今年のQTは若林舞衣子がトップ通過(撮影:福田文平)

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ゴルフを愛するみなさん、こんにちは。原田香里です。女子ツアーは、日米ともにオフシーズンに入りましたが、みなさんの中には年末コンペの準備など、忙しく過ごされている方も少なくないことでしょう。寒いので、くれぐれもケガなどしないように楽しんでください。
喜び爆発! ジャンピング舞衣子【写真】
さて、今回のテーマはクオリファイング・トーナメント(QT)です。翌年のツアー出場権がかかる大切な戦いです。
QTファイナルステージは、例年どおりツアー最終戦「JLPGAツアーチャンピオンシップリコーカップ」終了後の11月29日から4日間72ホールで行われました。舞台は、岡山県のJFE瀬戸内海GC。シード落ちした選手や、ファーストステージを勝ち抜いた選手たち96人が、来季の出場権順位を巡る戦いに参加しました。
「試合に出てなんぼ」というのがツアープロです。私がプロになったころは、まだQTではなく月例競技で出場権を争っていましたが、QT制度導入により、より実力が反映されるようになっています。そのぶん、戦いは厳しさを増してもいるのです。
トーナメントは季節による日照時間の関係などもあり、出場できる人数に多少の違いがあります。それもあって、シード選手をはじめとする出場権を持った選手の出欠状況次第で、QTを通過した選手から出場できる人数は大会ごとに違うのですが、昨年までの例を見ると大体35位前後までに入れば、多くの試合に出られると思っていいでしょう。
ただ、リランキング制度が始まってからはQTで上位に入っても油断はできません。QTのランキングによる出場順位が適用されるのは、第1回のリランキングまで。それまでの成績次第で、入れ替えられたランキングがそれ以降には適用されるので、コンスタントに結果を出さなくてはならないからです。
私も2005年に賞金ランキング54位でシード権を失い、複数年シードも05年になくなり、その年のQTに初めて行った記憶があります。当時、39歳。「ああ、QTに来ちゃったのか」というショックと「何とかしなくちゃ」という焦りで、本当に嫌だったというか、情けない気持ちがあったことを覚えています。
調子が悪い中で何とかしようとして、それでもうまくいかなかったからQTに行くことになったのです。最後まであきらめることなくプレーしつつ、シーズンが押し迫ってきてからは覚悟をしていました。けれども、気持ちはついて行かない。結局、うまくいかずに帰りのクルマで大泣きしたことを覚えています。
翌年の出場記録を見ると、レギュラーツアーには5試合しか出場していません。当時はリランキング制度もまだなく、5試合のうち日本女子プロゴルフ選手権は歴代優勝者の資格で出ているはずなので、本当にQTの結果はボロボロだったのでしょう。ステップアップツアー10試合でもプレーしているようですが、本当にあまり覚えていません。それほど、ショックだったのだと思います。
シード選手としてプレーした経験があるほど、QTからまたやり直すというのは大変なエネルギーが必要になります。年齢を重ねれば重ねるほど、大変になるのはまちがいありません。
今年のQTでは、若林舞衣子選手が1位になりました。初日に8アンダーを出して、コンディションがどんどん厳しくなる中、ジワジワとスコアを伸ばして通算11アンダーでの1位はさすがというか、素晴らしすぎます。
34歳という年齢だけではありません。若林選手は19年に出産を経験しています。産休を経てカムバックした後、21年「GMOインターネット・レディースサマンサタバサグローバルカップ」でツアー4勝目を挙げています。お子さんとともに優勝を喜ぶシーンが印象的でしたが、勝負の世界は厳しいものです。
今年はランキング(今年から賞金ではなくポイント制のメルセデスランキングになりました)88位でシードを失いました。シーズン中に新型コロナウイルスに感染し、4週間、試合に出られなかったなどの事情はあったようですが、結果は受け入れるしかありません。
若林さんだけでなく、出産後にカムバックするプロはみな、それを乗り越える大変な努力をしています。若林さんは、それを乗り越えて優勝し、シードを失ったところからもQTから出場権を手にしました。体力と精神力、そしてそれを維持する力に対しては、本当にすごいなあ、と感じています。
通常の試合が優勝を争うのに対し、QTは一定以上の順位に入ればいいという戦いです。私がQTに出ていた頃は、冒険をし過ぎないように、安全に攻めていたのですが、よりレベルが高くなった現在は、それでは上位に入れません。
今回、QTが行われたJFE瀬戸内海GCは、風も強く、日本ではまり見かけないリンクスのような難しいコースなのですが、そこで若林さんはトップの通算11アンダー。出場の目安となる35位の大城さつきさんのスコアが通算2アンダーということを考えれば、ツアーのレベルが本当に上がったのだな、ということがよくわかります。
一方、QTであまり上位に入れなかった人にも、チャンスがないわけではありません。主催者推薦枠での出場や、マンデーと呼ばれる大会週に行われる予選(これも推薦枠を争うものです)での出場機会もあります。さらに「ウエイティング」といってとにかく現地に行って出場権の順番が下りてくるのを待つという手段があります。急な欠場者などで出場のチャンスが巡ってくることがあるのですが、その場合は、現地でウエイティング登録している選手の中で、順位が上の人から出場することができるのです。
今年、11年ぶりの優勝を飾った金田久美子さんのQTランキングは87位でした。主催者推薦などで出場権のある試合で上位に入って、リランキングでその後の出場権を獲得。優勝につなげたのです。
競争が年々厳しくなるツアーの中で、しっかり心技体を充実させ戦い続けることは、本当に大変なことです。シードを手にした人も、QTで上位に入った人も、どちらもかなわなかった人も、置かれた状況で一生懸命頑張るしかない……。まずは、1年の疲れを癒し、来年のシーズンに向けてよいオフを過ごしてほしいと思います。選手のみなさん、お疲れ様でした。

■原田香里(はらだ・かおり)
1966年10月27日生まれ、山口県出身。名門・日大ゴルフ部にで腕を磨き1989年のプロテストに合格。92年の「ミズノオープンレディスゴルフトーナメント」でツアー初優勝。93年には「日本女子プロゴルフ選手権大会」、「JLPGA明治乳業カップ年度最優秀女子プロ決定戦」勝利で公式戦2冠を達成。通算7勝。その後は日本女子プロゴルフ協会の運営に尽力し21年3月まで理事を務めた。
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