテンツなどすべてを駆使してお客様に楽しんでいただく。もし円谷監督がいまいらっしゃったら、そう発想していたはずです。われわれがこれからやろうとしていることは原点回帰でもあります。それを取り戻しながら、いまのスタイルに置き換えていきます」


円谷プロダクション代表取締役会長 兼 CEOの塚越隆行氏(撮影:尾形文繁)

そのアウトプットの1つであり、ファンの最大の楽しみになっているファンイベント『TSUBURAYA CONVENTION』(11月25、26日:東京ドームシティ)が、今年3年ぶりにリアルで開催される。

ターゲット層をどんどん広げる

近年では、ウルトラマンシリーズの放送のほか、怪獣を子ども向けキャラクターとして描く『かいじゅうステップ』などで幼少期の子どもたちを取り込み、昨年の『シン・ウルトラマン」ではターゲット層をオール世代へと広げた円谷プロ。往年のコアファンから、初めてウルトラマンに触れるライト層までを集める同イベントは、次なる時代へ向けたショーケースになることだろう。

そんな円谷プロだが、先に挙げた3つのブランドのうち事業規模で見ると、いまはまだ『ULTRAMAN』が9割以上を占める。

ここ数年で怪獣キャラクターなど『TSUBURAYA・ULTRAMAN』が徐々に事業を拡大しているが、ウルトラマンが世界に進出するのと同時にこちらの成長にもドライブをかけていくことが課されるだろう。

それが2世代、3世代と家族間でファンをつないでいき、3つのブランドそれぞれが長く愛される好循環の拡大へとつながる。

日本企業の未来を見据えた戦略とともに世界進出に本格的に動き出す円谷プロに、エンターテインメント界だけでなく、幅広い業界業種からの注目が集まっている。

(武井 保之 : ライター)