『GRAND PRINCESS '23』メインイベント

プリンセス・オブ・プリンセス選手権試合

インタビュー後編 <王者・坂崎ユカ>

(前編【挑戦者・瑞希】:彼氏のようなタッグパートナー 瑞希が語る王者・坂崎ユカにされたら「嫌いになる」こと>>)

 東京女子プロレスのプリンセス・オブ・プリンセス王者、坂崎ユカ。タッグパートナーの瑞希とのタイトルマッチに向けた記者会見で、「正直言うと、やりたくない」と心情を吐露した。

 やりたくない。瑞希にひどいことをしたくない。瑞希に嫌われたくない――。2人の独特な関係性を探りたいと思った私は、団体を通して別々にインタビューを申し込んだ。その後編は、王者・坂崎の複雑な胸中について聞いた。


東京女子プロレスのプリンセス・オブ・プリンセス王者・坂崎ユカ

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――記者会見で「やりたくない」と仰っていて、ものすごく独特な関係だなと思いました。

坂崎ユカ(以下、坂崎):瑞希って、私には素を見せてくれているので、「今こう思ってるんだろうな」っていうのがわかる。普通は知り得ない情報も、瑞希の雰囲気とか表情とかから読み取っちゃうので、いやだなって。

――瑞希選手が今回のタイトルマッチに対して、「いやだな」という表情を見せている?

坂崎:んー、というよりは、「どうしてもベルトがほしい。東京女子を引っ張りたい」という気持ちが強いのを知ってるからこそ......こっちがちょっとでも気を抜いた状態で試合をしたら、それも嫌われる要因になるだろうし、だからといってギリギリの攻めをすると「瑞希、しんどいだろうな」と思ったりとか。けっこう複雑ですね。すごくやりにくいです。

――もともと、瑞希選手と組むマジカルシュガーラビッツは、2018年8月に行なわれた「1dayタッグトーナメント」のためにくじ引きで組まれたタッグです。どんな心境で臨んだトーナメントでしたか?

坂崎:私的には、スーパーマリオで言う"スターを取った状態"だった。テンションはずっとあの音が鳴ってる感じでした。無敵モードというか、何をしても楽しい状態。

――瑞希選手のどういうところがスターっぽい?

坂崎:タッグの連携が無限に思いつくんですよ。瑞希と「これやりたい」「あれやりたい」っていうのが、日常生活のなかでも思いつくくらい。トーナメントに向けてタッグの連携とか考えるんですけど、「これ、瑞希でイケるなあ!」とか、スラスラ思いつく。可能性が無限にあって、ずっと楽しい状態でしたね。

【無条件の愛を瑞希に与えられる】

――瑞希選手に対して「守りたい」とか「大好き」とか、そういった気持ちはいつ頃芽生えた?

坂崎:たぶん瑞希と対面した人だったら、時間にもよりますけど、誰でも感じるんじゃないですかね。

――ああ、わかります!

坂崎:わかりますよね!「もう、どしたのー!」みたいな。ついつい、構ってしまうというか。いわゆる、天性のアレです。さらに知れば知るほど、不安定な部分が見えたり。肉体的にも、見てのとおり細いですし。

――確かに、守ってあげたくなりますね。

坂崎:そうだし、プラプラしてるんですよ。歩いてても、小学生にストーカーされたりとか。すごい若い学生にナンパされたりとかして、心配なんです。街ですれ違う人も、惹かれるなにかがあるんでしょうね。

――瑞希選手は駅のホームでよく人にぶつかるから、坂崎選手がシュッと線路側から離すというお話もありましたね(笑)。

坂崎:そうなんです! あと看板とか、目に入るものにすごく惑わされるみたいで。話をしているのに外を向いちゃったりとか、意識が散漫なんです。守っているつもりはないんですけど、危なっかしいんですよ、奴が。

――プライベートでも遊んだりするんですか?

坂崎:すごく遊びますし、瑞希はピンポンで起こしに来ますよ。私は昼夜が逆転してて朝は起きないんですけど、瑞希が「お腹空いた」って来るんです。朝昼晩、全部食べないと損した気持ちになるらしくて。あと、私が遊んでほしい時にも「ピンポンを押して起こしてっ!!」って言ってます。

――なんだろう、その関係性は......。親友という言葉だと、ちょっと違う?

坂崎:違うと思いますね。実のきょうだいより仲がいいし、考えていることがわかる。無条件に大事にするというか、無条件の愛を瑞希に与えられるというか。

――そういう人って、本当に貴重ですよ。瑞希選手と出会えたことだけで、「プロレスラーになってよかったですね」と思うくらいに。

坂崎:はい、本当に思います。プロレスをやってなければ絶対に出会わなかったですし、たぶんこんなに深い関係になっていないと思います。

――プロレスラー同士だからこそ、関係は深まる?

坂崎:そう思います。よく言うじゃないですか。危険な目に遭って、時間を共有している人は、より関係性が深まるとか。その感じが強いんですかね。何かを一緒にやり遂げたりとか、人生を賭けて生き延びてる感じ。それを乗り越えてきた感じに近いような。

【「勝たせてあげたい」という気持ちはない】

――2020年11月7日のTOKYO DOME CITY HALLで瑞希選手とシングルマッチを行ないました。その時も「闘いたくなかった」と仰っていましたが、今も同じ心境ですか?

坂崎:あの時より、より闘いたくなくなってますね。より中身を知って、瑞希が東京女子にかける思いとか、私に感じていることとか、欲みたいなものも素直に話してくれるようになって。こんなに真剣に東京女子のことを想ってくれて、こんなに私のことを想ってくれているって知ってるから......うん、やりたくないですね。めちゃめちゃやりたくないですね。勝ち負けで打ちのめせばいいっていう感情だけではなくなってくるので、すっごいやりたくないですね。

――でも、同じ時代にプロレスをしていて、同じ団体にいるから、やらなきゃいけない......。

坂崎:そうなんですよ、やらなきゃいけないのはわかってる。レスラーだから、こういう絆の深め方もあるってわかってるけど、ずっと気持ちが拮抗しています。やるからにはいい試合にしたいし、もちろん負けちゃいけないとも思います。

――「勝たせてあげたい」という気持ちはないですか?

坂崎:ないですね! よりなくなっちゃいますよね。瑞希も東京女子を想っているし、東京女子を背負いたいって言ってるけど、でもなあ、私もなあ......ウチの人生あるしなあ、みたいな。

――今度の試合が終わったあと、2人の関係はどうなっていると思いますか?

坂崎:いや、悪くなることはないんですよ、2人の性格的に。それはわかってはいるんですけど、嫌われるんじゃないかという恐れもちょっとはありますし。私のことを嫌いになったとしても、取り戻す自信はあるけど、でも傷つけたくないっていうのもあって。負けちゃいけないよな。私の人生もあるし。瑞希は「守られたくない」って言いますけど、私が強くいなきゃなっていう気持ちもあるし。めちゃめちゃ複雑です。

――今後、実現したいことは?

坂崎:日本だけでしか、瑞希とタッグをやったことがないんですよ。なので、瑞希とアメリカとか海外でも、タッグができたらなとは思います。

――自分がトップに立つことよりも、2人でトップに立つことのほうを重視している?

坂崎:トップに立つというのを、私自身あんまり意識してないんですけど、瑞希にも見せたい世界っていうのがありますね。

――ありがとうございました。

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 プロレスラーの多くは、「自分が一番」。いや、プロレスラーに限ったことではない。人間だれしも、自分が一番。自分がのし上がるためなら、人のことなんてどうだっていい。それでいいのだ。それが正しい。自分の人生を、がむしゃらに生きればいい。

 しかし、坂崎ユカと瑞希にインタビューをして、2人の独特な関係性を目の当たりにした私は思った。本当は皆、坂崎ユカにとっての瑞希、瑞希にとっての坂崎ユカに出会いたくて生きているのではないか。いつか本物のだれかに出会うために、人は生きている――。

 3月18日、有明コロシアム。"闘いたくない"2人の闘いを、ぜひ見届けてほしい。

【プロフィール】

◆坂崎ユカ(さかざき・ゆか)

12月27日、サウスタウン生まれ。2013年12月1日、東京女子プロレス旗揚げ戦にて、のの子と組み、浦えりか&中島翔子戦でデビュー。2017年6月4日、新宿FACE大会にて優宇の保持するTOKYOプリンセス・オブ・プリンセス王座に挑戦し、初戴冠。2018年8月、瑞希とタッグチーム「マジカルシュガーラビッツ」を結成し、国内外で絶大な人気を誇る。158cm。Twitter:@YukaSakazaki