その16MCVを載せているのはナニモノ? 「DSEI Japan 2023」会場で見かけたフネの正体
「DSEI Japan」会場の一角で、とあるイギリスの海事設計社が出展していた舟艇の模型に、おなじみ陸自16式機動戦闘車が搭載されていました。将来リアルに再現されるかもしれないということで、その舟艇「CAIMEN-90」に注目してみました。
「DSEI japan」にてイギリス企業が展示した上陸用舟艇に注目
2023年3月15日から17日の日程で、日本国内最大級の防衛装備品展示会「DSEI Japan」が千葉県の幕張メッセで開催されました。日本国内外から数多くの防衛関連企業がブースを出展する中で、イギリスの船舶設計企業「BMT」が展示していたのが、高速揚陸艇「CAIMEN(カイマン)-90」の模型です。
「DSEI Japan」に出展された、「CAIMEN-90」の模型。16式機動戦闘車と軽装甲機動車を搭載している(2023年3月15日、稲葉義泰撮影)。
映画『プライベートライアン』の冒頭、アメリカ軍がノルマンディー海岸へ上陸する際に用いていた上陸用舟艇と同じような形をした「CAIMEN-90」の模型は、その上に、陸上自衛隊の16式機動戦闘車と軽装甲機動車の模型を搭載していました。
実はこの「CAIMEN-90」、この模型が示すように、これからの自衛隊を支える存在になるかもしれないのです。
「DSEI Japan」に出展された、「CAIMEN-90」の模型を後背より(2023年3月15日、稲葉義泰撮影)。
そもそも「揚陸艇」とは、車両や兵士などを海から陸地へと上陸させる際に用いられる、比較的コンパクトな船のことです。大型の輸送艦では接近が難しいような深度の浅い海域でも活動できるほか、海岸に直接、車両や兵士を上陸させることができるため、有事の際はもちろん、災害時でも海から被災地にアクセスできるというメリットがあります。
「CAIMEN」シリーズの特徴とは
そうした揚陸艇に分類される「CAIMEN-90」は、BMT社が開発する高速揚陸艇「CAIMEN」シリーズのひとつです。
「CAIMEN」シリーズは、全長28mの「CAIMEN-60」、全長33mの「CAIMEN-100」、そして全長38mの「CAIMEN-150」という3つの基本タイプが存在し、顧客の要望に応じてサイズや性能をカスタマイズできるという特徴を有します。そして今回「DSEI Japan」で展示されていた「CAIMEN-90」は、全長30m、全幅7.7m、排水量203トンで、前述の3タイプと比較するとちょうど真ん中くらいのサイズ感です。
BMT社の資料より、「CAIMEN-90」のイメージ(画像:BMT)。
「CAIMEN-90」の強みは、その速度性能と搭載量です。速度性能に関しては、満載時で22ノット、さらに軽荷時であれば40ノットで航行することが可能とされています。また、搭載量に関しては重量にして90tを誇り、物資や人員だけでなく、主力戦車を含む装甲車両も搭載することが可能です。
それでは、なぜBMT社はこの「CAIMEN-90」を「DESI Japan」に出展したのでしょうか。その理由は、2022年12月に日本政府が閣議決定したいわゆる「安保関連3文書」のうち、今後日本が持つべき防衛力の水準を示した「防衛力整備計画」にあります。この中に、自衛隊の輸送力を向上させるべく、「機動舟艇」という新装備を導入することが盛り込まれています。
「機動舟艇」の選定における「CAIMEN-90」の勝算
「機動舟艇」は、「陸上自衛隊の部隊や車両、物資などが、全国各地から南西諸島方面へと速やかに展開できるよう用いられるもの」で、まさに前述した揚陸艇のような船舶の導入が予定されています。BMT社は、この機動舟艇への採用も見据えて、今回「CAIMEN-90」を展示したというわけです。
「CAIMEN-90」ならば、模型で示されている16式機動戦闘車(26t)はもちろん、10式戦車(44t)なども輸送することができるほか、12式地対艦誘導弾や03式中距離地対空誘導弾の構成車両なども輸送することが可能と見られます。さらに、航続距離は930km以上であり、先述した速力も踏まえると、九州と沖縄本島間、さらには離島間などで、迅速にピストン輸送を実施することも可能です。また、サンゴ礁や岩礁に囲まれた島々にも難なく部隊を上陸させることができる点も重要でしょう。
アメリカ陸軍が開発するMSV(L)のプロトタイプ(画像:アメリカ陸軍)。
今後、この機動舟艇に関しては、防衛省が契約を結ぶ企業を募ることになり、そして2028年3月までに建造および配備が行われることになると見られています。その運用は、陸上および海上自衛隊の共同部隊である「海上輸送部隊」で実施されることになると思われます。
その点、BMT社が設計した揚陸艇は、アメリカ陸軍の新型輸送船である「MSV(L)(軽機動支援船)」に採用されており、機動舟艇に関しても有力候補のひとつとなることでしょう。