※この記事は2020年03月06日にBLOGOSで公開されたものです

“草なぎ呼ぶ宣言 江頭のYouTube”
このコラムを書いている2月27日、Yahoo!ニュースのトップに、こんな見出しが躍っています。つい先日も、宮迫博之さんのYouTubeに関するニュースがトップに。芸能人のYouTube進出は、日々、加速しています。その最前線で闘っている放送作家が、できるだけオブラートに包まずに舞台裏を綴ります。

はじめまして!放送作家の谷田彰吾です!みなさんは放送作家というと、どんな仕事を思い浮かべますか?テレビの裏方?ラジオのパーソナリティの横で笑ってる人?秋元康?どれも正解なんですが、よくわからない方も多いことでしょう。基本的には、テレビやラジオの企画を考えたり、台本を書いたりするお仕事です。

でも、僕はちょっと違っていて、Wednesdayという自分の会社で「デジタルメディアレーベル」というサービスを立ち上げ、芸能人のYouTubeでの活動をプロデュースする仕事もしています。

毎週のようにビッグネームの参入がニュースになり、もうブームと言うしかない芸能人のYouTube進出。もはや始めているのは芸人だけじゃなくて、ローラさん、水原希子さん、川口春奈さんといったモデルや女優にまで広がりました。この記事を読んでいる人は、きっと誰かの動画を見たことがあるのではないでしょうか。これはブームではなく、革命かもしれない…。少なくとも僕はそう思っています。

テレビという巨大メディアの衰退は、もはや隠しようがありません。地上波の広告費にインターネットの広告費が並び、今年にも逆転すると言われています。それと同時に大量の芸能人が自分の映像メディアを持ち始めた。これはメディアのパラダイムシフトと言っても過言ではないでしょう。現役のテレビの放送作家でもある僕としては複雑ですが…。

そもそも僕は4年前からYouTubeの仕事を始めました。30代の放送作家としては、けっこう早かったと思います。いわゆる「YouTuber」と呼ばれる人たちの企画を一緒に考えたり、企業やテレビ番組の公式チャンネルの構成を担当していました。

そんな中、去年『中田敦彦のYouTube大学』のスタートアップをお手伝いし、138日でチャンネル登録者数100万人突破という爆発的な成長を経験。「次は芸能人チャンネルの時代が来る」と確信し、YouTubeをはじめとする芸能人のデジタルメディアでの活動をプロデュースするレーベルを立ち上げたわけです。それが約3ヶ月前。現在は14の芸能人チャンネルのプロデュースに関わっています。

芸人のMr.都市伝説 関暁夫、講談師の神田松之丞あらため神田伯山、元メジャーリーガーの上原浩治、元NHKアナウンサーの登坂淳一、手相芸人の島田秀平、元体操のお兄さんの小林よしひさなど、ジャンルもタイプも多岐にわたります。

プロデュースというと、テレビのようにスタッフ主導でコンテンツを作っているように思われるかもしれませんが、YouTubeの場合はあくまで芸能人ご本人の意思とアイデアが発火点。

撮影、編集、サムネイルやタイトル作りも、ご本人と一緒になって行うケースが多いです。スタッフの数は、テレビのゴールデン帯の番組と比べたら10分の1以下程度でしょうか。少ない人数で作る分、大変なことも多いですが、芸能人とスタッフがひとつのチームとして動くので、やりがいも大きいです。

この3ヶ月なんとか頑張ってきて、関暁夫が100万再生を達成、チャンネル登録者数は25万人を超え、アメリカのGoogle社から記念に銀の盾が贈られてきました(10万人を超えると届く!)。登坂淳一もきわどいラップやかわいいアニソンの歌詞をイイ声で朗読する動画がバズり、Twitterのトレンド入りを果たすなど、一定の成果を出すことができました。

しかし、上には上がいるもので…みなさん御存知のあのチャンネルの出現です。そう、江頭2:50さんの「エガちゃんねる」です。これはもう大事件でした。なんと、開始からわずか9日間で100万人登録突破。YouTubeに携わる者はもちろんのこと、普段はそれほどYouTubeに関心のないテレビ関係者にも激震が走りました。僕としては、もう嫉妬するしかありません(笑)

今、芸能人YouTubeを語る上でこのチャンネルに触れないわけにはいかないので、今回はエガちゃんねるの素晴らしいところ、新しいところを、僕なりに考察してみたいと思います。

江頭2:50さんの圧倒的なネット好感度

芸能人がYouTubeで成功する上で大切なのが、ネットユーザーからの人気です。今でこそ芸能人の動画を見るのが定着してきましたが、去年までは強い拒否反応を示すユーザーは多くいました。YouTubeはもともとテレビのカウンターカルチャー的なポジションでもありましたから、テレビのスターに場を荒らされることを嫌う傾向があるわけです。

ちなみに、YouTubeに関する様々なデータを発信しているユーチューバーNEXT社の調査によれば、「芸能人のYouTube進出をどう思う?」という質問に対して、「大賛成」と答えた人は40.3%、「あまり気にしない」が48.1%、「大反対」が11.5%でした。テレビのスターたちのコンテンツが無料で手軽に見られるわけですから、もっと賛成が多くても不思議ではありませんが、ネットのユーザーはシビアです。芸能人なら誰でもいいわけじゃない、見たい人だけ見るスタンス。

これが、少ない選択肢から番組を選ばなければならないテレビと、無数の選択肢から自由に動画を選べるYouTubeの決定的な違いです。好きでもない芸能人を我慢して見る必要は全くないわけです。

だからネットユーザーからの人気が大事。YouTube業界では芸能人のポテンシャルを「認知度」と「人気度」という言葉で計ります。テレビによく出ている人は認知度が高いですが、認知されているからといって人気が高いわけではありません。

人気とは、ネットでその人が出ているコンテンツを見つけたらクリックする、有料イベントに参加する、グッズを買うなど、ユーザーから積極的に求められることを言います。認知度と人気度のバランスは芸能人ごとに大きく違いますが、たとえばジャニーズの嵐さんはどちらも高いですから最強(事実、史上最速の28時間で100万人登録突破)。江頭さんもそれに近いものがあると思います。

「1クールのレギュラーより1回の伝説」という名言に代表されるように、江頭さんは誰かに媚びたり、やりたくないことをやってまで仕事を取ろうとはしないキャラクター。テレビに出演していましたが、いわゆるテレビ的ではないことをする人でしたから、ネットでの好感度が圧倒的に高い。しかも、メディアではあんなに破天荒なのに、プライベートではいい人というギャップ。これが9日間で100万人突破という伝説のベースにあるのだと思います。

江頭2:50は『半沢直樹』!? 時代が作り出した応援したくなる男

江頭さんの爆速は、時代という追い風にも支えられていると思います。近年、テレビを取り巻く環境は激変しました。コンプライアンスの波、視聴者層の高齢化、予算の削減、などなど…。一言で言うと、テレビは“安全で情報性があってお金のかからない番組”を作る方向にシフトし、“笑いを最優先する王道のバラエティ番組”が消えていきました。

江頭さんが出ていたのは後者ですから大打撃です。『めちゃイケ』『ぷっすま』など、よく出演していた番組が終了し、仕事を失ってしまったわけです。

でも、江頭さんが悪事をはたらいたとか、急激につまらなくなったから仕事がなくなったわけではなく、あくまでテレビ局のビジネス上の都合で露出が減った。そんな、そこはかとなく漂う理不尽感が、江頭さんの人気につながっていると思います。

今の日本人は、巨大な組織や既得権益に立ち向かう弱者を強烈に好む傾向があります。いわばテレビドラマの『半沢直樹』です。視聴者は、誰かの顔色を伺うようなことをしない誠実なヒーローを求めている…といったら大げさかもしれませんが、誰もが長いものに巻かれざるをえなかったり、上司に意見できないストレスを抱えていたりする世の中で、人は一種の憧れを江頭2:50という男に抱いているのではないでしょうか。

また、コンプライアンスの波に押し出されてYouTubeにやってきたのに、YouTubeでは乳首NGというプチ不遇や、動画は100万回以上再生されているのに広告がつけられないから儲からないというオチも、江頭さんを応援したくなる要素になっています。僕はスタッフさんに会って直接聞きましたが、本当に収益は思うようにはあがっていないそうです。でもそれが武器なんです。

100万人突破したら草なぎ剛とコラボする宣言の巧妙さ

エガちゃんねるはテクニカルな面でも優れています。まず、100万人を突破したら親友の草なぎ剛さんと共演するという公約を掲げたこと。100万人という数字は、「俺は本気でYouTubeやるんだぞ」という気合いの表明ですから、ユーザーに届きます。

ちなみに、カジサックさんも「2019年内に100万人突破できなければ芸人引退」という公約を掲げましたが、あくまで芸人引退という自分事の公約でした。一方、江頭さんはユーザーに目標値を提示した上でごほうびを用意し、登録を促す還元型の公約なので、より親近感がわきます。

しかも、そのごほうびが草なぎ剛。SMAPや新しい地図のファンまで取り込めます。草なぎファンはきっとツイートしますから、拡散も早い。ユーザーの行動までデザインされた巧妙な作戦です。エガちゃんねるは、ただ破天荒な動画をやっているのではなく、マーケティング的な観点からも素晴らしいのです。

常識破りのスタッフの存在と編集

江頭さんは動画で、「スタッフを食わせたい」と言っていました。この何気ない一言も、ちょっと驚きです。通常、YouTubeには、スタッフ感がない方が伸びやすいという常識があります。

個人メディアなので、よりプライベートでプロっぽく作りこまれていない方が好まれるわけです。しかし、エガちゃんねるの動画は基本スタッフとのやりとりで進行します。また、編集もテレビ的な作りになっているので、YouTubeユーザーに媚びていません。

僕がスタッフに聞いた話では、「いろんな人にこれじゃウケないよと言われたけど、まずはおもしろいと思うものを出そうと思った」と仰っていました。そこに僕が感じたのは、とにかくおもしろい江頭さんを届けたいという、愛と信頼関係です。それが動画の中に垣間見えれば、編集がどうこうは関係ないのです。

カジサックさんもスタッフがたびたび登場しているので、ユーザーから愛されるチーム作りが芸能人YouTubeのキーワードになるかもしれません。僕らも見習わなければならないところです、はい。

というわけで、今回は芸能人YouTubeのど真ん中にいる放送作家が嫉妬するエガちゃんねるについて考察してみました。また続々と新たなビッグネームが名乗りをあげることでしょう。市場全体が盛り上がるのは素晴らしいことなので、みなさんもぜひお気に入りのチャンネルを見つけて楽しんでください。


谷田彰吾
放送作家/TVクリエイターギルドVVQ代表/Wednesday取締役
ドキュメンタリー番組『プロ野球戦⼒外通告』『バース・デイ』『情熱⼤陸』、有吉弘⾏、乃⽊坂46、池上彰などのバラエティ番組を構成。過去に『中田敦彦のYouTube大学』アドバイザー。放送作家だけでなく広告プランナーとしてもAmazon、Nikonなどを手掛ける。Wednesdayで芸能人YouTube制作レーベル「DML」を運営。TVクリエイターギルド「VVQ」代表を兼任。
https://vvq.tokyo
・https://webnesday.net
・https://note.com/showgo_wednesday