男性管理職がハラスメントを過剰に恐れ、女性活躍推進を阻む結果が生まれている?(写真:YUJI/PIXTA)

中小企業でも義務化された通称「パワハラ防止法」(正式名称は改正労働施策総合推進法)。パワハラが常態化して改善が見られない企業は、企業名が公表されることが決定しており、各企業は防止対策につとめなければなりません。これ以外にもセクハラを含めた各種ハラスメント対策にやきもきする会社や管理職が増えています。

こうした中、「男性管理職がハラスメントを過剰に恐れ、女性活躍推進を阻む結果が生まれているのではないか」と指摘するのは、『Oggi』『Domani』などの編集者として働く女性を長年取材し『男尊社会を生きていく昇進不安な女子たちへ』の著書もある下河辺さやこさん。

女性管理職の育成・登用とハラスメント防止を同時に行わなければならない管理職が心得ておかなければならない術とは……?

気づきにくい「アンコンシャスバイアス」

今、女性管理職の登用で頭を抱える企業幹部の方が少なくありません。女性活躍推進を阻むキーワードの1つが「アンコンシャスバイアス」。言葉ではご存じでも、実感がともなっていないことが多いと感じます。

「アンコンシャスバイアス」は自分自身でも気づいていない偏ったものの見方のこと。

自分のバックグラウンドや属している組織の中で培われた「常識」によって、先入観を持ち、無意識に相手を「こうである」と決めつけてしまうことは誰にでも起こりえます。年齢、職業、性別、見た目、学歴、経歴、肩書……生まれながらに備わっている資質や、本人の努力いかんで手に入るものは確かにありますが、それがすなわちその人を表すことではありませんよね。

例えば「若いから体力がある」とも限らないし「偏差値が高い大学を卒業しているから理解力が高い」とも限りません。

「残業をしない」=「やる気がない」と捉える管理職の方もいらっしゃいますが、残業をしなくて済むのは仕事が早いからかもしれないし、帰宅してから仕事をしているのかもしれない。でも、そんなことは想像もせず、自分の思い込みに基づく「普通」を他人に当てはめて判断してしまう。

仕事をする女性に対するアンコンシャスバイアスには、2つの側面が存在するように思います。

「アンコンシャスバイアス」2つの側面

まず1つめは「男性は仕事、女性は家庭」といった旧来の性的役割分担意識に基づいて、女性の社会進出をネガティブに捉える側面。

「独身で仕事ばかりしている女性は不幸である」「女性は夫や子どもの世話をするのが当たり前である」……といったものがそれにあたります。これは男女問わずに自分のバックグラウンドや属している組織の中で埋め込まれてしまっていることが多い捉え方です。

もう1つのパターン、それは「女性には女性向けの仕事や仕事の仕方がある」という一見、女性をサポートしているようにも聞こえる捉え方。

これば「女性は細かなことに目配りが行き届くから事務作業やコミュニケーションが得意である」「育児中の女性には責任のある仕事を与えるのは気の毒だ」「女性は弱く傷つきやすいから失敗するかもしれないチャレンジをさせるのはかわいそうだ」というようなものです。

一見、善意ともとれるような内容で、実際やっているほうは悪気などみじんもなかったりします。自覚も指摘もしやすい前者の捉え方と違って悪意がないだけに、男女ともに女性活躍推進を阻む考え方だとは気づきにくい。そのためなかなか改善もされません。

2022年の世界国際フォーラムが発表している「ジェンダーギャップ指数」では146カ国中116位と、日本が諸外国に比べ男女共同参画において著しく劣っていることが見てとれます。

ただ、この内容をよく見てみると、実は日本は「教育」におけるジェンダーギャップがない、ということについては世界で1位なのです。一方で、政治と経済の分野では大きく後れをとっています。つまり、学校では男女の能力に差がないのに、優秀な女性でも社会に出たとたんに活躍の場が極端に減る。その理由の1つが、後者のような悪意のない思い込みによるものでしょう。

女性だって技術開発が得意な人もいるし、育児中でも仕事にフルコミットしたい人もいます。「弱く傷つきやすい」という想像で、チャレンジさせないというのは、成長するチャンスを奪うことと同義です。

そういった「善意のつもりバイアス」が、「女性は後のびしない」「管理職候補が少ない」と言われる状況をつくってしまうのです。

実際、プレ管理職世代の女性からは・・・

「入社したばかりの頃は女性のほうが優秀だったように思うけど、男性のほうが重要な仕事を任されることが多くて、いつの間にか実力に差がついているんです。今になって会社は女性に昇進させようとしているし、必要なことなんだろうけど、女性だからって実力がないのに出世するのはおかしい。正直言って管理職になる自信がありません」

といった声も多く聞こえてきます。

この「善意のつもりバイアス」の延長で、誤った「セクハラに対する気遣い」が行われると、さらに男女の差が開いていきます。

近ごろ、ハラスメントだという指摘を恐れるあまり「男女2人きりでの食事は禁止」という企業が増えているそうです。食事だけでなく「相談ごとや打ち合わせも2人にはならないよう、第三者を同席させること」とする職場さえあるとか。

公のルールにせずとも「自分がセクハラの加害者のように言われて損をしそうだから」「自覚なくうっかりセクハラをしたら申し訳ないから」と、女性の部下と2人で食事には行かないことを自分に課している男性管理職の話もよく聞きます。

でも、第三者がいる中で話せることには当然限界があります。男性部下は上司と腹を割って話す機会があり、女性にはその機会が少なくなる。そうした結果を生み出すのだとしたら、「気遣い」に見えて実は不公平なことといっても過言ではありません。

もし、このルールを適応するのであれば、男性同士2人きりでの食事も禁止する、相談ごとや打ち合わせは男女問わず3人以上で、と決めるのがフェアではないでしょうか。

そもそも女性管理職が1割にも満たない「男尊社会」の日本では、「オールド・ボーイズ・クラブ」が強固に形成されています。「オールド・ボーイズ・クラブ」とは社内派閥や飲み会、ゴルフ、業界の勉強会などを通じて男性同士の間に築かれる暗黙のネットワークのこと。

男性はここで情報交換をしたり、仕事上の便宜を図ったり図ってもらったりしているのが現実です。会議室で行われる議論や意思決定はその結果であり、形式的なものであることも珍しくありません。

ますます強固になる男性管理職たちの結束

仕事をする女性たちがこの「オールド・ボーイズ・クラブ」に入り込むためには、男性に警戒されないように男性に擬態して同化するか、クラブのマスコットになるかしかありません。組織の中の明文化されていないルールやしきたりが女性に伝わりにくいのは、そうした背景があってのことです。

加えて昨今のハラスメント包囲網の強化。セクハラで告発されることを恐れる男性管理職たちが女性たちと距離をとることもありえます。そうなれば、「オールド・ボーイズ・クラブ」の結束はますます固くなり、女性に重要な情報は入ってきません。結果、女性活躍推進はさらに遠いものとなってしまうでしょう。

してはいけないのはハラスメントであって「2人きりで話すこと」でも「食事に誘うこと」でもありません。

ただ、男性管理職にしてみれば「セクハラだ」と疑われるようなリスクは避けたいところでしょう。

パワハラ問題は、個人の感じ方や考え方に委ねる部分が大きいのが特徴です。

厚生労働省の調査からも「行為者にパワハラをしている自覚がない(53.8%)」「受け手がパワハラであると過剰に捉えてしまう(37.2%)」「世代間ギャップがあり従業員によって認識が異なる(36.4%)」(厚生労働省「パンフレット 職場におけるパワーハラスメント対策が事業主の義務になりました!」)と、多くの人がどういったものがハラスメントにあたるのか戸惑っている様子が伝わってきます。

「された人がそう感じたらハラスメント」とも言われますが、それでは何に気を付けるべきか判断をするのが難しく、異性を遠ざけるくらいしか解決策がなくなってしまいます。

女性たちに、男性管理職と2人になったり食事に行ったりすることを否定的に考えるかどうかと聞くと、たいてい「相手による」と言いますが、これを「管理職の人間力」などという曖昧な言葉で片付けてしまうことも、問題解決にはなりません。マネジメントする側として部下にどう接したら正しいのか、経営側が明確な答えを出さずに個人の感覚任せにしていては、男女の溝は深まるばかりです。

気をつけたいNGな言動

それでは、ハラスメントを回避しつつ、女性にしっかり活躍してもらえるようにするためにはどのようなコミュニケーションを心がけるといいでしょうか。

地位を利用して性的関係を強要したり、断ると嫌がらせをしたり、性的な言動をしたりすることはもちろんNGですが、「もう◯歳なのに結婚しなくていいの?」「子どもが小さいのに仕事ばっかりしていて大丈夫?」など性的役割分担意識を押し付けることも聞いている人にとってはセクハラの一種で不快です。もちろん男性にも「男のくせに重いものも持てないのか」というような発言はNGです。

加えて、「教えて」いるつもりで過去の自分の成功体験を繰り返し、部下や後輩の話を聞かずに話し続けてしまう男性上司にうんざりしていることも。

「相談をするつもりで時間をとってもらったけれど、上司の成功体験ばかり聞かされて話を聞いてもらえず、一方的に考えを押し付けられて自分を否定されたように感じた」

「食事に行くと、女性はひたすら上司にお酒をついだり頷いたり、褒め続けなければいけない空気。仕事相手と思っていないのでは」

等は取材を重ねているとよく出てくる言葉。

前者は「パワハラ」後者は「セクハラ」と捉えかねられません。

「年齢が上」「キャリアが長い」「上司」という要素は、現代のビジネスシーンにおいて自分が相手よりも「上位のポジションにいる」という意味にはなりません。

マーケットは刻々と変化し、かつての勝ちパターンはあっという間に古いものになる。「上司」は単なる役割にすぎないのです。それにもかかわらず従来のヒエラルキーを踏襲した考え方を持ち続けていると、ふとした拍子にボロが出ます。

話を聞いてみると「ギャップ」が解消される

せっかく自分とは異なる世代を生きてきた違う価値観や発想の持ち主が目の前にいるのですから、自分自身の成長のためにも話を聞かない手はありません。目の前の部下がどんな道を歩んで今のキャリアを選び、どんな将来像を描いていて何に喜びを感じたり悩んだりしているのか──。

聞いてみた結果、自分と同じような考えを持っていることや、自分の課題に気がついたりして、結果的にジェネレーションギャップやジェンダーギャップが解消されることもあるでしょう。そうして部下の話をしっかり聞く中で、それまで知らなかった能力を発見したり、アイデアが生まれたりすることもあるかもしれません。


自分と異なるバックグラウンドの持ち主だからといって必要以上にマウントをとったり、恐れたりする必要はありません。耳を傾け、態度をよく見て「判断」するのではなく「共感」する。シンプルですが非常に効果的で、簡単に思えるけれど案外できないのが「傾聴」なのです。

長年培われてきた「無意識」を自分で矯正するのはなかなか難しいことですが、自分が「当たり前」だと思っていることをほかの人にとっても「当たり前」と思っていると、思わぬところに落とし穴が待っています。政財界の名だたる方々なら直接国民に非難されて改善するチャンスもあろうというものですが、一般的な男性管理職は自分で気づかぬうちに女性部下からの評価を下げている場合もあります。

「部下の話を同じ目線で聞く」それだけで、上司への信頼度は格段にアップするはずです。

(下河辺 さやこ : 小学館 ユニバーサルメディア事業局コンテンツ事業推進センター)