Vol.27 サングラス型スマートグラス「Nreal Air」が3D視聴に対応[染瀬直人のVRカメラ最前線]
Nrealが手掛けるスマートグラス「Nreal Air(エンリアル・エアー)」は、サングラス型の小型・軽量なスマートグラス(モバイルディスプレイ)だ。対応するAndroidのスマートフォンと接続することで、3DoFのAR表示や動画の視聴を楽しむことができる。
2023年1月のアップデートでは、3Dコンテンツの視聴にも対応する予定で、期待が膨らむ。今回の連載では、このNreal Airを取り上げてみたい。
実機協力:KDDI株式会社
概要
Nreal Technology Limited社は、2017年創業の北京に本社がある中国のスタートアップ企業で、日本では2020年に6DoFをサポートした高性能ARスマートグラス「Nreal Light」がauより発売されている。今回取り上げるNreal Airは、機能を絞り込み、よりコンパクトに仕上げた製品として、2022年の3月にauとNTTドコモから発売された。現在はソフトバンク(実店舗限定)やNreal(Amazon)からも販売中。
視野角約46°のシースルーのディスプレイに投影された映像が、透過した実景とオーバーラップして、3DoFのAR体験を可能にしている。
Nreal Airは単体ではなく、スマートフォンに接続して、給電や演算処理をスマホ側に依存することで、小型軽量化を達成している。スマホにインストールした「Nebula」という専用アプリと組み合わせて操作することになる。基本的にAndroid対応のスマホを用いるが、別売のアクセサリーを利用することで、Android以外のOSにも対応可能となる。
上位モデルであり6DoF対応のNreal Lightよりは、AR的な自由度は下がるものの、約20%の軽量化と、最大稼働時間が50%ほどアップしている。サングラスに似た形状で、約79gと軽量なので、持ち運びや装着も容易であり、外出先でも動画の視聴はもとより、スマホやPCの外部ディスプレイとしての活用も想定される。
情報家電・パソコンの売り上げランキングを調査しているBCNのレポートによれば、Nreal Airは日本のAR市場で90%以上のシェアを誇っている。
仕様について
Nreal Airは、使用時の本体のサイズが148mm×52mm×159mm、収納時は148mm×52mm×60mm、重さが約79g(筆者の実測計量では81g)となっている。ディスプレイは、有機ELを採用。解像度は、1920×1080ピクセル(単眼)、3840×1080ピクセル(両眼)。ディスプレイより、プリズムを利用して、斜めに配置されたハーフミラーに映像が投影される仕組みである。
カラースペースは、sRGB 108%。色深度は、8ビットで1677.3万色。輝度が最大400nits。コントラスト比は、100000:1。視野角が約46°。画素密度が49PPD(pixel per degree)となっている。
4mで130インチ(Air Casting使用時)、6mで201インチほどの大画面モードを実装(AR Space使用時)と謳われているが、個人的には大スクリーンの没入感までは実感しにくかった。ただし、輝度が高めであることと、視野角が広くはない分、画素密度が高いので、高精細な画質は特筆ものである。
4000mAhのバッテリー容量を持つフル充電のスマホをWi-Fiに接続して、画面の明るさを最低にした状態では、Air Castingモードで最大5時間の動画視聴が可能となっている。軽量で装着がしやすく、テュフ ラインランドの低ブルーライト、フリッカーフリー、Eye Comfortの認定を受けていることもあり、身体的な負担も軽いので、比較的長時間の使用にも耐えうる。ただし、ゲーム等で長時間使用した場合には、スマホ内の処理が過負荷状態になる可能性が考えられる。検証時においては、特段の発熱は感じられなかった。
本体のブリッジの内側の中央部分には、近接センサーが配置されている。右側のテンプル(つる)には、マイク、スクリーンのオン/オフボタン、画面の明るさ調整ボタン、空間音響スピーカー。左側のテンプルには、空間音響スピーカー、USB Type-Cの端子が配置されている。
また、現在、対応しているスマホは、メーカーのサイトから確認できる。
Nebulaアプリの主な機能
専用アプリのNebulaからは、AR空間上に複数のWebページやアプリを同時に開くことができる「ARモード」と、スマホの画面をシンプルにミラーリングする「Air Casting」という2つのモードが使用できる。
ARモード
ARモードは、AR体験はもとより、空間上に映像を映し出すことができる機能である。複数のWeb View画面を最大同時に5つまで開くことができる「AR Space」といった使い方も可能だ。空間上の仮想スクリーンは、配置や大きさを自由に調整することができて、マルチタスクを行うイメージだ。
Air Casting(ミラーリングモード)
Air Castingモードとは、Nreal Airと接続したスマホの画面を、グラス上にミラーリング表示する機能である。Nreal Airが、スマホのサブスクリーンとなって、動画コンテンツやゲームを、仮想スクリーン上に映し出して楽しむことができる。動画の再生には、スマホにインストールされているアプリを使用することになる。また、Air Castingでは、フルスクリーンと、左半分に表示させるサイドスクリーンの2通りの表示方法がある。
使い方について
同梱されている付属品は、以下の通りである。
- グラス用トラベリングケース
- ライトシールド
- ノーズパッド×3
- 視度補正用レンズフレーム
- USB Type-C ケーブル
- クリーニングクロス
- ユーザーマニュアル
- クイックスタートガイド
基本的に、Nreal Airは、対応している機種のAndroidスマホと、付属のUSB Type-Cケーブルで有線接続して使用する。専用ケーブルは、グラスのテンプルの先端のスロットに、差し込みやすいように角度をつけた仕様になっている。Nreal自体には、バッテリーは内蔵されておらず、スマホから給電を行う。詳細な操作は、スマホのNebulaアプリから行う。
初回利用時は、NebulaのNrealアカウントの作成、ログイン後に、ユーザー登録(名前/国・地域/生年月日/性別/瞳孔間距離[IPD]等の入力)、権限の付与、ファームウェアのアップデート、アクティベーションというプロセスを経る。スマホ自身がコントローラーとなり、そこから発光されるレーザーを用いてインタラクティブに操作ができる。
視度補正レンズのフレームが同梱されているので、必要に応じて、カスタムメガネショップのJUN GINZAなどの公認取扱店舗から補正レンズを購入して利用できる。レンズフレーム自体は、Nreal Airのレンズの内側にあるマグネットにより着脱が可能だ。
また、テンプルの幅はユーザーの顔の形状に合わせて、最大左右20°、合計40°の範囲で調整可能である。角度も耳の形状に合わせて、±3.5°の3段階に変更できる。ノーズパッドは、予めグラスに装着済みのものも含めて、S・M・Lの3種類の大きさが用意されており、ユーザーの鼻の形状に合わせて、選択できる。動画視聴等で、視認性を良くしたい際には、付属のライトシールド(レンズシェード)をグラスに被せることで、外光が遮断され、映像が見やすくなる。
左右のテンプルの下側には、ステレオのスピーカーがある。ヘッドフォン端子はないので、利用したい場合は、スマホとワイヤレスイヤホン等を接続して、音声を出力することになる。またBluetooth接続のイヤホンを使用することもできる。
パソコンに接続して外部ディスプレイとして使用することも容易だ。筆者が、Mac Book Pro(M1チップ)搭載のUSB Type-Cのケーブル端子から接続してみたところ、問題なくグラス上で表示が行われた。
さらに、別売りの「Nreal Streaming Box」と接続することで、Android以外のiOS、Windows OS、Mac OSのデバイスとワイヤレス(Miracast)でミラーリング表示が可能となる。ただし、専用アプリのNebulaが使えない等の制限があることと、扱っていない販売会社もあるので注意が必要だ。
9月には、Nreal Airに非対応機種のiPhoneと「Lightning Digital AV Adapter」を組み合わせたり、XboxやNintendo Switch、PlayStation等とHDMI接続で使用できる「Nreal Adapter」も発売されている。こちらも機種により、相性の確認が必要な場合があると思われるので要検証である。
3Dコンテンツへの対応
先日、日本Nreal社は、2023年1月中に実施予定のアップデートにおいて、Nreal Airが3D動画コンテンツの視聴に対応すると発表した。
具体的には、メディアプレーヤーの「VLC Player」アプリを利用することで、接続したスマホ内のローカルのストレージに保存してあるサイドバイサイド形式の3D動画ファイルを再生できるようになる。グラス側ではAir Castingモードで表示を行い、3Dモードと2Dモードを切り替えることができる。
すでに、中国では対応するベータ版のファームウェアが提供されている模様だ。
筆者が実際に3Dのサンプル映像を先行して体験してみたところ、グラス上の立体視は、鮮明な画質が印象的で、立体感も非常に良好であった。個人的には、これこそ、Nreal Airのベストな使い方の一つであると実感した。
ただし、3Dコンテンツを視聴する際は、解像度が4分の1程度まで落ちてしまうので、動画ファイルは、高解像度のデータを用意するように心掛けたい。
Nreal関係者によると、ゆくゆくはサイドバイサイド形式以外にも、トップアンドボトムのレイアウトの3D動画ファイルや、360°や180°のVR動画コンテンツにも対応したいとのことなので、今後の進化にも期待したい。
まとめ
Nreal Airの最大のアドバンテージとしては、何と言っても、小型・薄型・軽量で、持ち運びが容易なポケットサイズのプライベートシアターとしての利用法であると思われる。輝度が高めで、発色も良好、開放型スピーカーからの音声も明瞭である。また、Air Castingモードのミラーリング表示や外部ディスプレイとしても利用できるので、プレゼンやテレワークでの活用も想定できる。画素密度が高いので、文字の視認性も非常に良い。
Nreal Airは、3DoFの仕様であるから、ARとしての使い方は限定的であり、高度なパフォーマンスを期待するなら、6DoF対応のハイエンドなデバイスであるHoloLens2や同社のNreal Lightを使用することになるだろう。
リクエストとしては、安定して動作するARアプリのラインナップの充実。そして、スマホをコントローラーとして利用するタイプにありがちなことだが、ポインターの感度があまり高くない場面があるようなので、そのあたりは今後の改善に期待したい。グラスのフィット感は、ノーズパッドやテンプルの角度を調節することで変わってくるのと、見え方にも影響することなので、装着時には配慮するように心がけていただきたい。今後のアップデートによる、3DやVRコンテンツの視聴の可能性も楽しみである。