「暴言」や「誹謗中傷」を繰り返す人の心理とは?

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 インターネット上の誹謗(ひぼう)中傷対策などを目的として、「侮辱罪」を厳罰化する改正刑法が7月に施行され、関連して「プロバイダー責任制限法」の改正法が10月に施行されましたが、ネット上や公の場での「暴言」をなくすことは、なかなか難しいようです。誹謗中傷(ひぼう)や暴言を繰り返す人の心理とは、どのようなものなのでしょうか。心理カウンセラーの小日向るり子さんに聞きました。

「その人特有の」正義感や使命感

Q.多くの人がいる場で、暴言や誹謗中傷を繰り返す人の心理的特徴を教えてください。

小日向さん「匿名で暴言や誹謗中傷を繰り返す人はストレス発散であったり、ゆがんだ自己防衛であったりする場合が多いのですが、素性を明らかにして暴言や誹謗中傷を繰り返す人は『その人特有の』正義感や使命感がかなり強く、また、性格的には頑固であることが多いです。世間から自分の言動がどう思われようと、本人にとって、それは『正義』であり、『世間の認識を正していかないといけない』という使命感に駆られている場合もあります」

Q.批判や注意を受けても暴言を繰り返す人は、批判や注意を気にしていないのでしょうか。

小日向さん「このタイプの人には大きく2つの心理的要素があり、それぞれの心理によって2タイプに分かれると思います。一つは先述したように、『誰が何と言っても自分の言動が正義である』と信じており、批判や注意は気にならないという心理状態の人です。こうした人の中には、むしろ批判を追い風にして『自分の主張をメジャーにしたい』と考えている人も多いです。

そして、もう一つはいわゆる『空気が読めない』と言われてしまうタイプです。例えば、美術館で、大声で話していたことで注意を受けると、その後、美術館では大声で話さなくなるのですが、音楽ホールでは大声でしゃべってしまうといった感じです。『芸術を楽しむ場所では静かにする』という物事の本質が理解できないために、同様のことを繰り返してしまい、その結果、本人は反省しているのですが、周りからは『またやってる…』と特異なものを見る目で見られてしまいます」

Q.暴言を繰り返す人が知人や友人にいた場合、どう対処すればよいのでしょうか。

小日向さん「その人と継続して関わりたいと思う相手でなければ、距離を置くことがベストな対処法です。素性を明らかにして、ネットで暴言や誹謗中傷を繰り返す人はどんな否定的なものであろうと『反応がある』ことで自己顕示欲を満たしますので、対処すること自体が暴走をあおります。

一方、先述したように、空気を読むことが苦手な人で、かつ、その人が関わりたいと思う相手であれば、根気よく、その人の発言の問題点を伝えていきましょう。一緒にその人の『言動マニュアルを作ってあげる』ような気持ちで接するのです」

Q.もし、暴言を繰り返す人を小日向さんが諭す、もしくはアドバイスをするとしたら、どのようなことを話しますか。

小日向さん「『暴言をやめなさい』といった禁止令ではなく、傾聴をしつつ、短絡的な思考や言動の修正を促します。自分でもコントロールが利かなくなっているくらい衝動性が強い人の場合は、医療機関への紹介も行います。

現代は『無駄なものはすべて省いて効率化し、スピードを上げる』といった価値観がよしとされる風潮もあり、暴言や誹謗中傷を繰り返す人には、IT化やネット社会の闇の部分を軽視し、スピード第一で行動する傾向が強いように感じます。

私の臨床でも、過去の一過性の情動から行った自身の言動で、かなり時間がたってから苦しい心理状態になっているという心理的な苦しみを吐露されるケースがあります。しかし、どんなに有能な専門家でも『時間を戻す』ことはできません。言動は録音や録画されることもあり、ウェブ上に一度アップされれば、半永久的に残る可能性があります。まず、日常生活を丁寧に送り、何事かをする前には『一呼吸おく』という余裕を持つよう心掛けることが大切だと思います」