「SL銀河」の牽引機であるC58形蒸気機関車239号機を間近で見られる見学会が、JR東日本 盛岡支社主催で行われました。見られるのは検査中の姿。参加費用2000円に魅せられて訪れましたが、価格以上の見応えがありました。

パーツを外したSLは滅多に見られるものではない

 この数年、鉄道各社主催による有料の撮影会やバックヤードツアーが盛んになってきています。内容も価格設定も様々あるなか、私(吉永陽一:写真作家)は2022年1月、JR東日本 盛岡支社主催のとある体験型イベントに目が止まりました。その名も「SL見学ツアー」。価格は2000円です。この安さに惹かれ、参加費用の10数倍をかけ、都内〜盛岡間を往復しました。


観光列車「SL銀河」を牽引するC58形蒸気機関車239号機を右サイド正面から。検修庫は大きな窓と黒ベースの壁面で整えられ、庫内の照明もギラギラし過ぎていない。機関車のフォルムが浮かび上がりスタジオのような雰囲気だ(2022年1月、吉永陽一撮影)。

 SL見学ツアーは、観光列車「SL銀河」の牽引機であるC58形蒸気機関車239号機を間近で見学するというもの。撮影も可能で1時間の内容です。そもそも「SL銀河」とは、沿線ゆかりの人物である文豪・宮沢賢治の著作『銀河鉄道の夜』をテーマに、車内の雰囲気を大正から昭和の世界観とし、ギャラリーやプラネタリウムを設けた列車です。JR釜石線で運行されます。

 見学場所は盛岡駅構内外れにある、239号機専用のSL研修庫内。239号機はちょうど足回りを検査する重要部検査中で、火を落とし、一部のパーツを外した状態という、滅多に見られない姿でした。

 このツアーは何週かに分けて設定されたので、回によっては部品を外してバラバラだったり、組み上げがほぼ終了して元通りだったりと、機関車の状態が異なるのです。私が参加した日は、検査の終了した部品を組み上げている最中でした。

 SL検修庫は239号機復活に際し、2013(平成25)年に竣工した検修庫です。外観はシンプルな箱型2階建て構造。昔日のレンガ車庫を連想させるレンガ装飾が施され可愛らしいいでたちです。この装飾は、かつて同じ場所に存在した国鉄盛岡工場をイメージしたのだとか。

C58形の特徴「一体型ドーム」 外すと…?

 炭水車を背にした239号機が目に入り、私はその勇姿に思わず感嘆の声を漏らします。9年前に竣工した検修庫はまだまだ新しく、滑らないよう床も美しく輝き、まるでレースカーを整備するおしゃれなカーショップにいるようでした。

 参加者は2班に分かれ、少人数での見学を開始。国内外問わず蒸気機関車の撮影会はよくありますが、たいていは火の入った“生きた”状態です。目の前の機関車は火が落ち、しかも分解されている貴重な姿。写欲がそそられます。


整備担当の検修員がシリンダーカバーを開ける。これは初めての経験だ。シリンダー本体を覆う断熱材が白いため、季節柄一瞬、雪が舞い込むことなどあるのかと誤認してしまった(2022年1月、吉永陽一撮影)。

 有料の撮影会なのだから火が入ってなんぼだという価値観はあるでしょうが、私はこのように分解された姿で、美しい庫内に佇む姿を捉えられるのも素敵なことだと感じました。それに、構造の細部も知ることができるのも良いですね。

「これがシリンダーです。蒸気を動輪へ伝達する部分です」

 検修員がシリンダーカバーの点検蓋を開けます。こうやって開くのか。思わず目を丸くします。印籠のような丸い形状が空気弁で、上の点検蓋内には蒸気給排気管が、下の点検蓋内には白い断熱材に覆われたシリンダーが格納されていました。なるほど、こうなっているのか。

 動輪のロッド類は一部がまだ外されており、逆にボックス動輪の形状がつぶさに観察できます。ボイラー上部はドームカバーが外され、蒸気ドーム(蒸気溜め)が露出しています。C58形は砂箱と一緒になった一体型ドームが外観の特徴のひとつですが、ドームを外すとコブのような形状です。蒸気ドームはどの蒸気機関車にも備わっており、その役割はボイラーで発生した蒸気を集めシリンダーへ送ること。外観を覆うドームカバーは形式によって異なり、その形式を表す特徴にもなっています。

紅葉とSL、ちょうど今が見ごろ?

「連結器はこうやって開くんですよ。炭水車は水の方が多いのです」

 検修員は機関車の構造や参加者の質問に答えながら、239号機の周囲をぐるっと一回りします。我々参加者も説明に耳を傾けながら、検査中の珍しい姿をカメラに収め、あっという間に1時間が過ぎていきます。参加者と検修員が語らい、和気あいあいとした空間となっていました。


陸中大橋駅を発車し、終点の釜石駅を目指す「SL銀河」。目を引くのが紫色のナンバープレートで、239号機の新製77年の喜寿を祝って装着されたものだ(写真提供:福本圭介)。

 もっとこの機関車を知ってもらおうと、「SL銀河」に携わる人々が協力しあい企画・開催しているんだなと、一参加者としてなんだか温かい気持ちになってきます。じっくり観察しながら現場の声を聞き、改めて1台の機関車を動かす大変さが伝わってきます。

 見学会に参加してからだいぶ経った初秋、私は「SL銀河」を沿線で撮り、そして途中から乗車してみました。あの分解されていた239号機がこんなに力強くドラフト音を響かせて走っているのかと、ひとり感銘を受けました。

 東北復興の支援と地域活性化を目指し2014(平成26)年から走り始めた「SL銀河」は、客車老朽化などの理由で翌2023年春に運行を終了する予定です。その後はどうなるか、現在のところまだ判明していませんが、検修員たちのひたむきな笑顔と取り組みを肌で感じると、何らかの形で存続して欲しいと願ってやみません。この記事が配信される頃には秋も深まり、釜石線はちょうど紅葉とSLが撮れる、良い季節となるでしょう。