女優・川上麻衣子さんの暮らしのエッセー。 一般社団法人「ねこと今日」の理事長を務め、愛猫家としても知られる川上さんが、猫のこと、50代の暮らしのこと、食のこと、出生地でもあるスウェーデンのこと(フィーカ:fikaはスウェーデン語でコーヒーブレイクのこと)などを写真と文章でつづります。第16回は、50代半ばになり「中年」という言葉に一切の抵抗がなくなったという川上さんが考える、「老い」との向き合い方について。

時間があっという間に過ぎるのは「老化」のせい?<川上麻衣子の猫とフィーカ>

なんとも不安定な天候が続き、今年は四季の変わり目がどうもハッキリしないなと感じている内に、暦はあっという間に8月となりました。この調子で行くと例年の如くいつの間にか、気がついた時には年の瀬の大掃除と、お正月の準備にあくせくとすることは間違いなさそうです。

川上麻衣子さん20代の頃のアルバム写真<写真>

1年が早く感じるのは脳の衰えが原因だとも言われますが、確かに子どもの頃、夏休みのあとに始まる「2学期」はとてつもなく長かった印象があります。

ただし夏休みに関しては子どもながらにもあっという間に過ぎてしまい宿題に泣かされた記憶がありますから、つまりは若かろうが老いていようが、時間の長短は「脳みそ」の活躍度によって違って感じるものと考えてもよいかもしれませんね。

 

●「できない」と抵抗なく言える年齢になった

かねてから私が持論としているアンチエンジング術は「できなかったことが『できる』ようになること」

幼い頃を思い起こしてみると世の中「まだまだ自分にはできないこと」に溢れていて、母親が上手に蝶々結びをしてくれるだけでも、いつかは自分も…と憧れたものです。若さとは、無限に可能性を与えられているようでしたから、「自分にはできません」と挑戦もせずに、匙を投げるような態度は、とても人間として恥ずべき姿とみなされそうでした。

極端に言ってしまえば、若い頃は日々、なにかしらに立ち向かい、成長を止めてはならない戦いのなかにいるようで、当時を思うと少し息苦しくさえなります。

ところが50歳も半ばを過ぎ「中年」という言葉には一切抵抗がなくなり、次なる「初老」という言葉に敏感なお年頃ともなれば、「できません」とお断りすることに、なんの遠慮もいらなくなり、これこそが大人の特権とばかりに、抵抗なく口にする機会は増える一方です。

そうです。すべてはいつの間にか…変化していくものなのです。

●50歳で初めての「レジ打ち」で得たもの

「できないこと」が「できなくてもいいこと」に変化したことが、年齢を重ねた証でしょうか。これは決して悪いことではなく、むしろ年月をかけてさまざまなことに挑戦した結果として得た、いわば「年の功」! 大事な個性です。

しかしだからこそ、この年齢になってから「今はできないけれど、きっといつかできるようになりたい」事柄を見つけることはとても重要だと思うのです。

できるようになった自分を想像するとワクワクすること。去年まではできなかったけれど今年は、できるようになったという喜び。最高のアンチエイジングではありませんか。

私の場合、非常にちっぽけなことですが、自分の店をもったことを機に50歳にして初めてレジが打てるようになったときは妙に感動しました。14歳から俳優の仕事をしていたことで、アルバイトの経験もなく50歳を迎えていましたので、接客をしながらレジを打つことは、とても緊張する作業でした。

間違って打ち込み、お客様に迷惑はかけないだろうか。手間取って怒られはしないだろうか。大袈裟に言えば、免許を取得して初めて自分の車で運転をした時のような感覚にさえ似ていました。

●老いと抗うのではなく「調和」を保っていきたい

さてさてそんなわけで私のアンチエイジング。じつはまったくもってアンチではなく、「老い」とは「調和した関係」を保っていきたいと考えています。時を経る(エイジング)ことと調和(シンフォニー)したい、そういう思いを込めて「シンフォニーエイジング」とでも名づけましょうか。文法はさておき、響きは悪くない気がします。

今私が挑戦したい「シンフォニーエイジング」のための作業は、今日までの写真をアルバムにまとめること。

スマホやパソコンが普及する前までは、記録好きの父の影響もあり、わりとマメにアルバムを残していたのですが、デジカメの出現を境に1998年頃からパタッっとやめてしまい、この20年の月日の流れが漠然としています。

日記を書くことや、自身のアルバムをつくる事は精神的にとても穏やかになると聞いたことがあります。少なくとも私自身は、日記を書くことやアルバムをつくることは、地に足をつけて呼吸をしている気持ちにさせてくれる大切な作業だと感じています。

途絶えてしまったアルバムをつくりながら、時の流れを心に刻み、上手に年を重ねていくこと。年齢と調和しながら生きていく「シンフォニーエイジング」を、勝手に名づけて楽しみたいと思います。