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6.2LスーチャーV8で1026ps

筆者は、プロの自動車評論家ではある。期限の過ぎた原稿を手渡した同僚から、あるいは約束の時間に遅れて待っていたフォトグラファーから、しばしばそういわれる。強めに。

【画像】1000馬力のモンスター ヘネシー・マンモス・ラム1500 V8のオフローダーと比較 全110枚

これまでどんなクルマでも試乗し、その体験をまとめてきた。基本的に、頼まれた仕事は断らない主義だ。それでも、今朝は少しその考えを改めようかと思った。


ヘネシー・マンモス・ラム1500 TRX(北米仕様)

広くない自宅の前に、6.0L V型12気筒エンジンを搭載するSUV、アウディQ7ですら小さく見えてしまうモンスターが停まっている。アメリカのチューナー、ヘネシー社が手を加えたピックアップトラックだ。

名前は、ヘネシー・マンモス・ラム1500 TRXという。選べるなら、もっと小さいクルマの試乗が良かった。全長は6m近くあり、全幅は2mを軽く超える。英国価格は、15万ポンド(約2505万円)だという。

大きなボンネットの内側には、6.2LのスーパーチャージドV型8気筒エンジンが搭載されている。最高出力は1026psもある。4ケタだ。最大トルクは133.7kg-mあり、0-100km/h加速を3.2秒でこなすらしい。車重が3538kgあるにも関わらず。

ヘネシー社は、これまで生産された公道を走れるピックアップトラックとして、最強だと主張している。近年の自動車業界のトレンドから、完全に外れていることは確かだろう。

ミドシップ・スーパーカーも発表したヘネシー

ボディカラーはオレンジがかったイエロー。写真撮影は、グレートブリテン島の南西にあるブリストルの街が良いのでは、と提案した。ここは、鉄骨が多用されたマッシブな建造物が多い。鉄橋もあるし、かつて造船で栄えていた工業的な港湾エリアも存在する。

恐竜時代的なマンモス・ラムの出で立ちと、良く似合うと考えた。周囲の人に自分がオーナーだとは誤解されたくないな、と思いながら、1日の取材をこなせる装備をキャビンに載せた。


ヘネシー・マンモス・ラム1500 TRX(北米仕様)

ヘネシー社は、ジョン・ヘネシー氏が1991年にアメリカ・テキサス州に創業した。これまでに通常より速いクルマを、1万台以上も生み出している。自社専用となる、ゼロヨンのドラッグレース用コースも保有しているという。

通常はフォードやダッジ、ラム、シボレー、キャデラック、ジープといったアメリカ車を中心にチューニングしている。10年ほど前に、ロータス・エキシージへ派手に手を加えたヴェノムGTで世界最速を目指していたことを、ご記憶の読者もいらっしゃるだろう。

そして2021年には、ヴェノムF5という独自開発のミドシップ・スーパーカーも発表した。6.6LのV型8気筒ツインターボ・エンジンを搭載し、目標とする最高速度は時速300マイル(482km/h)超え。過剰能力の象徴のようなクルマだ。

ベース車は702psのラム1500 TRX

話を戻そう。マンモス・ラムのベースとなっているのは、ラム1500 TRXという大きなピックアップトラックだ。

チューニング前から充分に高性能で、6.2LのV8スーパーチャージド・エンジンは702psを発揮する。この1500 TRXの価格は、英国通貨に換算すると6万6400ポンド(約1108万円)もする。アメリカはすごい。


ヘネシー・マンモス・ラム1500 TRX(北米仕様)

それをベースに、ヘネシーはスーパーチャージャーと駆動プーリー、点火プラグ、燃料インジェクターをアップグレード。オイルの潤滑系も改善し、新しいECUでエンジンを制御している。

こうして獲得した1026psは、6500rpmで発揮される。最大トルクは4200rpmで湧き出る。トランスミッションは8速オートマティックで、四輪を駆動する。

アクセルペダルを軽く煽ってみると、すぐにスーパーチャージャーが悲鳴を上げ、エグゾーストから激しい唸りが放たれる。テールエンドはダブルキャブと長い荷室を挟んだ後ろ側だが、運転席へも大きく排気音が響いてくる。

ベース車両を作ったラムも、それをチューニングしたヘネシーも、巨大なピックアップトラックを、高い動的能力が備わった運転の楽しいクルマへ仕上げようと務めた。しかし、結局はそのルーツから逃れることはできなかったようだ。

アメリカのストックカーレース、ナスカーの強力なエンジンを搭載した、配送トラックだと考えても良いかもしれない。とはいえ、1000馬力が生むドライビング体験に興味が湧くことは確かだ。

この続きは後編にて。