電源確保のストレスから解放される新MacBook Proか、個性溢れる新MacBook Airか?

6月初旬開催の「WWDC 22」にて、新MacBook Airと同時に発表されたM2チップ搭載の新MacBook Pro。発売前に触れる機会を得たので、そのファーストインプレッションをITジャーナリストの松村太郎がお伝えする。

驚愕のバッテリー性能

Appleは2022年6月24日(金)より、13インチの新MacBook Proを発売する。

新モデルは従来の13インチMacBook Proのデザインを踏襲しながら、新しいAppleシリコン「M2」チップを搭載し、最大20時間のバッテリー持続時間を維持しつつも、大幅な性能向上に成功している。次世代チップを搭載した新MacBook Proがどのような進化を遂げたのか、その実力を見ていこう。

まずは、MacBook Proの現行ラインアップについておさらいしておこう。このシリーズは、その名の通りクリエイティブや研究職など、より高度な作業を行うことを目指して作られたノート型コンピュータだ。

コンピュータ全体がモバイル化する中で、Appleシリコンを採用したMacBook Proは、特に動画やグラフィックスを扱うクリエイティブユーザをWindowsから取り戻すため、高い処理性能を実現しつつ、同時にバッテリーの持続時間を最大限に確保している。

14インチ、16インチといったラインアップがある中で、13インチMacBook Proは、シリーズ内で最もコンパクトでありながら、高いパフォーマンスを誇り、MacBook Airを含むAppleのノートブックの中でもバッテリー持続時間が長い製品として位置づけられる。「最大17時間のワイヤレスインターネット、最大20時間のビデオ再生」というスペックは、それだけでも十分にインパクトがある。

13インチMacBook Proは、まさに「バッテリーキング」とも言うべき存在だ。たとえば、今まさに新13インチMacBook Proで、取材時の録音データを複数再生しながら「Word」を起ち上げて本稿を執筆しているが、バッテリーは1時間に1%消費するかどうか。つまりこのまま100時間近く仕事をし続けられることになるのだが、間違いなく作業する人間の方が先に音を上げてしまう。それほどまでに、Appleシリコンが持つ省電力性は凄まじい。

出張が多いビジネスパーソンやオンライン授業を1日に何コマも抱える大学生など、出先で作業をすることが多い人にとって、このバッテリー持続時間は極めて大きな魅力になる。モバイルマシンユーザが避けては通れない「電源の確保」というストレスから完全に解放される、まさに「価値観を変える1台」と言える。

現地時間6月6日より開催された「WWDC(世界開発者会議)」にて発表された新MacBook Pro。価格は、8コアCPU・10コアGPU・8GBメモリ・256GBストレージのベースモデルが17万8800円。カスタマイズによって、メモリを最大24GBまで、ストレージを最大2TBまで拡張した場合、その価格は34万6800円となる(価格はすべて税込)

M1を搭載した旧モデルのデザインを踏襲。カラーはスペースグレイとシルバーの2色展開だ

新MacBook Proは、最新の5nmプロセスで製造された第2世代のAppleシリコン「M2」を搭載。その驚異のバッテリー性能を、ぜひ一度は体験してみていただきたい

進化したAppleシリコンの秘密

Appleは2020年から徐々に、Intelチップから自社設計のAppleシリコンへと、Macの“心臓部”の移行を進めてきた。新13インチMacBook Proに搭載された「M2」は第2世代のAppleシリコンと位置づけられるが、初代「M1」と比較した際、ベンチマークスコアではCPUが25%前後、GPUは42%前後のパフォーマンス向上が確認できる。

一般に、チップの高性能化には消費電力の増大が付き物だと考えられてきた。そのため、長時間のスタミナを持つノートパソコンには処理性能を抑えたチップを、逆に最高峰の性能を発揮するデスクトップパソコンには、ドライヤーと同じレベルの電力を消費するモデルも存在する。後者の場合、当然、バッテリー駆動は現実的ではない。

Appleシリコンは、そうした処理性能と消費電力の常識を打ち破り、高い性能を発揮しながらバッテリー駆動を実現するチップを目指して開発されている。M2では、最新の5nm(ナノメートル)製造技術を用いることで、パフォーマンス向上と電力の節約を両立することに成功した。

加えて注目したいのが、14インチ/16インチMacBook Proに用意されていた「メディアエンジン」が、新たにM2にも採用されたこと。メディアエンジンは、ビデオのエンコード/デコードといった処理を高速化する役割を担う。

このメディアエンジンの効果は、ビデオ編集や書き出しには絶大だ。たとえば15分の4K動画を書き出す場合でも、バッテリー消費を数%に抑えることができた。これはメディアエンジンがCPUやGPUの負担を削減していることを意味している。新13インチMacBook Proなら、iPhoneで撮影した高圧縮4K動画をはじめ、今後iPhoneが対応すると噂されている8K動画の編集も難なくこなせるだろう。

これまで、27万4800円の14インチMacBook Pro以上のモデルを選ばなければ、メディアエンジンの恩恵を受けることはできなかった。見方を変えると、ビデオ編集により強いマシンが、10万円も安く購入できるようになったのだ。動画を編集したいが30万円近くのMacには手が出ないという人、あるいは出先で動画をサクサク編集したい人にとって、新13インチMacBook Proはその期待に応えてくれる。

キーボード部分にはTouch BarおよびTouch IDを内蔵した電源ボタンを配置。また、内蔵スピーカーが空間オーディオに対応したことで、より豊かな音楽体験が味わえるようになった

インターフェイスには、筐体左側に2つのThunderbolt / USB 4ポートを搭載。14インチ/16インチMacBook Proおよび新MacBook Airに搭載された充電用の「MagSafe 3」ポートは非採用となった

新Airと新Pro、どっちを買うべき?

今回発売される新13インチMacBook Proに加えて、7月には全く新しいデザインと4色のカラーバリエーションが魅力的なM2搭載MacBook Airの登場も予定されている。また、従来のM1搭載MacBook Airも、米国では販売価格が値下げされた上で併売となる(日本では円安による価格改定の影響を受けての併売)。

より専門的でクリエイティブな作業なら、M2登場以降も引き続き、あらゆる面で性能が上回るM1 Pro/M1 Maxを搭載した14インチ/16インチMacBook Proが選択肢になるだろう。では、より一般的な利用を想定した場合、M2を搭載したMacBook ProとMacBook Airは、どのような視点で購入を検討すればよいのだろうか。

M2搭載MacBook Airは、M1搭載モデルよりもディスプレイサイズが13.3インチから13.6インチに拡大している。また、FaceTime HDカメラがフルHD化されたり、内蔵スピーカーがよりクリアで大きな音を奏でるようになったりと、新デザインになってハードウェア面の刷新がより際立つ存在となった。

その点で言うと、カラフルな色で自分らしさを表現しつつ、1台のノートブックを長く使いたいというユーザーは、あまり迷わず新MacBook Airを選択しても良いだろう。

一方で、外出先でのクリエイティブ作業が多い人は、性能面から考えて新型13インチMacBook Proがおすすめだ。MacBook Airよりもバッテリー持続時間がより長いことに加え、ファンを内蔵した排熱機構を有していることから、負荷の高い作業中にも熱による性能の制限を回避できる。

また、両モデルを同じ8コアCPU/10コアGPU/8GBメモリ/512GBストレージの構成にした場合、新MacBook Airの方が若干割高になる。高いパフォーマンスを求めるクリエイティブユーザーを優遇するラインアップ構成も、新13インチMacBook Proが持つ魅力の1つと言えるかもしれない。

7月には同じくM2チップを搭載した新MacBook Airのリリースも控えている。こちらは4色のカラバリと、ハードウェア面での進化が魅力だ

文・撮影/松村太郎