web3、メタバース、NFT…

そろそろ耳慣れてきたこれらの最先端テクノロジーですが、結局のところ、私たちの生活や働き方にどのような変革をもたらすのでしょうか…?

元MITメディアラボ所長・伊藤穰一(いとう・じょういち)さんの新著『テクノロジーが予測する未来 web3、メタバース、NFTで世界はこうなる』(SB新書)によると、経済・働き方・文化・教育など、あらゆることが激変する未来が待っているのだそう。

すべてが大転換する前に“心の準備”として読んでおきたい同書より、「web3時代の働き方」について一部抜粋してお届けします。


この記事はこんな人におすすめ(読了目安:5分)
・web3、DAOの概念を整理したい
・最新テクノロジーで“働き方”がどう変わるのか知りたい
・DAOの現状や課題を知りたい


仕事は、おもしろいことに「本気で参加する」ものになる

web3(「ブロックチェーン」をインフラとする、非中央集権的なウェブの世界)では、個人の働き方は「組織ベース」ではなく「プロジェクトベース」になっていきます。

その主体は「DAO」です。

DAOは会社組織ではなく、プロジェクトごとに立ち上げられるので、個人は、自分が興味を持ち、貢献できそうなDAOを見つけるごとに「参加する」というかたちで働いていくことになります。

DAOとの関わり方は、そのプロジェクトへの思い入れ具合の変化に応じて、「閲覧」→「発言」→「本気で参加する」というふうに変化していくことが多いでしょう。

いきなり深く入り込むというよりも、最初はメンバーたちのやりとりを見て様子を探りつつ、徐々に誰かの提議に意見を述べたり、賛成/反対の票を投じたりするようになる。

そして今度は自分が提議したりして、プロジェクトを引っ張るひとりになっていくーーという感じです。

DAOのメンバーは、皆同等の立場なので、コミット具合によってプロジェクトに対する責任も貢献度も変わっていくのは当然です。

しかし見てのとおり、DAOに深くコミットするほどに責任と貢献度が増していくというのは、いわゆる既存社会の企業の「出世」とはまったく違います。

DAOは個人を縛りつけるものではないため、おもしろそうなDAOへのコミットメントはより強く、ちょっと関心がある程度のDAOへのコミットメントはより弱く、という差が出るだけです。

もし興味を失ったら、そのDAOから退出すればいいだけのこと。

「退職希望日の◯カ月前に申し出よ」といったルールもありません。

このように、トークンを所有するだけでプロジェクトマネジメントに関わることができて、それでいて縛られるわけではない。

深くコミットするのも去るのも、すべて自分の意志と選択ひとつです。

会社を退職・転職するだけでもひと苦労であるのと比べると、信じられないくらい身軽で自由な働き方といえます。


報酬・配当・権利を「トークン」が司る

DAOに参加することで得られる対価には、仕事の報酬、利益分配などがあります。

報酬は、そのDAOが発行するトークンやステーブルコイン・イーサなどの暗号資産で支払われます。

なお、DAOの利益は、一般的にはガバナンストークン(自分が参加しているDAOの投票権になったり、利益を還元する権利になったりする株のような概念)の保有量に応じて分配されます。

ガバナンストークンは、スタートアップ企業のストックオプション(新株予約権)と比較するとわかりやすいでしょう。

ストックオプションとは、企業の従業員が、自社の新株を特定の値段で購入できる権利です。

DAOのガバナンストークンが報酬として配布されることは、いってみれば、スタートアップ企業のストックオプションを受け取るようなものです。

自分が自社の成長に貢献すればするほど自社の株価が上がるように、自分の貢献によりDAOが成長すると、保有しているガバナンストークンの価値も上がります。

上がったところで売却すれば、大きなキャピタルゲインを得られます。

保有し続ければ、利益が分配されることでインカムゲインを得られます。

しかも、DAOでは、これがスピーディに起こりやすいというのも特徴です。

ストックオプションでは自社が証券取引所に上場(IPO)しないことには権利を行使できず、それには数年〜十数年単位の時間がかかります。

一方、DAOの場合は、トークンを売り買いできるタイミングが、プロジェクトがかたちになる前の段階に訪れてしまうことが多いのです。


DAOの課題

ただし、DAOには、まだ法的立場が明確でないという課題があります。

「分散型自律組織」という言葉が表しているとおり、DAOには確たる主体がいません。

もちろん最初にプロジェクトを立ち上げたメンバーはいますが、「創業者」ではなく、大勢のトークンホルダーのひとりに過ぎません。

現時点でもっとも先進的な例としては、アメリカ・ワイオミング州でDAOを法人として認める「DAO法」が制定されました。

一方、日本ではようやく議論がはじまろうか、というくらいの段階です。

このあたりの法整備が進めば、DAOによる仕事や働き方の劇的な変化は、より大きな社会的ムーブメントになっていくでしょう。

手始めに「DAO特区」みたいなものを設け、ワイオミング州のようなDAO法を実験的に施行するのも一案だと思います。


DAOで“仕事内容・場所・時間”から解放され、格差も是正される

仕事の内容も場所も時間も、誰かに指示されるのではなく、自分主導で決められるというのが、web3的な働き方です。

そういう働き方を僕たちが当たり前にしていけば、仕事にまつわる格差を小さくしていくこともできるでしょう。

たとえば男女の格差。

日本のジェンダーギャップ指数は156カ国中120位前後と、惨憺たる状況が続いています。

男性優位の価値観はもちろん正していかねばなりませんが、仕組み面でボトルネックとなっているのは、やはり妊娠・出産という大きなライフイベントに対する無理解や不寛容でしょう。

男性の育休など、以前に比べれば改善している部分もあるのかもしれませんが、まだまだ、子どもを持つ女性が働きづらいという現状があります。

こうした男女格差以外にも、介護などさまざまな事情によりフルタイムで働けない人、あるいは自身の心身が不自由で、会社に出勤することが難しい人もいるでしょう。

既存の社会では、どうしても、そういう人たちが置き去りにされがちでした。

その点、DAOにはそもそも「経営者、正社員、契約社員」といった区分がないので、「女性の管理職はわずか7.8%にとどまる」「同じ仕事内容でも、非正規雇用の給料は正社員の70%足らず」といった文脈の格差是正にはつながりません。

しかし、「自分にできること(得意なこと、好きなこと)で貢献できればOK」「いつ、どこで、どれだけ働いてもOK」というDAOならば、さまざまな事情で既存社会の固定された働き方が難しい人たちにも、多様な働き方の可能性が開かれます。

web3は、リスクをとって先に飛び込み、得たトークンの価値が結果的に大きくなる「先行者利益」が発生することがあるため、格差拡大につながるという見方もありますが、僕は必ずしもそうとは思いません。

クリプトエコノミーが拡大すれば、これまでとは違ったフラットな関係性のなかで、新しい社会がつくられていくことに、僕は大いなる可能性を感じます。

読んで備える“破壊的ゲームチェンジ”

インターネットが誕生し、世の中に普及してから約20年。

「『インターネットがない時代があったなんて信じられない』『スマホを使いこなせない人は困る』というほどの劇的な変化が、いま、新たに起ころうとしている」と伊藤さんはいいます。

同書は、最新テクノロジーに詳しくなくても「概念」や「全体像」、「何が起こりうるのか」を整理するのに役立ちます。

誰もが不可避な“破壊的ゲームチェンジ”に、読んで備えましょう。