読者から届いた素朴なお悩みや何気ない疑問に、人気作『もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら』(宝島社刊)の作者・菊池良さんがショートストーリーでお答えします。今回は一体どんな相談が届いているのでしょうか。

 

ここはふしぎなお悩み相談室。この部屋には世界中から悩みや素朴なギモンを書いた手紙が届きます。この部屋に住む“作者”さんは、毎日せっせと手紙に返事を書いています。彼の仕事は手紙に書かれている悩みや素朴なギモンに答えること。あらゆる場所から手紙が届くので、部屋のなかはぱんぱんです。

「早く返事しないと手紙に押しつぶされちゃう!」それが彼の口ぐせです。
相談に答えてくれるなんて、なんていい人なんだって? いえいえ。彼の書く返事はどれも想像力だけで考えたショートストーリーなのです。

さぁ、今日も手紙がやってきましたよ──。

 

【今回の相談】「欲しい」と思って買ったものでも、使うのは最初だけ…

「欲しい」と思って買ったものでも、使うのは最初だけですぐに使わなくなってしまいます。この前もマッサージグッズを買って、「いいものを買った」と思って最初は使っていたのですが、いまでは部屋のかたすみに放置されています。
(PN.マルベリーさん)

キングコングやサイバー野良犬が襲ってくるから

サトシとカケルは息を切らせて丘を登っていた。

「おい、この先だ」

ふたりともMRメガネをつけている。MR──ミックスド・リアリティはメガネ型の端末をつけることによって、現実世界のうえに電子の情報を被せることができる技術だ。そうすることで街の見え方は立体的になり、かつてこの場所でこんなことがあったという情報が付与されることになる。

かれらはMRメガネをつけた状態で、草をかき分けて丘を登っていく。

「はぁはぁ……ここだ!」

カケルが声をあげながら指をさす。そこには削り出された細長い石が地面に刺さっていた。ツタが絡まっていて、石の表面がほとんど見えない。カケルが指のさきでツタをのけると、そこに「キングコング」という文字が現れた。

●2人の前に現れた「キングコング」の文字

キングコングの墓だ。

かつてこの街にキングコングが現れ、退治したときにその鎮魂をするためにつくられた墓碑だ。しかし、いまでは忘れ去られ、訪れるものはいない。もう何十年もまえのことだ。かろうじてネットにあった情報をAIが拾い上げてマッピングし、ふたりがそれを見つけたというわけだ。

「いったいここでなにがあったの?」

サトシがそう言うと、MR端末によって映像化された情報が映し出される。キングコングがこの街を襲い、それはひとびとにもふりかかってきた。住民は逃げ惑い、そのなかにはマルベリーさんもいた。しかし、逃げるのが遅れてしまい、キングコングに捕まった。

もはや終わりだと思った。そのとき、マルベリーさんは足もとに落ちていたマッサージグッズを拾い上げると、それでキングコングを殴り倒し、なんとか一命を取り留めたのだった。

サトシとカケルはごくりとつばを飲んだ。

●映像に夢中な2人の後ろに現れたのは…

そのとき、ふたりはうしろに気配を感じた。なにかがいる。ひょっとしてキングコングの幽霊? ふたりは顔を見合わせ、黙ってうなずいた。ゆっくりと後ろを振り向く。そこには、金属製の四足歩行のロボットが立っていた。

サイバー野良犬だ。

ここ数年でペットのAI化が進み、完全なサイバー犬が誕生した。しかし、ペットとして購入したサイバー犬を遺棄するケースも同時に増えた。野良犬となったサイバー犬はエネルギーが尽きるまで活動をつづける。だけど、エネルギーが減ると勝手に電源を探しだして充電をするので、かれらはいつまでも活動をつづけてしまう。通常の犬よりもすばやくそしてパワーも強いので、これが大きな社会問題になっていた。

いま、サイバー野良犬がサトシたちを威嚇している。すぐにでも飛びかかってきそうだ。
サトシはさっき見た映像を思い出していた。マルベリーさんがキングコングをマッサージグッズで殴り倒した映像を。

サトシはキングコングの墓に手をかけた。そして、力を振り絞って地面から墓を引き抜くと、それとサイバー野良犬に振り落とした。鈍い打撃音と同時に崩れ落ち、そして動かなくなる。

サトシは安心すると同時に、怖くなった。腕の力が抜けて、墓石を落とした。墓石が地面に落ちた音で、サトシははっと我に返る。

「おい、逃げよう!」
「うん!」

サトシとカケルは一気に駆け出した。うしろを振り返らずに。

ふたりの背中を見つめながら、サイバー野良犬はうめき声をあげた。そして、なんとか身体を立ち上がらせると、目を真っ赤に光らせた。

【編集部より】

えっと、いずれ役に立つときがくるってことでしょうか? キングコングを倒せるマッサージグッズって、そうとう大きくないですか。マッサージに使うときも危なそうです。自分も倒されませんか!?

なにかを買うときは、用途のシミュレーションをよくしてから購入するのがいいと思います。

「ふしぎなお悩み相談室」は、毎月第2金曜日に更新予定! あなたも、手紙を出してみませんか? その相談がすてきなショートストーリーになって返ってきます。