JR四国の観光列車「伊予灘ものがたり」の2代目車両は、日本一豪華な昼行特急かもしれません。特筆すべきは、専属アテンダントも乗務する豪華な個室「フィオーレスイート」です。実際に体験してきました。

豪華さを売りにした列車は数あれど

 近年、豪華さを売り物にした列車が増えてきました。JR東日本「サフィール踊り子」や近畿日本鉄道「しまかぜ」、観光列車なら「えちごトキめきリゾート雪月花」、東急「ザ・ロイヤルエクスプレス」、JR九州「36ぷらす3」など。いずれも優れた空間を売りにしています。


観光列車「伊予灘ものがたり」。キハ185系気動車を改造し登場した(2022年10月、安藤昌季撮影)。

 その中で「日本一豪華な昼行列車」は「伊予灘ものがたり」ではないでしょうか。JR四国が松山〜伊予大洲・八幡浜間で運行している3両編成の観光特急ですが、その1両に「フィオーレスイート」と呼ばれる個室設備が存在するからです。

 この個室は1両まるごと1室で占有しており、2〜8人にて利用できます。「1両1個室」は超高額なクルーズトレインでも、JR西日本「トワイライトエクスプレス瑞風」の最高設備「ザ・スイート」のみ。これをグリーン個室料金2万8000円(運賃など別)で占有できるのですから、破格といえます。

「伊予灘ものがたり」は1日4回運行されているので、筆者(安藤昌季:乗りものライター)は今回、伊予大洲行き「大洲編」で一般席に、松山行き「双海編」で「フィオーレスイート」に乗車しました。なお「食事券」を購入すれば、全ての列車で食事を楽しめます。

「大洲編」は松山駅を朝の8時26分に出発。駅に待機しているところから音楽が流れ、プラットホームの雰囲気が非日常となります。側扉の前にはカーペットが敷かれ、豪華な感じです。

 車両のデザイン担当した、JR四国 営業部 ものがたり列車推進室長の松岡哲也さんによると、「先代『伊予灘ものがたり』と同じ茜と黄金の車体は、レトロモダンをコンセプトに継承した」のだそう。和のしつらえに洋風のデザインがお洒落です。

著名デザイナーは関わっていない

 先代は特注のメタリックシートでのラッピングでした。しかし生産が困難で、今回は塗装にしたとのこと。表面が鏡面状に磨かれ、光や景色が映りこんで色味が変化するのが印象的です。

 車両はキハ185系気動車を改造したものですが、初代のキハ47形に近づけるべく、前照灯が丸ライトになっているのが特徴です。


JR四国 営業部 ものがたり列車推進室長の松岡哲也さん(写真提供:坪内政美)。

 いよいよ車内へ。海側に向けて4人用テーブルとカウンター式の座席が、通路を隔てて一段高くなったところに2人用テーブルが配置されています。一部の壁は障子のように、照明を兼ねて光ります。

 座席は大きく、肘掛けが少しハの字形になっています。2代目で3両編成となり、サービスギャレーを3号車に配置したことで、座席が1割程度大きくなりました。座席幅は59cm。クッションも置かれ座り心地は良好です。ちなみに空席にぬいぐるみが置かれていましたが、これは「乗客が席を移動しないための配慮」とのこと。窓の配置と座席が合わない席もあるものの、1人当たりのスペースが広く開放感があるため気になりません。

 松岡室長は「社内で若手社員も提案し、デザイナーも自ら壁のシートを貼ったり照明器具を加工したりした」と話します。著名デザイナーが手掛けた車両と比較しても全く見劣りせず、「年間乗車率90%」も頷ける出来栄えです。

 出発後、間もなく「朝のひとときを味わう旬彩モーニング」が提供されました。食事券は3000円。松山〜伊予大洲間の運賃・料金は3670円なので、合計で6670円です。全国の観光レストラン列車で1万円を超える設定が多い中、格安だと感じますが、松岡室長曰く「儲かっているというほどではないけど黒字」とのことでした。

車両メーカーに無理を言い設置したものとは

 アテンダントの制服も新調されています。デザインは、縫製業者とアテンダントで知恵を絞ったとのことです。

 そして駅に停車するごとに、地元の方々が熱烈に歓迎してくれます。筆者は手を振るのに疲れるほど。「地域が自発的に、楽しんでやっている」そうで手作りのボードなども見られました。列車のスタッフは、地元の方がどこでおもてなししているのか目ざとく見つけ、その都度、車内放送で案内します。


駅に停車すると、地元の方々からの熱烈な歓迎が。手作りボードのほか、着ぐるみなども登場した(2022年10月、安藤昌季撮影)。

 そうこうしている間に伊予大洲駅へ到着。引き続き、豪華個室「フィオーレスイート」を体験すべく、折り返しで「双海編」に乗車します。

 3号車の入口にはカウンターがあり、アテンダントが挨拶して出迎えます。その奥はギャレーで、砥部焼の食器が並んでいるのだとか。ただ収納効率に劣り搬入に手間がかかる食器のようで、車両メーカーから「そんな観光列車はない。陶器を列車のどこに置くのですか」と疑問を呈されたそうですが、温かみのある器は列車の魅力だと筆者は感じます。

 ギャレー横を通過すると、車両の幅一杯に広がる幅2.7m、奥行き6.9mの空間がありました。8人分の半円形に配置された、幅55cmのゆったりとしたソファが目に留まり、個室「フィオーレスイート」の豪華さと広さに感激します。クローゼットもあり、大きな荷物も収納できました。同行者は「豪華すぎる……」と絶句したほど。

専属アテンダントが接客

 当初、2号車にはギャレーと4人用個室を設置する案が検討されましたが、「山側でおもてなしする人たちがお客様から見えない」という理由で断念され、1両1個室になったとのこと。左右の風景と前面展望が独占でき、3方向の情報量は圧巻の一言です。内装も「フィオーレ」(イタリア語で花)にちなんで、桜材で彩られています。

 テーブルの一部が鏡面となっており、そこに風景が写り込みます。反射した青空が伊予灘の海面とつながり、沿線の木々も室内に入り込んだかのようです。カーテンが電動式なのも、高級感があります。


豪華個室「フィオーレスイート」は1両まるごとが占有できるほか、専属アテンダントによる接客もある(2022年10月、安藤昌季撮影)。

 アテンダントが挨拶し、ウェルカムドリンクが提供されました。なんと「フィオーレスイート」専属のアテンダントとのことで、洗練された接客を見せてくれます。またカクテルなどの一部メニューも「フィオーレスイート」専用の商品があり、差別化されています。

 料理において特筆すべきは、「フィオーレスイート」のみのサービスとして、食後のコーヒー・お茶の器が選べること。超豪華なクルーズトレインでも「個室の専属アテンダント」「マイカップ」サービスはないのではないでしょうか。

 代金の総額は先述の個室料金のほか、最大定員の8人で松山〜伊予大洲間を利用した場合は1人5670円+食事券3000〜5500円。2人利用だと1人1万6170円+食事券です。ただそれでも、筆者は料金に十分見合うと感じました。

 2022年4月に運行開始した「2代目 伊予灘ものがたり」。往復4時間の旅は正直、筆者にとってあっという間でした。