「fracora(フラコラ)」は、Youtubeチャンネル「生命科学アカデミー」に大阪大学大学院生命機能研究科教授/医学系研究科教授の吉森保先生をお招きし、「オートファジーの「秘密」とは?」ほか、全6回を公開しました。

細胞一つ一つが元気になることで、病気や老化を防ぐことができるということが昨今の最先端研究により分かってきました。話題の「オートファジー」研究のスペシャリスト、吉森先生に今知っておきたい「細胞」と「オートファジー」の話を聞きました。

※本記事はYouTubeチャンネル「生命科学アカデミー」で配信された内容を、ウートピ編集部で再編集したものです。

<前回までのおさらい>

・「オートファジー」は、細胞の中の社会をよい状態でうまく機能させ続けるメンテナンスのような仕組み

・主な役割は、
1 細胞の中身を入れ替えてリフレッシュさせる
2 細胞の中に有害なものが現れたときにそれを狙い撃ちで壊す

・歳をとるとオートファジーが低下し、病気になる

・寿命を延ばすにはオートファジーを上げることが必要

※詳しくは第1回、第2回、第3回、第4回をご覧ください

オートファジーを上げるなら、納豆、赤ワイン、サケ、ザクロ

我々はどうにか「オートファジー」を活性化させる薬を作れないかと研究しているのですが、ご存知のように薬は開発にお金と時間がかかります。

何百億円かけて、安全性の確認をとりつつ10年以上経ってようやく薬ができたと思っても副作用があったとか、そういうこともあるわけで、作る側からしてみたら博打のようなところもあります。

将来的に薬は作りたいですが、「病気になってから治す」より「ならないようにする」という考えも大事です。

これまでの医学というのはcure(治療)を中心に考えてきましたが、これからはcureよりcare(ケア)。老化にともなう病気は未然に防いだほうがコストもかからないし、治すより防ぐほうが簡単なんです。

いわゆる成人病や老化にともなう病気については、careの方向にシフトしていくと私は思っていて、実際その流れもできつつあります。

たとえば生活習慣病というのは名前の通り生活習慣で大きく変えることができますし、2型糖尿病などは予防が可能です。生活習慣を変える、特に食べ物ですよね。

今すでにある食べ物の中にも、オートファジーを上げるものがいくつか見つかっています。スペルミジン、レスベラトロール、アスタキサンチン、ウロリチンなどです。

スペルミジンはいろいろな食品に含まれています。世界で一番スペルミジンが多く含まれる食品は納豆です。

オーストリアの研究者がドイツの学会で発表していたんですが、「スペルミジンが効くのはわかったけど、いったい何に含まれるのか?」という質問に「ナットウ」と日本語で答えたとき、みんなどよめいてましたね。納豆が苦手な欧米の方は多いので。

レスベラトロールは赤ワインの成分、アスタキサンチンはエビやカニの殻、サケなどに含まれる成分、ウロリチンはザクロの成分です。天然食品の成分でオートファジーを上げることができるものが、これからもっと見つかると思います。

老化した細胞が元に戻る?

ひとつ面白い実験があります。私の友人のケンブリッジ大学の教授が、お年寄りの免疫細胞をつかって行った実験です。

歳をとるとオートファジーが下がって、免疫細胞がだんだん抗体をつくれなくなります。抗体はタンパク質で、敵をやっつける機能があります。それが、歳をとるとつくれなくなってくる。

でも、お年寄りの免疫細胞を血液から取り出してきてスペルミジンを振りかけたら、オートファジーが上がって、また抗体がつくれるようになったんです。スペルミジンの効果を検証した実験でもあるんですけど、それ以上に我々が注目しているのは、いったん老化しちゃった細胞でも元に戻るということです。

「オートファジーが大事なのはわかったんですけど、歳をとってしまってからでは手遅れですか」とよく聞かれるのですが、少なくともこの免疫細胞に関しては手遅れではないということですよね。

この免疫細胞だけでなく、おそらく多くの細胞でも同じじゃないかと思っていて、老化した人もある程度巻き戻せるんじゃないかと私は考えています。もっともっと研究しないといけませんが、そういう期待があります。

老化は自然現象のように思われているし、たとえばお医者さんに具合が悪いと言っても「歳だから仕方ないですね」と言われることも多いでしょう。でも、それが今後は変わるかもしれない。

「歳をとったから仕方ない」とあきらめる必要はない時代が、これからくるだろうと思います。

(最終回に続く)

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