学ぶべきはやはり英語?30代からの外国語「再学習」をどうビジネスの武器にするか - BLOGOS編集部
※この記事は2019年06月18日にBLOGOSで公開されたものです
社会人の4割以上が就職後も大学などで学び直したい、と答えた調査もあるなど、大人の学び直しに注目が集まっている。大学に入り直すほどの時間的な余裕やモチベーションがなくても、手軽に手をつけられ、その後のキャリアに活かすこともできる外国語は人気がある。
これから改めて外国語を学ぶ際には、どのような言語を、どのような勉強を中心に学び、それをどうビジネスに活かすことができるのか、あるいはできないのか、語学とキャリアのプロフェッショナルを取材し、外国語学習のリアルな実情を探った。【取材:島村優】
外国語ニーズと求める能力の変化
「真の国際人を育てる」ことを理念として掲げ、実践的な語学力を持った人材を多く輩出してきた株式会社ECC。同社は個人のコースとして、英語以外にもスペイン語やフランス語などのヨーロッパ系言語、そして中国語、韓国語コースを設置している。また、法人向け講座としては受講する企業のニーズに合わせて、世界中の言語の講義を行っている。
個人の外国語学習で多いのは、出張や単身赴任の準備のために会社からの指示で受講をするというビジネス目的のケース。その一方でいつか必要な時が来るかもしれない、という自身のスキル磨きや備えとして外国語を学習する生徒や、自分の趣味として学ぶ生徒もいるという。
ECC外語学院・梅田エリア エリア長の斎藤雅子氏によると、学ぶ対象となる言語は「やっぱり英語が一番多い」としながらも、近年、中国語やスペイン語のニーズも大きくなっていると話す。
中国はイメージが湧きやすいと思いますが、南米はスペイン語圏に工場を持っていることが多いですね。ほかに法人事業部には、ベトナム語、タイ語、インドネシア語、あるいはポルトガル語などの言語についての問い合わせも多く、これらの言葉は人気があります。昔だったら、出張や転勤といえば欧米に行っていたのが、最近は東南アジアや南米に行くという会社が増えているようですね。
一方、実用的な外国語として変わらぬ地位を保つ英語でも、「相手に自分の考えをどう伝えるか、という対話力・コミュニケーション力を身につけたい」といった声が目立つようになっているという。
私たちが受けてきたのは受験のための英語の勉強が多かった。文法のための問題で、分詞や構文など覚えることが中心。センター試験の勉強と同じ要領で攻略法があって点数は取れてしまうので、TOEICハイスコアの方が多いんです。ただ、喋れるか、自己紹介できるか、っていったら思うようにできない。
だから、単に『英語力』というだけでなく『コミュニケーション力』を磨きたいという方は多いです。英会話スクールに通うことで、仕事において必要になる対話の力も磨いていただくのが良いのかなと思います。
英語を話す際には、日本人の性格的に「間違えるのが恥ずかしい」と考える生徒も多いという。外国人は母国語でなくても自信を持って英語を話すように見えるが、日本人はつい頭で考えすぎてしまうきらいがある。ただ、こうした壁は、普段から話すことで英語に慣れ、正しい英語を話すことよりもコミュニケーションを取るという姿勢を持つことでクリアできると斎藤氏は語っていた。
重要なのはやはり英語、スタートは早い方が良い
同社のスクールに通う年代層は幅広く、ビジネス層でも40~50代になってから英語を始めるという生徒もいるとのことだ。半数以上は業務上の必要に駆られて学習をスタートするということだが、「外国語の学び直し」という観点からすると勉強を始めるのに適したタイミングというのはいつになるのだろうか。
私たちが伝えているのは、早ければ早い方がいいですよ、ということです。学校の勉強で、一夜漬けでテストに備えた経験は多くの方にあると思いますが、外国語はそれができない教科。単語を覚えるだけなら、一夜漬けもできるけど、明日から出張になったからコミュニケーション力を磨きたい、というのは難しいですよね。
コミュニケーション力っていうのは、細く長くやることで磨かれるものだと思います。いつ出張や海外転勤になるかわからない、あるいは日本にいても、部署が変わることで、英語のオンライン会議が行われたり、部下が外国人になったりということもあります。そういう意味で、スタート早めに越したことはないと思いますし、実際に「勉強をやっておいて良かった」という人は多くいます。
受講者の働く環境やバックボーンによっても異なることを踏まえつつ「今、学ぶべき外国語」について斎藤氏に聞くと、次のような答えが返ってきた。
どの言語から学べば良いのか、と聞かれたら、私は『英語を完璧に話せるようにしてください』と伝えています。なぜなら、諸外国の人たちはある程度ツールとして英語を使いこなしているのに対して、日本人は知識があるのに話せないというケースが多い。英語になった途端に控えめになるなど、仕事においてもコンプレックスになることがあるのではないでしょうか。
まずは英語を母国語に近いレベルまで上げていきましょう、と。それができれば、次に今熱い中国語とスペイン語を学ぶのも良いですね。その人に合った勉強の進め方があるので、まずは何を始めようと思ったら相談してもらえればと思います。
中国語で広がるビジネスネットワーク
多くの言語を扱う外国語スクールでは、依然として「英語優位」の状況に大きな変化はないということがわかったが、中国語の専門学院に目を向けるとまた違った光景も見えてくる。
日中国交回復から遡ること約20年、1951年に創立された日中学院は、これまでに数万人ともいわれる生徒が中国語を学んだ民間の中国語教育機関だ。同院では、専門士の称号が取得できる本科のほかに、社会人、大学生、主婦層など様々な受講生を対象とした別科を設けている。
2000年代以降は、国際政治・経済の領域で中国の存在感が大きくなった時代だったが、受講生の層や学習目的にも変化が見られるという。同院で社会人講座を担当する胡興智氏は「かつては歴史好き、文化好きの方が多かったのに対して、近年は出張や赴任の準備のために学ぶ人が増えている傾向があります」と語る。
ビジネスマンやOLなど現役で働く層が多く通う別科には、入門・基礎中国語をはじめ、会話・聴解・作文・翻訳通訳・HSK試験対策など80余りの講座があるが、ビジネス層が獲得したいと考えている言語力の中身が変わりつつあるようだ。
表面的なやりとりに留まらず、実践的な交渉のスキルを求める方、より実用的なコミュニケーション術を求める方が増えているように思います。例えば、日本側の態度や応対、日本語の表現が相手にどのように受け止められるか、といった理解を深める演習なども求められているようです。
近年は中国側の取引相手が日本語に堪能だったり、お互いに英語でコミュニケーションが取れたりすることもあり、ビジネスの現場で中国語を使わないケースもあると耳にする。胡氏に、改めてこの時代に中国語を学ぶ意義を質問してみた。
多くの場合、まず英語を学ぶ人が多いのは中国も同様です。しかし、英語でコミュニケーションするだけではなく、一歩踏み込むためにお互いの言語を使用してみることも大いに意味があるのではないでしょうか。日本と中国には漢字という共通する文字があり『千里の道も一歩から(千里之行始于足下)』『塞翁が馬(塞翁失馬)』といった共通の表現、共通する語彙が膨大にあります。それらを一言添えるだけで、互いの距離が一気に縮まることもあります。
今、中国語を学ぶ意義については、次のように話していた。
日本と中国は、近い隣国でもあり経済強国であるため、これからは、日中両国が良きパートナーとしても、よき競争相手としても、「知己知彼(己を知り、相手を知る)」は大変重要です。異なる価値観、違うやり方を学び、お互いに寛容になり、一緒にウインウインの世界を作っていっていきたいと思っています。
英語力があれば採用側の見方がポジティブになる
では、学び直しの外国語をキャリアアップの観点から考えると、どのような捉え方ができるのだろうか。外国語スクールでは目下の仕事や、今後の自分の仕事をきっかけに勉強をスタートする人が多いということだったが、自主的な外国語学習をすることが転職で有利に働くことはあるのだろうか。
日本最大級の転職サービス「doda」の編集長・大浦征也氏によると、近年、採用条件に外国語の項目を設けている会社は増えているという。
その理由としては、求人全体が増えていること、ビジネス環境がグローバル化することで外国語が求められる案件が増えていること、そしてスクリーニングの機能として語学力を最低条件とするケースがあること、の3つの理由が考えられると同氏。
条件となる言語は「圧倒的に英語が多い」といい、別の言語を条件とする会社のボリュームは昔から変わっていないそうだ。具体的には英語力を持っていることでどのようなメリットがあるのだろうか。
英語ができても転職では役に立たない、という考え方もありますが、僕はそれには否定的で、英語ができれば選択肢は広がるし、企業の見方がポジティブになると思います。ただ、あくまでコミュニケーション手段なので、英語力で技術がない人の評価がひっくり返るようなことは起きないともいえます。
大浦氏は、英語の力があるから良い転職先が見つかる、といった過度な期待はすべきではないと話す。その上で、「英語の学び直し」については、英語の力そのものよりも、むしろ英語を学ぶ過程で得たものやそのメンタリティがポジティブな作用を生む、と持論を展開する。
英語を学ぶということは、これはランニングでもピアノでもいいんですが、ビジネスパーソンとしての自分を律しながら、何か本業と関係のないところで自己管理ができるということを意味します。もしかすると英語力そのものよりも、この能力自体の方に価値があるかもしれません。
ビジネスに直接的に役立つということではなくても、空いた時間を使って自分を律しながら自己研鑽する、このPDCAの方に価値がある。40歳ぐらいから学び直して英語が話せるようになる人は、英語で就職できるというよりは、そのメンタリティや情報収集感度、スタンスが良い転職先を開かせるような気がします。
英語の勉強を始める人は多いが、多くの人は当初の目標を達成せず断念するケースが多い。だからこそ、勉強をやり切ることには意義があり、視界が広がることで様々なチャンスになるのだろう。
「能力より経験」といった具体的なスキルとしての外国語については、近年考え方が変化している面もあるという。大浦氏は「キャリアの時代」から「スキルの時代へ」という概念を用い、次のように説明してくれた。
僕は、キャリアの時代と呼んでいますが、昔はその人の学歴や社歴、職務経歴書だけでマッチングしていた時代があった。ただ最近は“どこの大学を出て、どこの会社に入って、何職”をやっていた、という話ではなく、どんな具体的技術を持っているか、どんな実績を出してきたか、といったスキルの時代になっている。 そして、スキルが「○○経験」「○○の実績」というものだとすると、これもスキルとスキルをいかに掛け合わせるか、という時代になってきている。自分の経験や強みで掛け合わせを考える時に、英語があると選択肢が広がるのは事実です。例えば、これまで英語が必要とされていなかった領域に英語を持ち込めれば武器になりますよね。
大浦氏は、外国語をはじめ、仕事以外での学びをキャリアアップにつなげる、という考え方については「あまり考えない方が良い」としつつ、それよりも「タテ社会にいる人間関係以外を、ヨコにどうデザインするのか、ということが重要だ」という。
だからキャリアアップのために準備をするとしたら、タテ社会から出ること。それだけで価値があります。そのコミュニティは外国語でもいいし、全く別のことでもいい。その一つが英語なのであれば、それはスクールに通えば良いと思います。そこで培ったものは、誰かと繋がるための入場切符のようなものとして考えた方が良いのではないのでしょうか。