あるときは芸人、またあるときは放送作家、そしてまたあるときは掃除・トイレ研究家として多方面で活躍中の佐藤満春(サトミツ)さん。

2月17日に初のエッセイ集『スターにはなれませんでしたが』(KADOKAWA刊)を上梓しました。今まで多くを語らず、“謎の男”とも称されているサトミツさんの人生が明らかになるとして、多くの話題をさらっているこの本。今回はご本人に「読みどころ」を教えてもらいました。

「“凡人オブ凡人”でも好きなことにアクセルを踏んできた」

――サトミツさんには『ESSE』本誌でも何度か「掃除のプロ」としてご登場いただいいています。芸人としてのキャリアも長く、レギュラー番組を19本抱える売れっ子放送作家でもあり、ラジオのパーソナリティーとしても活躍、そして今回初のエッセイ本発売…と、さまざまなジャンルで才能が花開いているという印象です。

「とんでもない! そもそも僕は、自分を花が咲かないタイプの植物だと思っていますから。本のタイトルこそ『スターにはなれませんでしたが』ですが、そもそもスターになろうとは思ってないです」

 

――人間どうしても「なにかやるからには一花咲かせたい」と思ってしまいがちですが、サトミツさんには、最初からそんな気はさらさらなかった…?

「うん、それでいいんじゃないかと思っています。芸人という仕事について気がついたんですが、人にはもともと持っているセンスとか、そこに至るまでの全部をひっくるめて、やれることとやれないことがある。だから僕はどうあがいても、いわゆる芸能界のど真ん中で活躍する人間ではないなって。そもそも、そこを目指そうという気概とか発想も最初からなかったです。『花が咲かないんだ、かわいそう、草ばっかりじゃないか』と言われても、ここは左右できないんですよね。

でも、僕の生え方を見て、もしかしたら感動してくれる人がいるのかもしれないし、“精いっぱい育つ”くらいしかやれることがなかったというのが、この本で言いたかったことなんです。僕自身、スーパーレアな人間ではなく、いわゆる“凡人オブ凡人”なので、そこに共感してくれる人もいるんじゃないかと。世の中にはいろんな立場の人がいるからこそ、僕みたいな考え方も“あってよかった”と思ってもらえるチャンスなのかなって」

――芸能人、とくに芸人さんってみな、大志を抱いてその道に進むのかと思っていただけに驚きです。

「僕の場合、消去法で、できないことを消していったら芸人になるしかなかったんですよ。振り返ってみると、僕はできないことに対して費やす時間があるなら、自分が好きなこと、興味のあることに対してだけアクセルを踏んできた気がします。日常の楽しさを感じるアンテナが壊れているので、『あれ、僕、これに対してはこんなにテンション上がるんだ』と自分自身と向き合ってきた歴史の積み重ねというか。努力とは思っていないけれど、気づいたら追及していたという感じでしょうか。

今はだいぶ変わってきましたけれど、芸人になりはじめの頃は、“芸人たるもの”みたいな風潮が結構強くあって、お笑い以外のことをやっていると『なんだよ、それ』みたいな雑音はめちゃくちゃありました。でも、そう言われても、それしかできないからしょうがなかったんですよね。トイレや掃除、ラジオ、音楽など、追及してきたことはいくつかあるけれど、“これで飯を食おう”、“テレビに出るためにがんばる”みたいな気持ちはなかったから、やってこられたのかも。
今、これらの好きなこと関連でたくさんお仕事をいただいていますけれど、たまたまそういう風が吹いているだけじゃないかなぁと。だから風が止んだあと、掃除やトイレの仕事が今後なくなったとしても、これからも学んでいくと思うんです。好きなものは嫌いにはならないと思うんで」

 

●「合う人との出会いを大切にしたことでうまく転がっていった」

――この、欲のなさがサトミツさんらしさなのかもしれませんね。

「今は、おかげさまで好きな人と好きな仕事をやらせてもらえるようになって、感謝しかないです。自分の実力でそれを成したというよりは、運よくいろいろな方たちと出会えて…。“出会い”が、うまく転がってくれたという感じです。逆に、いつ仕事がゼロになるかもわからない。まぁ、そうなったらそうなったで、地元の町田でゆっくり過ごすんだろうなと考えたりします」

――いくつかの「出会い」が今のサトミツさんをつくってくれたのですね。「出会った」人に対して、サトミツさんが意識していることはありますか?

「僕、冷めているし、人と話が合うことがほとんどない。そもそも人との交流自体が苦手で飲み会も行かないので、人と会うチャンスは大幅に限られます。しかも嫌な人は避けるので。そんな中でも、僕にわざわざ関わろうとしてくれた人、僕より僕をわかってくれる人と出会えるのは本当にありがたいです。だから僕も合う人には、連絡が来たらすぐに返します。自分から積極的には行かないけれど、大切にしたい出会いや人、ものごとは、とことん大事にしたいと思いますね」

――サトミツさんが今、大切にしたいものは?

「僕を信用して仕事を任せてくださる人たちとの仕事、そして家族、最後にトイレと掃除ですかね。トイレに関しては、日本の技術的にはもうかなり完成型に近づいていると言われていますが、世界的にみるとまだまだ発展させていく必要があります。排泄するだけではなく、人が暮らすうえで非常に重要な場所であると、多くの人に伝えていけたら。掃除もしかりで罰ゲーム的に思われがちですが、そうじゃないと伝えたい。いずれもネガティブなイメージを払拭するための活動が僕のライフワークとなりそうです」

●「“子どもだから間違っている、大人だから正しい”とは思わず1人と人間として息子と向き合っています」

――やはりトイレへ想いはかなり熱いですね。また、ご家庭では10歳の息子さんがいらっしゃいますが、子育ても熱く取り組んでいるのですか?

「僕は子育てには向いていないなとつくづく思います。難しい。ただ、息子には楽しく生きてほしいと思いますね。といっても、笑わせたり、というのはないんだけれど…。唯一やっていることは、『子どもだから間違っている、親だから、大人だから正しい』とは思わず、1人の人間として接するようにしています。僕自身、子どものころに親や大人に決めつけられて嫌だった思い出ばかりだったので、それはしたくないなって。子どもの方が正しいことが多かったりもするんですよね。だから僕は間違えてしまったら、素直に謝るようにしています」

――さてこの本は、約1年の制作期間を経て完成したと聞きました。サトミツさんにとってエッセイ執筆はどんなものでしたか?

「ここまで自分を振り返るのって、結構壮絶な体験でした。封印していた嫌な思い出の箱を開けるのはかなりつらかったです。でも、あらためてまわりの人に助けられてきた人生だったと再確認できたのはよかったですね。楽しくなかったし、嫌なことばかりだったけれど、真面目に生きてきたから今があるわけで、と自分自身を認めてあげられるようになった気もします。このあたりに響く人がいてくれたらうれしいですね」

 

サトミツこと「佐藤満春」の自叙伝エッセイ。オードリー、南海キャンディーズ山里、松田好花(日向坂46)、DJ松永(Creepy Nuts)、日本テレビの安島隆氏、テレビ朝日の舟橋政宏氏との特別対談も収録。