初日が荒天のため早々にサスペンデッド、その影響で2日目も日没サスペンデッドとなるなどイレギュラーな戦いになった「スタンレーレディスホンダ」は、小祝さくらの優勝で幕を閉じた。なぜ変則日程のなか54ホールノーボギーで勝つことができたのか。上田桃子、松森彩夏、吉田優利を指導するプロコーチの辻村明志氏が勝因を語る。
■小祝らしい勝ち方が戻ってきた
昨季5勝を挙げ、今年も5月の「リゾートトラストレディス」で勝った小祝だったが、その後は優勝争いに加わる機会も減り、シーズン2勝目に届いていなかった。この期間を辻村氏は「小祝さんらしくないほどボギーが多かった」と見ていたという。理由はグリーン上にある。
「元々ショットをチャンスにつけてスコアを伸ばしていくタイプの選手ですが、そのパットが決まっていませんでした。パッティングに悩んでいるのは明らかで色々なパターを試していましたし、何よりもルーティンが色々と増えていました。決まらないから“あれもこれも”となっているように見えましたね」
それがパターもようやく固まり、ルーティンもシンプルなものとなったことで一気に改善。「グリーン上の動作が1つになってきていましたね。チャンスを全て入れるという感じではなかったですが、要所でいいのが入っていました。パーを並べる展開が続きましたが、流れを無理にこじ開けようとせず、じっくりと待った。だから3パットもない。ショットをグリーンに乗せてスコアを作っていく。小祝さんらしい勝ち方だったと思います」とノーボギー優勝へとつながった。
■最後まで爆発できること、これが菅沼菜々の強み
その小祝を追い詰めた1人が、初優勝を狙った菅沼菜々。最後約3メートルのバーディパットを決められず1打届かなかったが、実力者にプレッシャーをかけ続けた。
「菅沼さんのいいところは、かみ合ったとき、18ホール最後までその流れを持っていけること。いいスタートを切れたら自分のテンションをキープしてとことん上までいける」
それができるのが技術力の高さと、メンタル面。「彼女はショートゲームがうまい。アプローチ1つとってもカラーからでも、人が嫌がるようなライからでもガンガンとウェッジで打っていける」。実際、今大会の最終日も11番パー5でチップインバーディ。17番では逆目の難しいライからピタリと寄せてパーをセーブするなど、アプローチは攻守にわたって冴えわたった。
この技術の高さがプレーにいい影響を及ぼしているのだ。「菅沼さんはアプローチに自信があるから、迷いがない。スタッツがいい選手でも、勝負どころで慎重になるとプレーのリズムが悪くなる選手もいる。だけど、菅沼さんは丁寧さよりも大胆さが勝つ。だから、いつでもすべてのプレーを淡々とできる。それが流れに乗っていける理由です」。現在、最終ラウンドの平均ストローク1位(69.3617)の理由がここにある。
■菅沼菜々のスイングは“見た目”よりも飛距離が出る
スイングを見てみると体全体を大きく使っていくのが特徴だ。
「テークバックからシャットにトップまで高く上げていき、フェードに打ち下ろしていきます。トップのヘッドや手元が高く、縦の力、重力をうまく使ってボールを高く上げて飛ばす。クラブの走らせ方を知っていますよね。だから見た目よりも飛距離が出る」
今の若い選手たちに多い、軸が中心というスイングではないが、「トップからフィニッシュまでの振り切りがいい。また、徹底してあのかたちで“あれこれ”やらないからシンプル」と体全体を使いつつ、安定感も高い。これに加え、パーオンホールで2位(1.7559)、1ラウンド当たりで4位(28.5250)と高い平均パット数にも言及する。
「菅沼さんはツアーのなかでも、足とボールが一番近い選手じゃないかという位置に立ち、ラインを出すのが本当にうまい。またエネルギーをロスすることなくヘッドに伝えられています。だから、何よりもショートパットを外さない。3パット率で1位の理由はここにあります」
未勝利ながらも、ここまでメルセデスランキングは9位で、賞金ランキング8位につける。「最も初優勝に近いのは間違いありません」と辻村氏が言う22歳に、これからも注目していきたい。
解説・辻村明志(つじむら・はるゆき)/1975年9月27日生まれ、福岡県出身。ツアープレーヤーとしてチャレンジツアー最高位2位などの成績を残し、2001年のアジアツアーQTでは3位に入り、翌年のアジアツアーにフル参戦した。転身後はツアー帯同コーチとして上田桃子、松森彩夏、吉田優利などを指導。様々な女子プロのスイングの特徴を分析し、コーチングに活かしている。プロゴルファーの辻村明須香は実妹。ツアー会場の愛称は“おにぃ”。
<ゴルフ情報ALBA.Net>