●年齢を重ねたことも受け入れる精神力の強さ

日本テレビ系ドキュメンタリー番組『NNNドキュメント’23』(毎週日曜24:55〜)で、9日に放送される『私は…91歳のチアリーダー 〜滝野文恵という生き方〜』。タイトルの通り、日本最高齢のチアリーダー・滝野文恵さんに約2年にわたって密着した作品だ。

平均年齢70歳のチアチーム「ジャパンポンポン」を立ち上げ、30年にわたり中心で踊ってきた滝野さんは、様々なメディアでその輝かしい姿を披露してきたが、今回の番組では、新型コロナウイルスの影響でステージに立てない日々を過ごす中、年齢の“限界”に直面し、葛藤する一面も映し出されている。

取材したのは、日本テレビ報道局社会部の細川恵里記者。「『Nドキュ』をやりたい!」と希望を出して報道に異動してきただけに、並々ならぬ思いで臨んだこの密着を通して、滝野さんからどんなことを受け止め、視聴者に伝えようとしているのか――。

日本最高齢のチアリーダー・滝野文恵さん (C)NTV

○■見た目からも内面からも感じる若々しさ

細川記者が滝野さんと出会ったのは、バラエティ制作を担当していた7年前。60代でチアをやっている人がいるという昔の記事を見つけ、その後も元気に続けていることを知って、当時84歳だった滝野さんを、番組の1コーナーで紹介した。

そこから連絡を取り合うことはなかったが、2020年10月に報道局へ異動して企画を考えていたときに、当時89歳でまだチアを続けていることを知り、久しぶりにアポイントを取ることに。5年ぶりに再会すると、「以前お会いしたときと変わらなかったんです。老けられたとも若くなったとも思わず、それがびっくりしました」(細川記者、以下同)と驚かされた。

その背景は、やはりチアをやることが“生きがい”になっていることが大きいようで、「動きがそろわないとチームの足を引っ張ることになるので、そのプレッシャーが心に張りを与えているというのもあると思います。観客の前でステージを披露するのは、いわゆる老人会のような自分たちで踊っているだけのコミュニティとは、一線を画しているのを感じました」と理解した。

チアをパフォーマンスする姿はもちろん、普段も赤がトレードマークで派手なファッションが好きだということで、滝野さんからは見た目から若々しさが伝わってくるが、それは内面からも随所に感じるという。

「すごくベタな表現なのですが、周りを明るくしてくれてる方で、一緒にいると元気になれるなというのを本当に感じます。それは、要所要所で自然と励ましの言葉が入っているということがあるのかもしれません。滝野さんは何度もメディアの取材を受けているので、私が思い通りに取材ができていないときに察して、『絶対大丈夫だから頑張って』と声をかけてくれることがありました」

そうした優しさに加え、チームのメンバーに対して時には厳しい言葉をかける場面も。細川記者も、取材の過程で怒られることがあったそうで、「自宅でロケをさせてくださいとお願いしたら、『ちょっと待って、考えるから』と言われたんですけど、そこで私が癖で『ありがとうございます』と口にしたら、『“ありがとうございます”って言うと断り切れなくなるから言っちゃダメ!』と言われてしまいました」と、苦笑いのエピソードを明かした。

チームを指導する滝野さん (C)NTV

○■「新しいことをやってダメだったら、やめればいいじゃない」

細川記者との連絡はスマホからLINEで行い、サブスクの「Kindle Unlimited」で読書に没頭するなど最新ツールを使いこなし、ウクレレに麻雀といった趣味を楽しんだり、コロナが落ち着いて友達と頻繁にご飯を食べに行ったりと、“やろうと思ったことはやる”というバイタリティが行動に表れている滝野さん。

一方で、「最近は年齢を重ねてきたことを受け入れているというのも感じました。密着させていただいたこの2年という中でも、少しずつ動きのキレがなくなってきているのを感じたのですが、滝野さんは焦りを見せず、“しょうがない”と受け入れてらっしゃるんです。そういうことができるのも、強いなと思いました」と、自身を客観視して認める精神力も持ち合わせているという。

そんな滝野さんのイズムは、ジャパンポンポンのメンバーにも浸透。「例えば、アカウントだけあったインスタグラムを本格的に宣伝に使っていこうとか、新しい意見が出てくると、最初は懐疑的に見る人もいるんですけど、結果として取り入れているんです。それは、最高齢の滝野さんが『私もよく分かんないけど、いいじゃないの。新しいことをやってダメだったら、やめればいいじゃない』と後押ししているところが大きくて、そういった新しいものを積極的に取り入れることは組織として大事だし、チームとしても強いなと思いました」と印象を語り、メンバーたちも皆、滝野さん同様に実年齢より若く見えるそうだ。

「ジャパンポンポン」の新人メンバーたち (C)NTV

○■一番大事な舞台の直前でコロナ感染

コロナ禍で始まった今回の取材。5年に一度行われ、チームが一番大切にしてきた舞台である「チャリティーショー」が、当初の開催予定だった2020年から延期されることになった。当時89歳の滝野さんにとって、1年単位の延期は非常に重い時間で、90歳を迎え、「以前はできたことができなくなってきている」と“限界”を実感。そうした中で、2022年11月に、ついに「チャリティーショー」が行われることになったが、細川記者は「大丈夫だろうか、11月まで体力は持つだろうか…」と心配しながら見つめていたという。

そんな不安を抱えた本番1週間前、なんと滝野さんがコロナに感染したという連絡が入った。そのときのことを、「本当にびっくりしました。まず年齢も年齢ですし、滝野さんが大丈夫だろうかという気持ちと、チャリティーショーを番組のゴールとして考えたいたので、どうしよう…というスタッフとしての気持ちがありました」と振り返る。

本番までに何とか復帰したが、元々あった体力的な心配に、大事な期間に練習ができなかったハンデも重なる事態に。そんな状況でのステージを見て、「まず『踊れてよかった…』という安堵がすごく大きくて、最初にステージに立たれたのを見たときに、ウルっときてしまいました。それと同時に、やはり精彩を欠いていた部分もあって、『あれだけ頑張っていたのに…』という悔しい思いもありました」と、本人の心境を想像した胸の内を明かす。

(C)NTV

このチャリティーショーを“ラストステージ”と明言していたが、アクシデントもあって不完全燃焼に終わったことで、そこから再び前を向いて進もうとする姿に、「91歳なのに、それまでの自分の美学や考え方を変えるというところが、本当にすごいと思います」と、改めて感服した。

●25歳で亡くなった女性のドキュメンタリーに衝撃「自分も作ってみたい」

日本テレビ報道局の細川恵里記者 (C)NTV

ドラマ志望で日テレに入社し、「フィクションにしか興味がなかったんです」という細川記者。だが、前に配属されていた宣伝部で『NNNドキュメント』を担当すると、「ノンフィクションのドキュメントってこんなに面白いんだ、こんな世界があるんだということに気づいて、自分も作ってみたいと思ったんです」と、報道局への異動希望を出した。

そのきっかけとなった作品は、25歳の若さでがんのため亡くなった山下弘子さんを4年にわたり追いかけた『彼女が見ていた景色 〜山下弘子の生き方〜』(2018年7月22日放送)。「ドラマよりもドラマチックですし、真実だからこそより伝わってくるものがあるんだと思いました」と衝撃を受けた。

そんな念願の枠での放送が実現したことに、もちろん「すごくうれしいです」というが、「『Nドキュ』をやりたいというのは滝野さんにも言っていたので、決まったことを報告したら『良かったね』と言葉をかけてもらいました」と、一緒に喜んでくれたという。

○■婚姻届の証人にも…取材者×取材対象者を超えた関係性

細川記者と滝野さんとは孫と祖母ほどの年齢差があるが、「おばあちゃんと話しているというより、結構年上のお姉さんと話している感覚なんです。だから、自分の親が滝野さんみたいになったらいいなというより、自分があんなふうになれたらいいなという憧れが強いです」という距離感。

取材が一段落すると、プライベートの話をする仲になるそうで、「私、1年前に結婚したのですが、滝野さんに婚姻届の証人もなっていただきました。よく、『仕事ばっかりして、旦那さんも大事にしたほうがいいわよ』と言われます(笑)」と、取材者×取材対象者を超えた関係性を築いている。

細川記者(右)の婚姻届の証人になった滝野さん (C)NTV

滝野さんが発する様々な言葉の中で、特に印象に残るというのは、“道はつながってる”。それは、自身の境遇に照らし合わせ、強く共感するものだった。

「滝野さんは『自分らしく生きたい』と53歳でアメリカに留学されたのですが、留学先の友人から贈られた本にあった1行でシニアのチアリーディングを知って、連絡先が分からなくても、たまたまそのシニアチームがある町に行ったことがあったので、そこの郵便番号だけ書いて手紙を送ったら届き、交流が始まって活動を知ることができたという経験があるので、『何か1つやろうと思って行動を起こすと、少しずつ道がつながって今がある』とおっしゃっていたんです。私も、滝野さんを取材しようと思ったことがきっかけで、報道に異動希望を出すきっかけの番組だった『NNNドキュメント』に今こうしてたどり着くことができたので、滝野さんの“道はつながってる”という言葉に、すごく励まされながら取材していました」

○■「滝野さんという存在を後世に伝える」という思い

改めて、今回の見どころを聞くと、「滝野さんは、見ているだけでとにかく元気になれる存在だと思うので、自分があまり良い状態じゃなくて悩んでたり、これからうまくいかないかもしれないと迷っていたり、つらいことがある人が見ていただけると、半歩でも進むきっかけになってくれる人だと思います」と、そのエネルギーを表現。

「何でもいいから始めたらいいよ」が口癖だという滝野さんを映し出す今作は、多くの人が新しいスタートを切った新年度の始まりにふさわしいドキュメンタリーと言えるだろう。

そして、細川記者は「滝野さんがこれから先、体が動かなくなってチアを引退されたり、例えば施設に入るということになっても、滝野さんという存在を後世に伝えるんだという思いで、この作品を作っています」と使命感を語り、「いちスタッフの思いとして、今後も追い続けていきたいと思います」と意欲を示した。