掲載:THE FIRST TIMES

写真拡大

音楽クリエイター・johnのソロプロジェクト、TOOBOE。2022年4月に配信シングル「心臓」でメジャーシーンに進出したTOOBOEから、1st EP『錠剤』が届けられた。表題曲「錠剤」はTVアニメ『チェンソーマン』エンディング・テーマに起用され、凄まじい注目を集めている。メジャーデビュー後の活動の変化、「錠剤」の制作プロセス、EP全体のコンセプト、さらに音楽的なルーツなどについてもじっくりと語ってもらった。

【その他の画像・動画を元記事で見る】

■『チェンソーマン』関連の話があったら、ぜひ参加したい」と伝えていた

──メジャーデビューから半年以上が経ちましたが、活動スタイルなどに変化はありましたか?

大きく変わったわけではないですね。作詞、作曲、編曲を自分でやるのも同じですし。もちろん、サポートしてくれる方が増えたのはありがたいですけどね。インディーズで発表した『千秋楽』というアルバムは僕とマネージャーのふたりだけで作ったんですよ。今は映像クリエイターやデザイナーの方も関わってくれて、自分からは出てこないアイデアをいただけることも多いので。

──活動の幅も広がりそうですよね。1st EP『錠剤』の表題曲は、TVアニメ『チェンソーマン』のテーマソング。大注目のアニメ作品とのタイアップですね。

そうですね。『チェンソーマン』はもともと原作のファンで、1話からジャンプの連載で読んでいて。藤本タツキ先生の前作『ファイアパンチ』も好きだし、ファンだったんですよ。スタッフの方にも以前から「『チェンソーマン』関連の話があったら、ぜひ参加したい」と伝えていたんですが、あるとき「アニメ化にあたって曲を募集しているみたいだから試しにデモ出してみて。頑張れ。」と言われ。めちゃくちゃ気合いを入れて作った曲だし、参加させてもらえることになってすごくうれしいです。他の参加アーティストも錚々たる面々じゃないですか。

■“これは絶対、俺の音楽に合うはずだ”と思いながら読んでました(笑)

──TK from凛として時雨、女王蜂、Aimer、Eve、ずっと真夜中でいいのに。、Vaundy、syudou、ano、Kanaria、PEOPLE!というラインナップですからね。TOOBOEさんにとって『チェンソーマン』の魅力とは?

いろいろあるんですが、まず主人公のデンジくんが現代っぽいですよね。“元気はつらつ”とかではなくて、ちょっと影があるし、志も低くて。TOOBOEはもともと“負け犬の遠吠え”というコンセプトがあるんですけど、『チェンソーマン』にも犬というモチーフがよく使われているし、ルーザー(敗者)感もある。連載が始まったときから、“これは絶対、俺の音楽に合うはずだ”と思いながら読んでました(笑)。おそらく藤本先生と年齢が近いと思うんですけど、作品に出てくるパロディやオマージュの元ネタにも共感してますね。

■狂った感じを出したくて

──以前からめちゃくちゃ共鳴していた、と。「錠剤」はTOOBOEさんの個性、オリジナリティがさく裂しています。“ここは自分の武器で勝負だ”という思いもあったのでは?

そうですね。これまでは「直前に出した曲とは違うことをやろう」という感じがあったんですけど、今回は自分の武器やクセをしっかり取り込んで、これまでに得てきたノウハウを生かしつつ、狂った感じを出したくて。アレンジやサウンドメイクも、今まででいちばんヤバイと思います。実はデモを10曲くらい作ったんですよ。「錠剤」は最初のほうに作った曲で、初期衝動じゃないけど、いちばん勢いがあったんですよね。

──確かに。制作においては当然、『チェンソーマン』の世界をイメージしていたと思いますが、どの部分にフォーカスしていたんですか?

自分が担当させてもらったのは4話(11/1オンエア)なんですけど、デンジくんの相棒のパワーちゃんという女の子のエピソードがひと段落する回で。パワーちゃんの狂気やかわいさだったり、デンジくんから見たパワーちゃんの魅力も入れ込もうと思っていました。

──“真夜中に鳴いた銃声/それが胸を貫いた瞬間 生きてると実感したんだわ”というラインも強烈でした。

そのあたりはデンジくんのイメージですね。デンジくんは脳から直接言葉が出てくるようなキャラで。常に性欲に突き動かされているし、生きるか死ぬかの状況でも“モテたい”とか思っているような人間で。そういうギリギリ感を表現したいという気持ちもありました。

■心地よさと気持ち悪さだったら、なるべく気持ち悪さを取る

──“狂気”“ギリギリ感”はまさに『チェンソーマン』の核ですよね。メジャーシーンでヤバいことをやるというスタンスも、『チェンソーマン』とTOOBOEさんの共通点なのかなと。

“受け入れられる作品を作る”というのが大前提なんですけど、心地よさと気持ち悪さだったら、なるべく気持ち悪さを取りたくて。メジャーデビューしてからも、その意識はずっとありますね。

──TOOBOEさんにとっては、“気持ち悪い”音や言葉がカッコいい。

そっちの方が刺さるんですよ、個人的に。以前、『チェンソーマン』の担当の林士平さんと話をする機会があったんですけど、言葉の端々に“たぶん藤本先生も、同じような選択をしているんだろうな”と感じるところがあって。林さんは「作品が続けば続くほど、ファンは減っていく」という考えなんですよ。だからこそ定期的に道を外れたようなことをやって、「面白いことをやってる」と世の中に知らしめる必要があると。その話は面白かったし、自分の考え方もちょっと変わってきたんですよね。「曲を出せば出すほどファンは増えるはず」と思っていたんですけど、リスナーを振り向かせるようなことを出し続けることが大事なんだなと。

■“いい曲だな”とスッと入っていくことを常に意識してる

──そのひとつが“気持ち悪い”ことだったり、セオリーから外れたことなんでしょうね。でも、一方ではポップスをやっているという意識もあるのでは?

それはもう僕の遺伝子というか、ずっと歌謡曲を聴いてきたので、メロディや歌詞に入ってるんだと思います。音楽に詳しい人に“テクニカルなことをやってるな”と思わせるだけじゃなくて、街中でたまたま聴いたときに、“いい曲だな”とスッと入っていくというか。それは常に意識してますね。

──そのためにはボーカルの表現力も大事ですね。「錠剤」の表情豊かな歌からも、シンガーとしての幅の広がりを感じました。

Aメロはテンションを押さえて、Bメロからはグラデーションを濃くしていて。自分でも“少しずつ歌い方がアップデートされてるな”と感じてますね。同じメロと歌詞でも、例えば声に含まれる息の量によっても、全然伝わり方が違うので。まあ、それも最近気づいたんですけど(笑)、さらに歌は面白いなと思うようになりました。

──TOOBOEがスタートした当初は、“自分が歌う意味があるんだろうか?”という気持ちがあったそうですが、シンガーとしての明確な自我が出来つつある?

“徐々に”という感じですね。それこそ最初の頃は自分の曲が流れてくると“恥ずかしい”って思ったりしてたんだけど、だいぶ慣れてきて。自分の歌を俯瞰して、“この音域の成分が気持ちいいのかもな”と分析できるようになってきましたね。

■意図的にタイプが違う曲を選んだ

──「錠剤」以外の収録曲も強い個性が漲ってますね。

もちろん「錠剤」がいちばん聴かれると思うんですけど、EPを買ってくれた人に「こんな曲もやってるんだよ」と紹介できるような4曲にしたくて。意図的にタイプが違う曲を選びました。「ivory」はかなり前から存在していた曲で、あとの2曲(「まるで亡霊」「ヤング」)はEPの制作に入ってから勢いで作った曲ですね。

──「ivory」を書いたのはいつ頃なんですか?

2年くらい前ですね。TOOBOEとしての最初の曲は「赫い夜」なんですけど、チームで「どういう曲をやろうか」と話し合って、いろんな曲を作って。「ivory」はその段階からあったんです。「いい曲だからシングルにしようか」という話もあったんだけど、なかなかタイミングが合わず。自分の作風もどんどん変化しているから、これ以上先延ばしになると出せなくなる気がして、今回のEPに収録しました。歌は録り直しているし、いろいろとカスタマイズされているので、ここで出すのは必然だったのかなと。

──初期のテイストと現在のセンスが合わさっているというか。ちなみにTOOBOEを立ち上げた当初は、どんな音楽性を想定していたんですか?

「邦楽をちゃんとやろう」という話はしてました。ちょうど時代が変わってきて、YOASOBIさんもそうですけど、ボカロらしさを感じさせるアーティストがどんどん出てきて。自分もボカロPをやっていたし、邦楽とボカロをミックスした曲はどうだろう、と。

■ヒット曲には“これは売れるよな”という独特のオーラがある

──そこで歌謡曲のルーツが活かされた?

そうですね。それが自分のいちばんの武器というか。自分が生まれる前の曲であっても、ヒット曲には“これは売れるよな”という独特のオーラがあるんですよね。言葉にするのは難しいんですけど、「ルビーの指環」(寺尾聰)にしても、イントロがはじまった瞬間にグッと惹きつけられる。「異邦人」(久保田早紀)もそうですよね。

──「ivory」もTOOBOEさんの個性が強く出ている楽曲ですね。

“どうして僕はこんなに心が弱くみえるのか”というサビの一行がバン!と出て来て、そこから作り始めた曲ですね。ビートが軽快でギターが効いてて、疾走がある曲にしようと。歌詞は文学性をあえて下げているというか、現代っぽい言葉遣いを意識してました。普通に話しかけるようなラフな感じがあって。

■サブスクの時代になって、カップリング曲というものがなくなってる気がして

──いい意味で作り込んでない曲と言えるのかも。

そうですね。こういう曲を作るのは楽しいです(笑)。「錠剤」みたいに“勝てる曲を作るぞ”みたいな気合いで制作する曲もあるんですけど、「ivory」はそうじゃなくて、体から出てくるもの、思いついたものを入れて自由に作る曲もあって。それを交互にやってる感じでもありし、両方あるから面白いというか。サブスクの時代になって、カップリング曲というものがなくなってる気がして。

──“B面”はアーティストが自由に表現できる場所でもあったんですけどね。

場合によっては、そっちが本質ということもあったと思うんですよ。僕自身もB面の曲が好きだし、TOOBOEのシングルにもカップリングを付けているんです。

──なるほど。「まるで亡霊」は、どんどん自分の意志をなくしていく人の姿が描かれていますが、これ、みんなが感じてることですよね。

ですよね、たぶん。誰かが作ったフォーマットをみんなで使っているというか。音楽もそうで、ヒット曲が出ると、しばらしくはみんながそれをマネするんですよ。そうやって波が出来るのもわかってるんですけど、“それはどうなのかな”と思うこともあって。音楽以外にも同じようなことはたくさんあるだろうし、「まるで亡霊」は“俺も友達と同じ大学に行こうかな”みたいなノリを歌ってる曲ですね(笑)。

■トレンドの逆を行きたいという気持ちはある

──ちなみにTOOBOEさんは音楽のトレンドとも距離を取ってるんですか?

トレンドの逆を行きたいという気持ちはありますね。歌声自体がトレンドじゃないというか(笑)、自分で言うのアレだけど、かなり変わった声質なので。ただ、大勢の人が振り向いてくれたら、状況は一気に変わると思っていて。米津玄師さんや星野源さんもそうだけど、誰もやってないことをやって、みんなを振り向かせることで価値観を変えたので。

──「ヤング」もかなり挑戦的な楽曲だなと。

コード進行がハチャメチャですからね。理論的には成り立ってないと思いますけど(笑)。この曲は『20世紀少年』(浦沢直樹)を読み直したあとに作った曲なんです。特に主人公たちが小学生の時代ですね。もちろん携帯電話なんてない、あの時代のノスタルジーですよね。あとは漫画に出てくる“ともだち”のルーザー感も刺さったんですよ。友達になりたかっただけなのに、それがこじれて、でっかい事件を起こしてしまうっていう。あの時代の音楽も好きなんですよ。ギター一本背負って歌うような。自分もいつか、ギターと歌だけで共鳴してもらえるような歌を作ってみたくて。いちばんのポップスって、そういうものだと思うんですよね。

──そういう価値観を持っている人が、ボカロシーンから登場したのも面白いですね。

そうですよね(笑)。ただ、ボカロPはいろんなルーツを持ってるんですよ。ジャズをやってきた人もいるし、アニメ『チェンソーマン』に参加しているsyudouくんはヒップホップが好きで、そこからボカロに入ってきたので。

■もっといい曲、もっと強い曲を目指しながら、次のアルバムに

──「錠剤」で初めてTOOBOEさんの音楽に出会うリスナーも多いと思います。

もちろん『チェンソーマン』が盛り上がるのがいちばんなんですけど、自分にとってもすごく大きなことだと思っていて。「錠剤」で僕を知ってくれた人が、EPの収録曲や過去の曲を聴いてもらえたらいいなと。自分としては、これから「錠剤」を超えるような曲を作りたいと思ってます。もっといい曲、もっと強い曲を目指しながら、次のアルバムに向かっていけたらいいな、と。

INTERVIEW & TEXT BY 森朋之
PHOTO BY 関信行

リリース情報
2022.11.09 ON SALE
EP『錠剤』

プロフィール
TOOBOE
トオボエ/音楽クリエイター「john」による、作詞/作曲/編曲/歌唱/イラスト/映像を始めとした様々なクリエイティブ活動を手がけるソロプロジェクト「TOOBOE」。特徴的な声とキャッチーで癖になる楽曲で現代の音楽におけるネットシーンとJ-Popを横断的に行き来し表現するマルチアーティスト。「john」名義の代表曲『春嵐』はYouTube上で1000万再生を超え、新世代注目のシンガー「yama」に楽曲提供した「真っ白」「麻痺」のYouTubeでの総再生数は2000万再生を超える。