「最高裁は法学部の学生よりもレベルが低い」戒告処分の“ブリーフ裁判官”岡口基一氏が最高裁判所を批判 - BLOGOS編集部

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※この記事は2019年06月21日にBLOGOSで公開されたものです

SNSにブリーフ姿の画像などを投稿したことから、“ブリーフ裁判官”としても知られている裁判官の岡口基一氏。Twitter上での投稿を問題視され、分限裁判(※)を経て戒告の懲戒処分を受けたことが大きく取り沙汰されているが、この裁判の手続きについては、弁護士や判事からも多くの問題点が指摘されている。

岡口氏も一連の出来事についてまとめた『最高裁に告ぐ』(岩波書店)を著しており、この本の中では自身の分限裁判にとどまらず、近年の最高裁判所に見られる衰退を厳しく指摘している。司法の最高機関で今、一体何が起こっているのか。仙台地裁に異動したばかりの岡口氏に聞いた。【取材:島村優】

※裁判官に懲戒事由に当たる行為があった場合に、その裁判官の所属する裁判所が上級裁判所に申し立てすることで始まる。懲戒事由とは、①職務上の義務に違反すること、②職務を怠ること、③品位を辱める行状があったことのどれかになる。

情報発信をやめさせたがる裁判所当局

ーSNSで積極的に情報発信を行っている岡口さんですが、インターネットとの関わりはいつ頃から始まるんでしょうか。

1999年頃に、ブログもまだ登場していない時代なので「ホームページビルダー」といったソフトを使って、自分のページを立ち上げたのが最初です。周りの同業者にも、世間的にも、そういった情報発信をしている人がそれほど多くなかった時代でした。

最初は司法修習生向けの勉強会の答案をダウンロードできるようなページで、次第に法曹関係の情報も掲載するようになっていったんですけど、現場の人間には喜んでもらえている実感があって。朝出勤したら、官報と私のサイトを見る、という法曹関係者もいたようです。

ーその頃、裁判所当局からは何か反応がありましたか?

当局は何も言わないですけど、あまり喜んでいなかったようです。当時はインターネットが始まってから時間も経っていないし、何か得体の知れないものというイメージだったんですかね。

少しずつ「ホームページは良くないですよ」とか「やらない方がいいんじゃないですか」といった話をされることが増えたように思います。表現の自由があるので、もちろん「止めろ」とは言いませんが、「若いから許されるのかもしれないよ」といった感じで。

ーそういった上司からの忠告を受け入れないことで、自身のキャリアに影響すると心配になりませんでしたか?

当時、ホームページを運営している人が私以外にもいましたが、発信者がわかると閉鎖させられるというケースが続きました。やめてしまった人は、将来的に良くないんじゃないかと考えたのかもしれないですね。

ただ、私の運営していたサイトは緻密に作り込まれていたので、閉鎖するのはもったいないかなって。その時は結構楽観的で、悪いことをしているわけではないので、自分の経歴に影響が出るといったことは考えませんでした。

ーその後、2008年に殺人予告が書き込まれるという事件が発生し、ホームページは閉鎖されます。この時期にTwitterを始めていますが、どのようなことを発信していましたか?

Twitterは140字しか書けないので、お遊び的なイメージです。当時はブログが全盛期で、しっかりと書きたい人はブログをやっていて、Twitterではどうでもいいことをつぶやいたり、知り合いと連絡を取り合ったりといった具合です。私のツイートの内容としては、こんな法律書が出た、今度の法律はこういう点が問題になる、といったことがメインでした。おふざけでブリーフ姿をアップしたことはありました。

裁判所から厳重注意「おちゃらけてる」

ーTwitterの利用について注意されることもあったようで、後に1本の記事をTwitterでシェアしたことで分限裁判にまで至ることになります。

基本的に、裁判官はTwitterなんてやらない方が良い、って偉い人たちは考えているでしょうね。最初は私が水戸地裁にいた頃の話なんですけど、2014年に20年目の官記(※)を受け取って、「これからもエロエロツイートとか頑張るね」とつぶやいたことがありました。ただ、私は自分の職業がわかることは明かさない、というポリシーを持っていたので、ツイート自体はすぐに削除したんです。

すると、少し経ってから裁判所長に呼ばれて「これはなんですか?」と注意を受けたんです。過去のツイートを転載する「ツイログ」というサービスをプリントアウトした紙を見せながら。私としては「これはすぐに消したものなんです」と説明しました。

※10年ごとに再任される裁判官の任命書

-その後にTwitterの利用について何か言われたことはありましたか?

それから2年後に、東京高裁の戸倉長官(現・最高裁判事)に呼ばれて、ツイログで発掘されたツイートのほか、2件の投稿(※)を対象として厳重注意を言い渡されました。長官室に呼ばれて、いきなり口頭で厳重注意です。ツイートを一つずつ全部読み上げられて、私はそれを立って聞いていました(笑)。あとは「おちゃらけてるのが問題だ」とも言われましたね。

※「一つは、日本テレビの『24時間テレビ』の生放送で男性出演者の股間が隆起しているのを他の出演者が笑いながら指摘していたことをつぶやいたものであり、もう一つは、私が行きつけの飲み屋で、面白半分で上半身裸になり胸の回りを二周縛ってもらった画像を載せたもの」岡口基一『最高裁に告ぐ』岩波書店 p.12

ーブリーフ姿は何も言われなかったんですか?

不思議なことに、ブリーフ姿は何も言われないんですよね。本当は、そっちを止めさせたかったのかな、とは思いますけど。もしかすると、裁判所に批判の電話が来て、その対応に苦慮してたのかもしれないですね。

ー裁判所当局はどうして情報発信をさせたくないと考えるのでしょうか。

一つにはやはりリスク管理なんでしょうね。一応、裁判所でもSNS利用の指針を作っているんですけど、すごく一般的な話しか書いてなくて。だから、そもそもやらない方がいいんじゃないか、っていうリスク管理ですよね。

もう一つは、裁判官は雲の上にいないといけない、というイメージの管理です。昔から裁判官は世間と関わるな、と言われていますが、世間と関わるとその人たちに有利な判決を下してしまう可能性があるという建前論なんですけど。裁判官の転勤制度が始まったのも同じ理由です。

Twitterをやめろという「表現の自由」の侵害

ーそして2018年5月に、犬の所有権をめぐる裁判についてTwitterでシェア(※)したことで事態は急展開を見せます。犬の元の飼い主から東京高裁に抗議があり、その数日後に岡口さんは長官室に呼ばれ、厳しく非難されることになります。この時は、どのような感想を持ちましたか?

あの時は、ツイートを本文だけプリントしたものを見せられて厳しく非難されましたが、すぐにはどのツイートの話をされているのかわからなかったですね。1日に20回以上つぶやく時もありますし、これってなんの話だったかな、とずっと考えていました。

※「このツイートで紹介されているのは、(中略)ペット情報関連のウェブサイト「sippo」の記事で、(中略)その裁判とは、公園に放置されていた犬を拾って育てていた者に対し、放置から約三ヶ月後に元の飼主が名乗り出て犬の返還を求めたが、返還を拒否されたため訴訟を提起したというものである」岡口基一『最高裁に告ぐ』岩波書店

ーこの時、林東京高裁長官からは「実際の事件の判決の内容を確認することなくツイートしたこと」について、批判されたとそうですね。

正直、この人は何を言っているんだろうと思いました。当事者の名前も事件番号もわからない過去の判決なので、私が読むことはできませんから。長官は判決を読んでいたので「ちゃんと読めばこういうツイートはできないんじゃないか」ということが言いたかったのかもしれませんが、私は読めないのでそんなことを言われても、とは思いました。

ー林長官からは「Twitterをいますぐやめなさい」と言われたとのことですが、その時は何を考えましたか?

驚きましたね。それまでの当局者は絶対に言わなかったことですが、こんな表現の自由を侵害するようなことは絶対に言ってはいけないんですね。初めての体験でしたが、心の中では「これは長官アウトだな」と思っていました。でも林長官はそういう高圧的なところがあるんです。でも、後から考えたら「あらゆる元凶はTwitterだから、止めさせよう」と最初から決めていたんじゃないですかね。

ー直属の上司からそう言われても、Twitterをやめなかった理由は何だったのでしょうか。

これはどう考えても、長官がアウトなんです。このゲームのルールでは向こう側が失点を重ねているわけで、展開を見ようと思ってそこで自分が引く必要はなかったですね。だから、その後に分限裁判まであるとは思わなかったですね。むしろ長官が「表現の自由」の侵害で完全にアウトなので、私がそこで譲歩する必要はないと思っていて。

法学部の学生だとしてもアウトな最高裁の振る舞い

ー実際に分限裁判が始まってからは、手続き的に問題があったと本でも繰り返し書いています。

分限裁判の申し立てをする際には、①対象行為は何か、②3つの懲戒事由のうちどれに該当するか、③該当する理由は何か、ということを明らかにしなければいけません。しかし、高裁側は漠然とした申立書を出すという手を打ってきました。これはまったくセオリーから外れていることなんです。だから、この時は私の方が勝ったと思いましたね。

申立書が家に送られてきた時は、私は夏休み中だったんですけど、中身は「犬の飼い主を傷つけたものである」って書いてあって、これじゃあダメでしょう、と。この申立書は最高裁に訂正を求められるだろうと思っていました。

ーただ、実際にはそのまま分限裁判が進められることになります。意図的に争点を隠したまま裁判が進められたことに、ショックを受けたと書いています。

ゲームにはルールというものがあります。そのルールが無視されていくので、これは負けるかもしれないな、と思いました。サッカーの試合で、ルール通りやれば勝てるはずの試合なのに、相手がどんどんルール違反をするような感じですよね。そのルールを決めるのは最高裁なので、相手方のチームと審判が結託しているようなものです。

これは法学部の試験だったら不合格になるくらい、とんでもないことなんです。手続きが不十分なだけでも問題なのに、こちらが裁判で防御できないように画策して、意図的に隠している。こんなことは普通ありえないんです。

-結果的に、最高裁は岡口さんに「品位を辱める行状」(※)があったとして、戒告処分とする決定をしました。

※職務上の行為であると、純然たる私的行為であるとを問わず、およそ裁判官に対する国民の信頼を損ね、又は裁判の公正を疑わせるような言動のこと。

最高裁決定は理解できないですね。その内容というのは、要するに私が熟慮した痕跡を見せずに自分で考えた結論だけ書いてしまったので、そういうツイートを裁判官がすると、国民は「裁判官はよく考えずに結論を出すんじゃないか」と思ってしまう、と。まったく意味がわからないですよ。私は個人情報が隠されたネット記事を紹介しただけであって、なにか結論を述べたわけでもありません。すでに3人の憲法学者が法律雑誌において今回の決定を厳しく批判しています。

滅茶苦茶な判決を出す最高裁

ーこの件で周囲との関係は変わりましたか?

現場では何もありませんね。どちらかというと同情的に感じてくれていたように思います。

ー現場の裁判官からすると、「最高裁」とはどのような存在なのでしょうか。

司法行政としての最高裁は、自分たちの上司なのですごく気にしています。一方で、裁判体の最高裁は、特殊な世界でよくわからない。15人いる判事のうち、裁判官出身は6人だけ。残りの9人は法学者や弁護士、検事など外から来ているのでよく知らない人たちなんです。

ー『最高裁に告ぐ』の中では、最高裁判事が「王様化」していると指摘しています。最高裁は最終審なので下級裁が守っているルールを無視すれば、好き勝手に振る舞うことができてしまう、と。

現場の弁護士から話を聞くと、最高裁で敗訴してしまった経験から「最近の最高裁はきちんと理由を書かないことが多くなっている」っていう話になっていて。私も最近の最高裁の判決を見ていると、ひどいなと思うことが多いですね。NHKのワンセグの例(※)でも、ちゃんとした理由を述べずにNHKを勝訴にしちゃうんだ、と驚きました。

※ワンセグが受信できる携帯電話を持っていたら、NHKと受信契約を結ぶ義務があるかどうかが争われた裁判。最高裁は上告審で「契約の義務がある」としてNHKを勝訴とした判決が確定した。

あれは「三行半決定(※)」なんです。このワンセグ裁判では4件の訴訟があったんですけど、その4件とも三行半で「上告には理由がないことが明らかである」などとしか書いてない。

※最高裁の判決文が短く、どの事件でも同じ定型文が使われるため、俗にこのように呼ばれる。

ーそうだったんですね。

もうそれで誰も文句を言わないでしょう。結論自体はけしからんって言う人はいても、理由を書かないことに対して、マスコミも学者も文句を言わない。どうして誰も文句を言わないのかな、と不思議に思っています。

ー多くの国民がもっと司法に関心を持つべきなのかもしれませんね。

それは是非お願いしたいですね。かなりハードルが高いことだとは思うんですけど、まず裁判に関心を持ってもらって、ワンセグの時みたいな決定が出た時に、しっかりと批判してほしい。「理由を書かないのは、職責を果たしていないんじゃないか」と言わないといけないんです。ちゃんと理由を書くようになったら、今度は理由まで読む。それを全員がやるかと言ったら難しいとは思うんですけど、できれば判決文の中身を理解するくらいには司法に興味を持ってほしいなと思いますね。

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