男子のバレーボールネーションズリーグ(VNL)2022大会の予選ラウンドは第2週目のフィリピンラウンドを終え、日本代表は6勝2敗と上々の結果を残している。


主将の石川(左)や西田(右から2番目)らアタッカー陣、山内(右)などミドルブロッカー陣も好調

 敗れたのは世界大会での優勝経験が多いアメリカ戦と、東京五輪で金メダルを獲得したフランス戦。その2戦で日本は主力を温存していたが、アメリカ戦はフルセットまで持ち込み、ストレートで敗れたフランス戦も第2セットはデュースに持ち込んだ。主力選手だけでなく、控えのメンバーも十分に世界のトップクラスと戦える手ごたえを得ただろう。

 監督は中垣内祐一体制時のコーチだったフィリップ・ブラン氏。監督就任前に5年ほど日本代表チームを指導していたこともあり、選手の把握などについてはまったく問題ない。

 今大会で注目されるのは、東京五輪で29年ぶりのベスト8進出を果たしたチームが、パリ五輪に向けてどれだけの上積みができるか、ということ。各大陸の予選がなくなるなど五輪の出場権の獲得方法が大きく変わり、世界ランキングが重視されるようになってVNLの重要度も増す中でチームは好調を維持している。

 その理由は、主将の石川祐希をはじめとするアタッカー陣の活躍と、新戦力の奮闘にある。

 初戦のオランダ戦は第1セットを失ったものの、第2セットから入った初代表のミドルブロッカー・村山豪がスパイクにブロックにサーブにと大活躍。チームトップの得点を挙げた西田有志(25得点)に次ぐ12得点をマークして逆転勝利に貢献した。

 第2戦の中国戦では、今大会で代表初出場を果たした192cmの長身セッター・永露元稀(えいろ・もとき)がスタートから起用され、セットカウント3−1で勝利した。村山も最初から最後までコートに立っていたが、そこで勝ちきったことは2人にとって大きな自信になっただろう。

 日本は中垣内ジャパン時代から、連戦での選手のコンディション維持のために格上の相手にはBチームを、同格、もしくは格下の相手にはAチームで戦う傾向があった。しかし今大会では、やや変則的に運用されている。

 格下の中国戦(7月1日時点の世界ランキングで日本は7位、中国は17位)で代表経験の浅い永露、村山を通して使い、アメリカ(同6位)戦では西田は出さなかったものの、東京五輪でも活躍した郄橋藍とリベロ山本智大はスタートから、石川と正セッターの関田誠大も途中からコートに立った。

 第7戦のフランス(同3位)との試合は、リベロも含めて完全にBチームで通したが、そこで結果を出したミドルブロッカー・郄橋健太郎とアウトサイドヒッター・大塚達宣を翌日のスロベニア(同10位)戦のスタメンに抜擢。ただチームを分けるのではなく、柔軟に組み替えて主力を休ませながら、Bチームメンバーにもチャンスを与えている。

「どこからでも決められるチーム」に

 第6戦は、東京五輪でまったく歯が立たなかったイタリア(同5位)相手にフルセットの激闘となり、最終セットを15−13で取って競り勝った。イタリアはエースのイヴァン・ザイツェフは不在だったが、若手中心でも昨年の欧州選手権で優勝しているだけに、今秋に控える世界選手権に向けても収穫となった。

 この試合のベストスコアラーは28点を挙げた西田で、2番目が石川の20得点。それに続くのが、ミドルブロッカー・山内晶大の15得点というのもこれまでの日本では見られなかった得点分布だ。セッターの関田は果敢にミドルの攻撃を使い、各セットの終盤でもクイックの使用をためらわなかった。

 山内もそれに応え、決定率77%を記録。その影響もあって、第8戦のスロベニア戦では山内に終始1枚ブロックがついた。山内自身は「ブロックが厚くついてくるようになって、コースを打ち分けることを意識した」とコメントしたが、それによってサイドアタッカーが決めやすくなるという好循環が見られた。

 アタッカー陣は、第2週が終了した時点で西田が全体のベストサーバー部門1位、ベストスコアラー部門でも3位に入っている。スロベニア戦ではさすがに疲れが出たのか、連続被ブロックのあとに打数が少なくなった。しかし、石川や大塚、ミドルブロッカーの郄橋(健)や山内らが得点を重ねて勝利。「どこからでも得点できるチーム」として仕上がりつつある。

 フランス戦で、体調不良の宮浦健人に代わってBチームのオポジットとして起用された大塚は、「普段と違うポジションだが、どこであっても全力を尽くす」という言葉通り15得点をマークし、チームのベストスコアラーに。スロベニア戦では、イタリア戦でケガをした郄橋藍に代わって石川との対角で出場。バックアタックや、郄橋がやや苦手とする前衛からの攻撃でも得点し、サーブレシーブでは相手の集中砲火に耐え抜いた。

 そして、チームが欲しい1点を着実にとってくれるのが主将の石川。劣勢、競り合いでの勝負どころで、サービスエースやレフトからの"超インナー"などを決めきる力はさすがだ。セッターがサーブを打ったあとのローテーションでは、左利きの西田が前衛レフトにいるために攻撃の選択肢がどうしても狭まるが、ライトから石川がサイドアウトを切ってくれるため、今のローテーションも回せるようになる。

 プレー以外でも、試合中やタイムアウトで的確な指示をする姿が印象的だ。以前の日本は石川の"孤軍奮闘"という試合もあったが、今のチームは石川の奮起に呼応する選手がたくさんいる。

セッターもポジション争いが熾烈に

 そんなアタッカー陣を操る司令塔、セッターのポジションも争いが熾烈になっている。ここ数年は関田と藤井直伸が担っていたが、藤井はがん闘病中。そこで台頭してきているのが、サントリーサンバーズのリーグ2連覇の立役者でMVPに選ばれた大宅真樹と、先述した永露だ。

 長身セッターとして注目を集める永露は、昨季からウルフドッグス名古屋のレギュラーセッターに抜擢されてシーズンを戦い抜いた。175cmの関田はブロックの穴になりやすく、ポジションチェンジをしてそれを埋める対応が必要だったが、192cmの永露であればそれも必要ない。一方、ミドルを積極的に使うことが特長で、ディグ(スパイクレシーブ)もいい大宅も強みを見せられればチャンスが出てくる。現状ではやはり関田の存在感が大きいが、新たなライバルの出現は刺激になっているだろう。

 7月5日から始まる大阪ラウンドで、日本は6日にオーストラリアと対戦する。ネーションズリーグで初のファイナルラウンド出場もかかるが、その中でチームがどう進化するかにも注目したい。