三が日の番組表からテレビ局の本気度と未来が見えてきます(撮影:尾形文繁、今井康一、sassa626/PIXTA)

正月三が日はテレビの番組表が最も華やかな時期。新年のお祝いムードがあるうえに、在宅率が高く視聴率が上がりやすいため、「テレビは面白い」というイメージアップを図るためにも、民放各局が力を入れた“特番”を放送します。

では、2023年正月三が日のゴールデン・プライム帯は、民放各局がどんな特番を用意しているのでしょうか。それを掘り下げていくと、各局の戦略や本気度が見え、さらに社風のようなものが浮かび上がってきます。

まずは放送日順に民放各局の特番をあげていきましょう。

【1月1日】
●日本テレビ系
「ザ・鉄腕!元日!DASH」(18時〜)、「月曜から夜ふかし 元日SP」(21時〜)
●テレビ朝日系
「芸能人格付けチェック!2023お正月スペシャル」(17時〜)、「相棒 元日スペシャル」(21時〜)
●TBS系
「ジョブチューン〜アノ職業のヒミツぶっちゃけます!元日SP」(17時〜)、「笑いの王者が大集結!ドリーム東西ネタ合戦2023」(21時〜)
●テレビ東京系
「THEカラオケ・バトル」(17時55分〜)、「ものまね芸人がガチで選んだ!いま本当にスゴイものまね芸人ランキング2023」(22時〜)
●フジテレビ系
「ドリフに大挑戦スペシャル」(17時〜)、「有吉の冬休み2023 密着77時間in沖縄」(21時〜)

1日は基本的に各局が最も自信のある特番を放送する日。出演者、セット、ロケに予算をかけて、新年を祝うムードを醸し出す傾向があります。しかし、近年は「芸能人格付けチェック!」と「相棒」を並べたテレビ朝日系が圧倒的に強すぎて、他局は「真っ向勝負」というより、やや引き気味で「2番手狙い」のようなスタンス。今年は『芸能人格付けチェック!』にGACKTさん、『相棒』に亀山薫(寺脇康文)が復活したこともあって、さらなる圧勝ムードが漂っています。

2日夜はとんねるずVS明石家さんま

1月2日】
●日本テレビ系
「1億人の大質問!?笑ってコラえて!新春4時間半SP」(18時30分〜)
●テレビ朝日系
「夢対決2023とんねるずのスポーツ王は俺だ!!5時間SP」(18時〜)
●TBS系
「バナナマンのせっかくグルメ!!新春SP」(17時〜)、「集まれ!内村と○○の会 新春SP」(21時〜)
●テレビ東京系
「出川哲朗の充電させてもらえませんか?新春4時間SP」(17時55分〜)、「街角ホワイトボード先生」(22時〜)
●フジテレビ系
「お笑いオムニバスGP」(18時〜)、「千原ジュニアの座王 新春SP」(22時〜)

2日の中心は、テレビ朝日系が2009年から14年連続で同日に放送している「とんねるずのスポーツ王」。ただ、日本テレビ系の「笑ってコラえて!」も明石家さんまさんを迎えた正月仕様の特別版であり、華やかさでは負けていません。面白いのがお笑い純度の高い特番を2つ並べ、さらにその前番組で「新春大売り出し!さんまのまんま」(16時15分〜)も放送するフジテレビ系。「オムニバスGP」「座王」ともにジワジワと人気を上げている特番だけに、正月らしくお笑い三昧になりたい人の支持を集める可能性を秘めています。

【1月3日】
●日本テレビ系
「ザ!世界仰天ニュース 新春5時間SP」(18時〜)
●テレビ朝日系
「サンドウィッチマン&芦田愛菜の博士ちゃん 新春SP」(18時〜)、「新春ドラマスペシャル DOCTORS〜最強の名医〜ファイナル」(21時〜)
●TBS系
「アイ・アム・冒険少年 新春!脱出島SP」(17時〜)、「マツコの知らない世界 新春SP」(21時〜)
●テレビ東京系
「家、ついて行ってイイですか?お正月4時間スペシャル」(17時55分〜)、「秘境のガソリンスタンドに3日間密着してみたら?」(22時〜)
●フジテレビ系
「VS魂 グラデーション 2023超豪華新春3時間SP」(18時〜)、「映画『コンフィデンスマンJP 英雄編」(21時〜)

3日は、正月の風物詩と言える特番がなく、各局がレギュラー番組の大型特番をそろえた形。今年の1月3日は火曜日ですが、本来の放送曜日とは関係なく集められているだけに、「三が日に放送できるほど現在自信のあるレギュラー番組の大型特番」と言っていいでしょう。また、約11年にわたって視聴者の支持を得てきたドラマ「DOCTORS」のファイナルも話題を集めそうです。

無難な日テレと2トップのテレ朝

次に番組表をテレビ局別に並べ替えてみましょう。すると、各局の戦略や本気度が見えてきます。

【日本テレビ系】
1日「ザ・鉄腕!元日!DASH」(18時〜)、「月曜〜夜ふかし 元日SP」(21時〜)
2日「1億人の大質問!?笑ってコラえて!新春4時間半SP」(18時30分〜)
3日「ザ!世界仰天ニュース 新春5時間SP」(18時〜)

いずれもレギュラー番組の特番であり、基本的に正月ならではの特番はありません。これはコア層(13〜49歳)の視聴率トップを独走する日本テレビだから可能な戦略に見えますが、裏を返せば、「コスパのいい無難な勝負を選んだ消極策」ということ。正月らしい特番のないこのラインナップにトップらしい余裕はなく、「三が日まで長寿番組に頼っている」という点で未来への不安を感じさせます。

「視聴率獲得」という観点では失敗しづらい一方で特別感に欠け、「正月気分を味わいたい人には後回しにされる」「正月に放送することで勤続疲労が進む」などのリスクを内包しています。

【テレビ朝日系】
1日「芸能人格付けチェック!2023お正月スペシャル」(17時〜)、「相棒 元日スペシャル」(21時〜)
2日「夢対決2023とんねるずのスポーツ王は俺だ!!5時間SP」(18時〜)
3日「サンドウィッチマン&芦田愛菜の博士ちゃん 新春SP」(18時〜)、「新春ドラマスペシャル DOCTORS〜最強の名医〜ファイナル」(21時〜)

正月三が日のトップランナーはテレビ朝日系で間違いないでしょう。他局が正月ならではの特番から撤退する中、「芸能人格付けチェック」「とんねるずのスポーツ王」の2トップをキープしつつ、オリジナルドラマを2作手がける意欲的な姿勢を見せています。

一方、3日の「博士ちゃん」はレギュラー番組であり、ファミリー層狙いの無難な戦略。ここにもう1つ正月ならではの特番があれば、「三が日はテレビ朝日を見ればOK」という他局を寄せ付けない強力なブランディングになりそうです。

ただ、浜田雅功さん(59歳)、水谷豊さん(70歳)、石橋貴明さん(61歳)、木梨憲武さん(60歳)、沢村一樹さん(55歳)など、主要出演者の年齢層が他局より高いのが気になるところ。必ずしも「収益性の高いコア層に受ける特番ではない」ところがウィークポイントでしょう。

ドラマ消滅のTBSとブレないテレ東

【TBS系】
1日「ジョブチューン〜アノ職業のヒミツぶっちゃけます!元日SP」(17時〜)、「笑いの王者が大集結!ドリーム東西ネタ合戦2023」(21時〜)
2日「バナナマンのせっかくグルメ!!新春SP」(17時〜)、「集まれ!内村と○○の会 新春SP」(21時〜)
3日「アイ・アム・冒険少年 新春!脱出島SP」(17時〜)、「マツコの知らない世界 新春SP」(21時〜)

「ドリーム東西ネタ合戦」は正月ならではの大型ネタ特番であり、ロケ特番の第2弾である「内村と〇〇の会」は鮮度十分。ただ、「ジョブチューン」「せっかくグルメ」「冒険少年」「マツコの知らない世界」は、日ごろ特番を連発しているレギュラー番組であり、正月の放送日も昨年と同じと、編成の苦しさが透けて見えます。

また、この5年間、「義母と娘のブルース」(2度放送)、「逃げるは恥だが役に立つ」「下町ロケット」「都庁爆破!」と大型スペシャルドラマを手がけ続けてきただけに、ドラマが得意なTBSとしては1つの武器を手放してしまった感が否めません。

【テレビ東京系】
1日「THEカラオケ・バトル」(17時55分〜)、「ものまね芸人がガチで選んだ!いま本当にスゴイものまね芸人ランキング2023」(22時〜)
2日「出川哲朗の充電させてもらえませんか?新春4時間SP」(17時55分〜)、「街角ホワイトボード先生」(22時〜)
3日「家、ついて行ってイイですか?お正月4時間スペシャル」(17時55分〜)、「秘境のガソリンスタンドに3日間密着してみたら?」(22時〜)

こちらは「土日のレギュラー番組を特番化しよう」というシンプルな戦略。無理して他局と張り合おうとせず、「既存の番組ファンに見てもらおう」という身の丈を考えるような姿勢がうかがえます。

しかし22時台は、番組名を見ただけで「クスッ」と笑ってしまうようなテレビ東京らしい3特番がそろいました。「他局がスケール感をどのように醸し出すか」を考える中、ニッチな面白さを追求するスタンスは正月三が日もブレていません。

社長交代で「笑い」に特化したフジ

【フジテレビ系】
1日「ドリフに大挑戦スペシャル」(17時〜)、「有吉の冬休み2023 密着77時間in沖縄」(21時〜)
2日「お笑いオムニバスGP」(18時〜)、「千原ジュニアの座王 新春SP」(22時〜)
3日「VS魂 グラデーション 2023超豪華新春3時間SP」(18時〜)、「映画『コンフィデンスマンJP 英雄編」(21時〜)

三が日の視聴率争いで厳しい戦いが続くフジテレビの元日は、「ドリフに大挑戦」という変化球で勝負。家族が最も集まる日にどれだけ見てもらえるのか、最も未知数な特番と言っていいでしょう。

その他もレギュラー番組は「VS魂」のみであり、「お笑い要素の濃い特番で勝負しよう」という明確な戦略がうかがえます。「お笑いオムニバスGP」は前回の放送で「オモウソい店」が好評だっただけに、正月にどれだけ受け入れられるのか。視聴率の不安こそ少なくないものの、コメディ映画の「コンフィデンスマンJP」のセレクトも含め、笑いに特化した戦略で差別化できれば、今後の浮上につながるかもしれません。

正月三が日の番組表をテレビ局別で見ていくと、戦略や社風のようなものが浮かび上がってきました。

日本テレビは、「シビアな視聴率狙いで、人気番組に振り切る」という現実的かつ保守的。テレビ朝日は、オリジナリティこそ高いものの、出演者も視聴者も年齢層は高め。TBSは、強みのドラマを生かせず、バラエティは「攻めか守りか」の迷いが見られる。テレビ東京は、正月三が日もほとんど変わらずマイペース。フジテレビは、社長交代もあって「笑いで勝負」という方針は明確だが、強力コンテンツがないため模索中。

日ごろ私が取材している限り、これらは正月三が日に限ったものではなく、1年を通じた戦略や社風のようにも見えます。制作費や制作体制などの問題で、オリジナリティのある番組を手がけることが難しくなっている中、いかに企画力で勝負していけるか。民放各局が“開発枠”と言われる放送枠でさまざまな企画を試していますが、なかなかここにあげた番組に代わるものは見つからないようです。

ネット普及で見直される正月らしさ

どのテレビ局も「レギュラー番組や不定期特番の人気をできるだけ保ちながら、社会の変化に合わせた新たなマネタイズを考えていきたい」という点では同じ。だからこそ今後のカギを握っているのは、目先の結果だけでなく、近い未来に向けたトライアルがどれだけできるか。「次の改変期である春には、さまざまな動きが見られそう」と聞いているだけに楽しみです。

最後に、正月三が日のゴールデン・プライム帯以外で放送される、その他の注目特番をあげていきましょう。

1日の「新春!爆笑ヒットパレード2023」(フジテレビ系、7時〜)、「ニューイヤー駅伝」(TBS系、7時30分〜)、「笑神様は突然に…2023元日4時間SP」(日本テレビ系、11時〜)、「おしょうバズTV」(テレビ朝日系、12時〜)、「さんタク」(フジテレビ系、15時〜)、「笑点 お正月だよ!大喜利まつり」(日本テレビ系、15時30分〜)。

2日の「箱根駅伝・往路」(日本テレビ系、7時〜)、「浜田・大吉・濱家主催 新春ツッコミ芸人総会2023」(日本テレビ系、16時5分〜)、「新春大売り出し!さんまのまんま」(関西テレビ・フジテレビ系、15時15分〜)、「芸人シンパイニュース」(テレビ朝日系、23時〜)、「笑アセろ」(TBS系、23時30分〜)。

3日の「箱根駅伝・復路」(日本テレビ系、7時〜)、「二宮ん家」(フジテレビ系、16時15分〜)、「内村&さまぁ〜ずの初出しトークバラエティ 笑いダネ」(日本テレビ系、23時〜)、「ゴッドタン 芸人マジ歌選手権」(テレビ東京系、23時30分〜)、「ここにタイトルを入力」(フジテレビ系、23時40分〜)。

オンデマンドが発達し、いつでも好きなものを見られるようになった結果、昨年の今ごろに「むしろ正月を感じさせられるものを見たい」という声が散見されました。その点、テレビには打ってつけの特番がまだまだあるだけに、ザッピングしながら楽しんでみてはいかがでしょうか。

(木村 隆志 : コラムニスト、人間関係コンサルタント、テレビ解説者)