北海道旭川市内を走っていた60年前の大型路線バスが復元され、現代の路線バスと並んで展示されました。かつてのバスに見られた、丸みを帯びたリベット打ちのボディ、現代からすればかなり高い床など、60年でバスがどう進化したかを実感できました。

現行型と並んだ 60年前の大型“3軸”路線バス

 北海道の旭川電気軌道が2022年10月21日、復元を進めていた「三菱MR430」を初お披露目しました。およそ60年前に導入された国内初の“3軸”大型路線バス、その復元は困難を極めましたが、SNSなどを通じ作業中から注目を集めていました。
 
 同日に催行された特別ツアー参加者限定の撮影会では、現行型の路線バス「三菱エアロスターノンステップ」と並ぶ光景が見られました。両車の比較から、路線バスそのものの“60年の進化”を感じ取ることができます。


特別ツアー限定撮影会で並んだ三菱MR430と三菱エアロスターノンステップ(須田浩司撮影)。

モノコックボディからスケルトンボディへ

 三菱MR430の車体は丸みを帯びた外観が特徴で、どことなく航空機を思わせます。それもそのはず、当時のバス車体は航空機の製造技術を転用したモノコック構造を採用しており、外板をリベットで結合し、骨組みと外板が一体となって荷重を支えています。終戦後の1950年代から採用された方式で、外板面積を大きくすることで強度や剛性のうえで合理的な方式である一方で、窓を大きくするのに限界があるというデメリットもあります。

 これに対して、直線的でスタイリッシュな外観が特徴の三菱エアロスターの車体は、スケルトン構造を採用。スケルトンは「骨組み」のことを意味し、日本では1977(昭和52)年に日野自動車が国産初のスケルトン構造のバスを発表しました。

 スケルトン構造は骨格を強固にする必要があるため、骨格の材質によっては重量増につながるというデメリットもある一方で、リベットを使用しないことから、きれいな表面に仕上げられ、窓などの開口部を広くとることができます。このメリットが評価され、1980年以降、急速に普及。現在の日本製バスの主流になっています。

地上から床まで“かなり”高かった ツーステップバスからノンステップへ

 バスに乗降する際に足をのせるステップの位置や床の位置にも注目です。三菱MR430の地上から最初のステップまでの高さ(ステップ地上高)は約40cm。さらに2段ステップをのぼった床までの高さは地上から約120cmあり、特に子どもやご高齢の方などは、しんどく感じるかもしれません。

 これに対して、三菱エアロスターノンステップの地上から最初のステップまでの高さは31cm〜32cm。加えてノンステップ構造のため、乗り降りがしやすいのが特長です。車いす用のスロープや、その設置スペースの確保など、各所にバリアフリー設計が施されているのも見逃せません。

 ノンステップバスは日本でも1990年代後半から普及し始めましたが、関係者によるさまざまな試行錯誤や「標準仕様ノンステップバス認定制度」の創設、法整備などのおかげで、現在では全国的に当たり前の存在となりつつあります。ちなみに、旭川電気軌道は北海道内のバス会社の中でもいち早くノンステップバスを大量導入するなど、バリアフリー対策に積極的に取り組んでいることでも知られています。

実はコスパ良? LEDになった行先表示


三菱MR430の後部。行先表示は小型のサボを設置することで対応している(須田浩司撮影)。

 行先表示の方式においても、60年の進化を伺い知ることができます。三菱MR430が登場した当時、行先の表示方法は方向幕または「サボ」と呼ばれる行先標が主流でした。旭川電気軌道の三菱MR430の場合、方向幕は前面のみに採用され、側面と後面は小型のサボを設置(レストア後は側面のサボを省略)。方向幕は手動式となっており、車内で確認できる小窓を見ながら、手元でくるくるまわして行先をセットします。行先表示の大きさも、現在のバスと比較すると小さいことが分かります。

 これに対して、三菱エアロスターノンステップの行先表示はLED(発光ダイオード)方式を採用。前面のほか、側面、後面にLED表示器を設置しています。

 LED表示器は2000年頃から普及し始め、多くのバスに採用されています。単色のLED表示器が主流ではありますが、フルカラーLED表示器が徐々に普及し始めています。初期コストは多少かかりますが、多彩な行先表示が可能であるほか、豊富な行先情報をデジタルデータで管理できるため、ランニングコストの削減につながるというメリットも。普段あり得ない種別や行先表示なども比較的簡単に表示させることができるのです。

60年前のバスは「三方シート」

 座席配列を見てみましょう。三菱MR430が登場した当時、路線バスの座席配列は横向きのシート配列が多く、最後部の前向きシートと合わせて「三方シート」と呼ばれていたといいます。ホイールハウスの高さが座面の高さを超えない限り、座席を多く設置することができるメリットがある一方で、景色が見にくいというデメリットもあり、どちらかといえば大都市圏路線や生活路線向きの座席配列でした。

 これに対して、三菱エアロスターノンステップの座席配列は、優先座席を含めすべての座席が前向きとなっています。一時期、優先席で横向き座席を採用していたこともありましたが、利用する高齢者の転倒事故防止やノンステップエリアの立席定員の確保、さらには国土交通省が2015(平成27)年に実施した「標準仕様ノンステップバス認定要領の一部改正」などにより、現在の新型路線バスはほぼすべての座席が前向きとなっています。そして、座席数も通路幅の拡大や前輪タイヤハウス上の座席の廃止などの理由で、路線バスの座席数は減少傾向にあるといえましょう。


三菱エアロスターノンステップの車内、すべての座席が前向きとなっている(須田浩司撮影)。

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 このほかにも、前面上部3連ランプの有無や、前面の庇(ひさし)の有無、車内の床の違いなど、路線バス車両60年の「あゆみ」「進化」というものをいたる箇所で見ることができましたが、ひとことでいうと「誰もが乗りやすい路線バスをめざしての60年間」といえましょう。

 その「あゆみ」「進化」をじかに感じ取ることができるイベント「バリアフリー車両比較体験・三菱製3軸バス『MR430』撮影会」が、2022年11月13日(日)に午前と午後の2回に分けて開催されます。三菱MR430のほか、平成初期のツーステップバス、初期型のノンステップバス、そして現行型ノンステップバスの4台を撮影、比較体験、走行乗車体験ができる内容で、参加費は11000円となっています。興味がある方はぜひ参加してみてはいかがでしょうか。