盛況な寝台特急「サンライズ」後継車両はまだか “儲かる列車”に変えるための提言
寝台特急「サンライズ瀬戸・出雲」はコロナ禍でも高い乗車率を維持しています。2022年のゴールデンウィークは全列車満席で、これは2018年の実績を上回りました。ただ、登場から24年が経つのに後継車両の話は出ません。なぜでしょうか。
寝台特急は儲からない
寝台特急「サンライズ瀬戸・出雲」は2022年、ゴールデンウィークもお盆も「上下全列車満席」であり、乗車率をコロナ禍前の2018年と比較しても、ゴールデンウィークが103%、お盆が107%と利用を伸ばしています。
ほかの昼行特急が2018年比で50〜70%程度と低迷する中、個室寝台を中心とした接客設備で安心感があることも、利用増に結びついたのでしょう。2022年9月に筆者(安藤昌季:乗りものライター)が利用した時は、平日であれ「瀬戸」「出雲」ともに80%程度の乗車率でした。
寝台特急「サンライズ瀬戸・出雲」に使われる285系電車(画像:写真AC)。
このように健闘していますが、使われる285系電車は登場から24年を迎えました。長距離列車であることを考えると、そろそろ後継車両について議論されてもよい頃ですが、今の所そのような話はないようです。なぜでしょうか。
これは収益性が影響していると考えられます。寝台特急は昼行特急と比較して「定員が少ない」「1日に1運行しかできずきっぷが1回しか売れない」という点で、収入が少なくなりがちです。
例えば「サンライズ出雲」で全乗客が東京〜出雲市間の全区間に乗車し、かつ満席だった場合、収入は383万2600円です。瀬戸と合わせ1運行(片道)700万円の収入と仮定して、1編成が3日間(往復)で約1400万円、つまり1日466万円稼ぐことができます。
一方、JR常磐線の昼行特急「ひたち」で、全乗客が東京〜いわき間の全区間に乗車した場合、388万8000円の収入があります。1日平均4往復するとしたら、4倍で1553万5200円の収入です。実際には割引きっぷや区間乗車、空席があるため、これらを考慮し仮に半分としても、1編成が1日776万円を稼げることになります。
片道は新幹線を利用してもらうことを想定
寝台特急は昼行特急より区間乗車が少ないため、その点では有利ですが、収益性の悪さは明白です。ちなみに寝台特急時代の「カシオペア」が定員176名で、食堂車などの収入を考慮し1人4万円としても1運行700万円程度であり、やはり「儲かる列車」ではなかったようです。
ラウンジの様子(安藤昌季撮影)。
特に「サンライズ」の場合は運行区間も障壁になります。「出雲」ならJR東日本、JR東海、JR西日本、「瀬戸」ならさらにJR四国に跨って走るので、3日で収入1400万円と仮定しても、それがそのまま車両を保有するJR東海やJR西日本に入るわけではありません。
こうした理由で「サンライズ」は、列車単独での収益性だけではなく、「新幹線が運行できない時間に、航空機から鉄道利用に転換する」「片道は新幹線+昼行特急利用の乗客を見込む」など、トータルの利点で維持されていると考えられます。
ではもし「サンライズ」に新車を投入するなら、収益性向上は可能でしょうか。
運行コスト削減の観点では、例えば2002(平成14)年製造のE231系電車500番台と2017年製造のE235系電車(量産車)を比較した場合、消費電力は20%削減されています。鋼製の車体もアルミなどで軽量化できそうですから、「サンライズ」に使われる1998(平成10)年製造の285系も、これから製造されることを考えれば、コスト増になることは考えにくそうです。
車体長を2m伸ばせば定員を増やせる!
また収入を増やすために「少なすぎる定員」を改善できないでしょうか。かつて10系寝台車が開発された際、車体長を従来の20mから22mとして、寝台1区画を増やすことが検討されました。実際、日本国内を走った「オリエント急行」は車体長22.2mでした。「サンライズ」も現行の20.8mから延長するわけです。
14両編成を維持するとして、編成長は310m。首都圏の15両編成は300mなので、全く不可能ではなさそうです。「サンライズ」は2階建て構造なので、延長することで「シングル」のような個室を4室増やせれば、定員はかなり増やせるでしょう。
指定席特急料金のみで利用可能な「ノビノビ座席」(安藤昌季撮影)。
また定員が寝台車と大差ないのに、寝台料金を徴収しない「ノビノビ座席」も検討の余地があります。現在は枕木方向にスペースが確保されていて、定員は28名です。開放客室のためか、コロナ禍では夏休み中でも予約が可能であり、個室ほどの人気はないようでした。定員を増やすため、「シングル」を上下で分割した構造にして、個室化することが考えられます。
「シングル」は、2階建て部分の屋根高さが184cmなので、上下で分割しても室内は90cm程度の高さです。かつての寝台電車583系は、3段式B寝台車で下段84cm、中段74cm、上段76cmでしたから、「サンライズ」に応用しても寝台料金不要の設備としては十分。個室化してコンセントやWi-Fiを備えたら、「ノビノビ座席」よりも数段実用的になるかもしれません。
車体を延長した場合、「ノビノビ座席」である2階建ての部分には「シングル」を23室設置できると考えられます。これを上下で分割すれば倍の46室に。現在、東京〜出雲市間で「シングル」23室が満室の場合53万3830円の収入ですから、「ノビノビ座席」を個室化し46室とした場合、74万7500円(指定席料金をSL列車並みの840円で計算)の収入となり、1両の収益性が大きく改善されます。
「サンライズ」をワークスペースとして開放できないか
また、「シングル」平屋部分をB個室寝台「シングルツイン」に変更すれば、5室が設置可能です。結果として中間車なら定員56名となり、かつての3段式B寝台車を上回る定員にできます。
電動車も平屋を活かして、「ノビノビ座席」から2人用A個室寝台を設置することを考えます。2人用B個室寝台「サンライズツイン」は人気で、需要の取りこぼしがあるからです。加えて「シングルデラックス」「サンライズツイン」も車体延長により1室ずつ増やせそうです。「シングルデラックス」は補助ベッドでの2人利用を可能にできれば、定員が14→24名に増加します。平屋で天井が高い「シングル」は全て「シングルツイン」に改めます。
東海道新幹線の喫煙ルームを改造した「ビジネスブース」のイメージ(画像:JR東海)。
こうしたことを積み上げれば、編成定員は158→206名程度(「シングル」3両、「ノビノビ座席を個室化」1両の場合)と1.3倍に増加すると考えられます。もちろん、人気の高い設備の料金を値上げする方法もあるでしょう。
運用方法に目を向ければ、空室があった場合は「東京〜熱海」「岡山〜出雲市」「岡山〜高松」などで、「寝られる(横になれる)通勤ライナー」として販売することも考えられます。これにより常時満席の状態を実現できるかもしれません。
コロナ禍以降、利用が減った特急形車両を有効活用すべく、駅に停車した状態で有料ワークスペースとして開放する取り組みが行われています。「昼間、車庫で眠っているサンライズ」も、個室という特性を活かしワークスペースとして販売してもよさそうです。
「サンライズ」は仮に新型車両を投入しても、「日本で唯一の寝台特急」であり続けるでしょう。その希少性は注目度に直結しますから、様々な収益性改善の方策を考え、存続の道を探ってほしいものです。