※この記事は2022年03月01日にBLOGOSで公開されたものです

「サステナブル」「SDGs」主張には矛盾する点も

業界向け、大手問わずメディアでは連日「サステナブル」とか「SDGs」の文字が躍っています。

著名なブランドの打ち出しもこぞって「サステナブル」「SDGs」ですが、実際のところ、メディアでは報道されませんが繊維・衣料品の製造・販売現場では「SDGsを謳っても全く売れていない」という冷めた意見も多くあります。

また、主張している側にも矛盾も多く、技術的にも難しいものが多くあります。正直なところ、誰しもが納得できるような論説はちょっと見当たりません。

数年前から欧米を中心にエコ、エシカルなどへの取り組みが声高に叫ばれ始めました。現在のところ「サステナブル」「SDGs」という呼び名に集約されつつあるように感じますが、本来の言葉の意味はそれぞれ異なります。

現状、欧米日のこの手の取り組みは環境問題に異様にフォーカスしていますが、本来、「SDGs」は17個のゴールがあり、環境問題はそのうちの一角に過ぎません。貧困撲滅、飢餓撲滅、経済成長なども17個のゴールに含まれています。

コロナ禍が2020年の春先に起き、特に3月末から5月下旬まで商業施設がほぼ営業停止となりました。そのため、アパレル業界の売れ行きは止まり、春夏物の不良在庫が増えることになりました。

このため、4月から急速な生産キャンセル、仕入れキャンセルが起き、某有名セレクトショップのキャンセル通達書がSNSにアップされるという騒ぎとなりました。その当時の生産・仕入れのキャンセルは何も国内に限ったことではなく、海外にも行われたのは当然の動きといえます。

そうすると、衣料品生産高世界2位のバングラデシュの工場にも注文のキャンセルがあったと伝わっています。それを受けて、バングラデシュの工場と深いつながりのある業界の面々により、「バングラデシュの人たちの生活を守るためにキャンセルをするな」という文言をSNSに投稿することが多く見られるようになりました。

急なキャンセルは商道徳に反しますからこの主張は間違ってはいません。しかし、この意見の主張者たちはコロナ禍以前から「衣料品の大量生産は廃止すべき」と主張していたのです。

バングラデシュの基幹産業は繊維産業です。2020年4月8日の繊研新聞によると、

最大の業界団体、BGMEA(バングラデシュ縫製品製造輸出業協会)によると、6日午後5時(現地時間)までに1115工場が操業を自粛。輸出オーダーのキャンセルは3億400万ドル、9億5200万ピースに上る。また219万人の労働者に影響が出ているとし、女性を中心に約400万人が就業する縫製業の停滞が社会や生活に影響を与えている。

https://senken.co.jp/posts/new-coronavirus-bangladesh-200408

とあります。縫製業だけで400万人のバングラデシュ人が雇用されているわけですから、大量生産以外にはバングラデシュ人の雇用を守ることは現時点では不可能です。

「バングラデシュ人の雇用を守れ」という主張と「衣料品の大量生産を廃止しろ」という主張は両立できないことはお分かりでしょう。この矛盾する主張を同じ人物、同じグループが唱えているのですから話になりません。

人類は何の素材で衣服を作れば良いのか?という問いに直面する

また素材や生地についても矛盾点が多く見られ、現在の科学技術では到底解決できるとは思えません。

現在、投機マネーも多く流入して綿花が1ドルを越える高騰ぶりとなっています。2011年には2ドルを超え、史上最高値となりましたが、10年ぶりに値上がりしています。そのため、代替措置としてポリエステルやナイロンといった合成繊維を多用する生地が2022年春以降は多く登場しそうです。

しかし、一方ではマイクロプラスチックの海洋汚染を懸念して、ポリエステルやナイロンの使用を停止すべきという意見もあります。他方、綿花栽培の土壌汚染を懸念する意見もあります。

それぞれの意見はそれなりに正しいのでしょうが、両立させることは困難です。動物と違って体毛の薄い人類は何の素材で衣服を作れば良いのでしょうか?

また、安易に「合繊の廃止」と言いますが、ポリエステル・ナイロンを廃止すれば、現在コロナ禍で多用されている不織布の医療用マスクは作れなくなります。コロナ対策だけではなく、手術にも診察にも不織布マスクは必須です。

さらに言うなら、サッカーやラグビー、野球、陸上などほとんどのスポーツの競技服は合繊ですし、工事現場で着用される作業服も合繊です。ファッション衣料は合繊無しで我慢できるとしても、スポーツ、作業服は綿製品では到底役に立ちません。

吸水速乾性、耐久性、軽量感では綿生地はポリエステルやナイロン生地の足元にも及びません。どうするつもりなのでしょうか。

リサイクルを複数回繰り返すと品質は劣化するという課題

このようなそれぞれの主張はそれなりに正しいが、総論としては矛盾して成り立たないという問題点のほかに、用語や定義のあやふやさも混乱に拍車をかけている側面があります。

例えば頻繁に使われる「リサイクル素材」という言葉ですが、実際に着古した物や使い古した物を再加工するリサイクルと、そうではないリサイクルの2種類があります。また、その「リサイクル」が文面通りに正しく行われているのかという偽装問題もあります。

まず、リサイクル素材ですが、リサイクルポリエステルは使用済のペットボトルから作りますが、リサイクルコットンは通常は使用済の綿製品から作るのではありません。綿花から綿糸に紡績する際に落ちる綿くずを拾い集めて綿糸にするのです。

我が国では「落ち綿」と元々は呼ばれていました。最近は使い古した綿製品を分解して再度綿生地にするというリサイクルコットンもあるようですが、使用している業者や多くのメディアはそこまで言葉の意味について深くは考えていません。

リサイクルウールは着古したウール製品を砕いてウール糸にし、それを生地化するという作り方をします。我が国では元々「反毛(はんもう)」と呼ばれる工法でした。しかし、この反毛には欠点があります。

生地の品質が如実に劣化するのです。以前、反毛で作られたニットワンピースがクラウドファンディングに出品されたことがあるのですが、それを買った女性が着てみると、通常のウール生地よりもチクチク感が強く、かゆくて着られなかったとのことです。

また品質の劣化という点ではリサイクルポリエステルも同様で、リサイクルポリエステルの製造方法はすでに90年代後半に確立されていたにもかかわらず、業界ではほとんど使われなかったのは、通常の新品のポリエステルより品質が低く硬くなってしまうことが多い上に、工程が増える分だけ価格が上がるからです。

高くて品質の悪い糸なんて誰も使いたくないですし、消費者も買いません。ですからリサイクルポリエステルは、サステナブルブームが来るまでほとんど注目されなかったのです。

そしてリサイクルポリエステルもリサイクルウールも何回もリサイクルできるものではなく、1回しかできないのです。それ以上やるとさらに品質が劣化しますから、とても着用できるようなものにはなりません。

さらにリサイクル素材やエコ素材では認証偽装が発覚しているという問題もあります。例えば漁網のリサイクル素材では偽装が発覚しました。2021年10月のことです。

繊維商社の田村駒は7日、漁網のリサイクルナイロン生地「GNB」で、社内で調査した結果、国内で回収した漁網が使用されていなかったことが判明したと発表した。すでに同社を通じて取引先などに供給した「GNB」についても、紡績工場から漁網の原料使用への報告を受けられていないこともわかったという。

https://www.wwdjapan.com/articles/1273677

またエコ素材として注目を集めているオーガニックコットンも大規模な認証偽装が発覚しています。2020年10月のことです。

オーガニックコットンの有力生産国であるインドで10月下旬にオーガニックコットン認証の大規模な不正行為が発覚した。この影響で一時的にオーガニック綿花・綿糸の出荷が停滞し、価格が急騰している。

オーガニック繊維の国際的な認証組織「グローバル・オーガニック・テキスタイル・スタンダード(GOTS)」は10月30日、インドで偽造原綿取引証明書に基づいてオーガニックコットンとして売買されている綿花を確認したと発表した。不正行為に関与していたインド企業11社に対して認証の取り消しと今後2年間は認証申請を拒否する処分を発表している。

https://www.sen-i-news.co.jp/seninews/view/?article=361845

とまあ、こんな具合です。

衣料品の廃棄についても同様で、少し過剰にとらえられすぎている嫌いがあります。

環境省が20年のファッション産業の環境負荷についての調査結果を発表した。注目すべきは廃棄された全衣類のうち、企業など事業所から出たものは2.7%である点だ。

報告によると20年の「手放された衣類」は78.7万トン。このうち家庭からは75.1万トンと大半を占め、ごみとして廃棄(焼却・埋め立て)されたのは49.6万トン(構成比66%)を占めた。リユースが15万トン、リサイクルが10.4万トン。

一方、企業など事業者から手放された衣類は3.6万トン。廃棄が1.4万トンで廃棄量全体の2.7%ということになる。リユースは0.4万トン、リサイクルは1.9万トン。手放されたもののうち半分以上がリサイクルされている。

https://senken.co.jp/posts/disposal-of-clothing-210423

たしかに1.4万トンの廃棄はさらに減らす必要はありますが、欧米企業はどうだか知りませんが、世間が持っているイメージよりは国内企業は随分と少ないのが現実です。

日本国内のアパレル企業からの廃棄が少ない3つの理由

ではどうして国内アパレル企業の廃棄が少ないのかというと

1、 値下げして売り切るシステムが何段階にも業界内にすでに構築されているから
2、 捨てるにはお金がかかるから
3、 国内アパレル企業の営業利益率が低いから

という3つの理由が考えられます。

まず1についてですが、おなじみの夏と冬のバーゲンに加え、最近では動きの悪い商品は日常的に値下げされます。

また別会場を借りて安く売る「ファミリーセール」も最低でも年に2回は開催されます。そのほか、百貨店やショッピングモールでの催事販売、そしてアウトレット店があります。

最近ではネット通販も在庫処分の安売り場となっています。自社サイトは当然のことながら、Amazon、ZOZOTOWN、Yahoo!ショッピング、楽天市場などの大型モールでも季節外れの処分品が常に安売りされています。それでも売れ残った商品は、二束三文で在庫処分業者に引き取ってもらいます。

2と3は連動しています。

まず、捨てるには産廃業者にお金を払って引き取ってもらわねばなりません。量などにもよりますが、その金額は何百万円とか何千万円にもなります。

一方で国内アパレル企業の営業利益率は1%~5%くらいしかなく、ファーストリテイリングの10%前後が桁外れに大きいという現状があります。

営業利益率が低いということはそれだけ儲けにくいということになりますので、売れ残り品を気軽に産廃として廃棄できるほどお金に余裕がないということになります。それよりもブランド性の毀損さえ気にしなければ、在庫処分業者に売った方がまだ資金的には助かるのです。

地に足の着いた「商品計画」を組み立てることが効果的

では最も効果的な取り組みは何かというと、なるべく売れ残りは出さないように商品計画(マーチャンダイジング)を組み立てることです。単に何を仕入れる(または作るか)ということだけではなく、全体数量や販売期間、各店舗への配布数量を精緻に決めることが重要となります。

大手アパレル各社の社長は、メディア受け・SNS受けを狙っているのか、現場を知らない机上の空論家なのかわかりませんが、とんでもないサステナ施策を述べることが多いのですが、ベイクルーズの杉村茂CEOは比較的現実的な認識を持っておられるようです。

―製造拠点を国内にシフトするという考えは?

 国内の工場はどんどん減少してしまっていて、もはやキャパが不足しつつあるので、完全シフトはできないと思います。

―経営とサステナビリティの両立について。ベイクルーズではどのような方針を目指していきますか?

 優先順位が最も高いのはやはり在庫問題ですね。商品を楽しみに待ってくださっているお客さまがいますから、まずは余計なものを作らずに、できるだけ地球に負担をかけないものづくりを進めていきます。

―サステナブルな素材の使用も業界として前提となりつつあります。

 土に還るような再生可能素材も選択肢としてはもちろんありますし、実際に一部の商品で使っていますが、コスト度外視で全面的にサステナ素材に切り替えるのは難しいのが現実です。作った服を全部売る、材料を残さない。まずはそういうところから始めていきたいと思っています。

https://www.fashionsnap.com/article/baycrews-top-2022/

高い理想を掲げることを否定するわけではありませんし、環境問題の解決に異を唱えるわけでもありません。ただ、現状では何もかも一挙に短時間のうちに解決することは技術的にも経済的にも不可能です。

できるところから着実に解決していくことが必要だと思っています。繊維・アパレル業界のみならず、メディアや消費者も地に足の着いた取り組みを続けていくことこそが肝要です。