老後に2000万円貯金を、経済回すために個人消費を、言ってることがバラバラの安倍政権 - 毒蝮三太夫
※この記事は2019年06月18日にBLOGOSで公開されたものです
老後2千万円問題、尾を引いてるね。今年の流行語大賞になりそうだな。要するに金融庁の審議会が発表した「高齢社会における資産形成・管理」の報告書によると、これから高齢者夫婦が年金だけで暮らすのに月に約5万5千円足りてない、20年暮らすなら1300万円、30年暮らすなら2千万円の貯蓄が必要って話。
つまり、<もはや年金だけでは普通の暮らしはできません。まとまった貯蓄が無い人は普通の暮らしは諦めてください。病気になったら途方に暮れてください。宝くじでも当ててください。年金というシステムはすでに修復不能ですからお察しください。とにかくあとは各自で何とかしてください。>・・・という報告だったんだ。
この報告書に対する批判の大きさに政府も面食らって、安倍さんすかさず対応してたよ。安倍さんいわく、この報告書は「不正確で誤解を与えるものだった」って国会で答弁したよ。ええと・・・、安倍さんがそう言うってことは本心を通訳すると「不正確で誤解を与える」→「正確で信用できる」って話だろ? 安倍さんの発言は逆に読めばいいんだよね?
金融庁の職員がかわいそうに思えてきた
この問題、政府側の主役は麻生さんだな。そもそも麻生さんってこの報告書をまとめるよう発注した側なんだろ? 報告書が出た直後に麻生さんは「100歳まで生きる前提で自分なりにいろんなことを考えていかないとダメだ」って報告書の内容を後押しする発言をしてたよ。ところが批判が高まってツッコまれると、その報告書は「まだ読んでない」って話になって、さらに批判が高まると「受け取らない」って逆ギレしちゃった。
さらに自民党の森山国対委員長は記者に問われて「この報告書はもうないわけですから。なくなっているわけですから。」だって。報告書そのものがあった事実を消すイリュージョンを見せたよ。
これ見てて、なんだか金融庁がかわいそうに思えてきたよ。急にボロボロに言われちゃってさ。そもそも年金に関する仕事は厚労省にしても金融庁にしても、基本的に時の政府の方針に従って動いているわけだろ。わざわざ政府の足を引っ張って怒らせるために日々の仕事をしてるわけじゃないだろ。むしろ、時の政府に対して少しでもいい顔したいわけでさ、安倍さんや麻生さんに喜んでもらおうと頑張ってたわけだろ。
だからこの「2千万円」だって、ホントは「3千万円」とかそれ以上だったのを、役人があれこれ数字やデータをいじって、押さえに押さえて、値切りに値切って、ようやく「2千万円」にしたんじゃないの? 昨今、霞ヶ関では文書書き換えやデータ改ざんは政府に対するおもてなしみたいになってるし。そうして懸命に安倍内閣に忖度したのに、その結果、安倍さんを怒らせちゃったわけでね。選挙が近いのに余計なことしやがって、と。
金融庁は気の毒だな。誉めてもらおうと頑張ったのに上司に怒られるって、部下が一番やる気なくすパターンだな。それに、しばらくしたら金融庁の何人かは人事で左遷させられたりするんだろ。胸が痛むな。
「2000万円」は心が折れる絶妙な金額
あと、この2千万円っていう金額がこれだけ波紋を呼んでるのは、数字が絶妙だってことあるよな。貯蓄2千万円必要って言われたら、ちょっとだけ考えるだろ。そんなに貯められるもんかな?って。でさ、「もしも毎月10万円ずつ貯金したら16~17年かかるのか・・・こりゃ無理だ・・・そもそも毎月10万円貯金なんて出来ないもの」なんてね。「ならば毎月5万円の貯金ならどうだろう? うーん2千万まで33~34年かかるのか・・・どうにもならない話だな」ってなる。
これが5千万円とか1億円とかって話だと、数字の大きさからすぐに思考がストップするじゃない。これは自分は関係ない、もはや他人事だって。だけど2千万円って数字はちょっと考えさせる分、ガッカリの感情がリアルなんだ。2千万円って心が折れる額なんだよな。
そもそも年金の積み立ては20歳からコツコツするわけだろ。ずっと平成不況を引きずって、多くの若い世代が給料も賃金も上がらないままだよ。その中からでも、自分の老後の為にと年金を払ってる。その時点でゼエゼエ言ってるよ。それに加えてさらに自分で2千万円貯蓄しろって、貯蓄が鬼畜に思えてくるよ・・・。
消費を促しながら貯蓄を求める安倍政権
それにこのまま行くと消費税が10月に10%に上がる。国民健康保険も多くの自治体で軒並み高くなってるんだろ。しかも貰える年金はどんどん減っていく。安倍さんはアベノミクスの成果で日本経済は上向きの一点張り。もう少し待てば効果が出るからもっと経済を回すために個人で消費をしましょうとか言ってる。だけど老後2千万円必要ってワケわかんない。使ったらいいのか貯めたらいいのかバラバラだもん。
しかもさ、この貯蓄2千万円って話、基本的には生活費の赤字の補てんなんだろ。他に何か楽しもうと思ったら別にお金が必要ってことだ。これは大変だよ。生きるってことはさ、単に寝て食べてだけの繰り返しだけじゃないもの。衣食住がきちんとあって、外に出かける元気があって、そこに趣味やおしゃれやグルメや旅行や観劇なんかがあって、それらが合わさって生きがいなんだ。
「地獄の沙汰も金次第」って言葉があるけど、今はシャバのほうがキツイな。「長生きするのも金次第」、さらにイキイキ幸せに長生きしようとしたら、「金次第」じゃ済まないよ「大金次第」って話だよ
「長生きはいいことない」と嘆く高齢者たち
俺ね、ラジオの現場で色んなお年寄りによく訊くんだ、「長生きっていいことあるかい?」、するとね「いいことない」って答える人が最近増えてきてる。長生きはしたくないって。もちろん「いいことある」って答える人もいるよ。こないだ、95歳の女性が言ってたな「長生きはいいわよ、いろんなことができて」って。そうだな10人に訊いたら7人ぐらいは「いいことない」って答えてるな。
医療が発達したり、食生活が良くなったりで、現代社会は平均寿命が延びていったわけだけど、それが本当に喜ばしいことだったのか、本来あるべき自然や生き物の摂理に反していたんじゃないか、改めて問われてるよね。
人命は確かに尊いけれども、それは健康で幸福な状態であってこそ。だからね、今のお年寄りがするべきことは少しでも健康で元気な体を維持すること。保険医療費を使わないようにすることだよ。病院通いや介護ざんまいにならないようにすることだよ。これが積み重なると莫大な節約になるんだから。
最近、江戸川区に行ったんだけど、聞いたらね、江戸川区は元気なお年寄りが多くて、23区の中では保険料を使う額が少ないんだって。シンプルだけど元気な年寄りを増やすことが一番身近に出来る高齢化対策なんだ。「現金より元気」だな(笑)。
俺は今83歳だけど、おかげさまで現役で仕事してる。ラジオだテレビだ講演だって声がかかって働いてる。だから年金と貯蓄だけに頼ってるわけじゃないし税金も納めてる。俺は自分で自分のことをラッキーだと思ってるよ。こんな年になるまで仕事があって、日々暮らせるんだからさ。
だけどこれ、裏を返せばラッキーでないと老後をまともに生きられないってことにもなる。やっぱ変だよ。ラッキーとかアンラッキーとかに関係なく、老後に標準的な暮らしを保障するのが年金の理念なんだから。
俺はさ、元気な年寄りを作ろう、ジジイババアを健康にしていこうって、これからも言い続けるよ。その旗頭になってさ、働けるうちは無理せず健康を保ちながら働いていくよ。
本当に大変なのは中年や若い世代
今の高齢者も大変だろうけど、もっと大変なのはこれから高齢者になる中年世代や若い世代だな。年金も減らされ、大金を貯蓄できるような景気にもならない。じゃあどうするか。投資、投機、ギャンブルで一発狙うか。だけど、そういう刹那な方法で大金を手に出来るのはごくごくほんの一握り。しかもそういう金は元々、そこで負けた連中の金を吸い上げたものだからね。周りを蹴落として自分だけ助かるって心地のいい話じゃないわな。
そこで思うのはさ、若い世代はますます「金」から距離を置くライフスタイルに移行していくんじゃないかってこと。平成の低迷時代に生まれ育った若い人はさ、持ち家持たない、車持たない、テレビ持たない等々、すでに色んなものを持たない傾向だよ。スマホだけ持ってずーっとスマホばっかり見てる。金かかるのは携帯料金ばかりなり、ってな。
金を貯めない世代はどうしたらいいか、生きる力を貯めていくしかないんじゃないか。要は、金のかからない暮らしだな、そこに新しい価値観を見つけることだよ。
金で買えない人間力で生き抜け
そうそう俺ね、横井庄一さんに会ったことあるんだ。「恥ずかしながら帰って参りました」って、終戦を知らないままグアム島に28年間サバイバルしながら潜伏してた元日本兵だ。凄い人だよ。
あの方は徴兵されるまで愛知で洋品店に勤めていたんだ。だから、軍服とか毛布とかも全部自分で縫い物して直すことができた。食い物は魚を獲っても火を起こすと煙が出て敵に見つかっちゃうってことで、生で食わなきゃならない。だけど毒があるかもしれないから、先にそこらにいるタヌキとか他の動物に食わせるんだって。もし毒があれば食わないし、大丈夫なら食っちゃう。それを確かめてから自分が食うんだ。余ったら干物にして保存食にする。そうしてジャングルに住んでた。
「衣食住」すべて自分で確保していたわけだ。金なんか持ってないよ。その代わりに技術と知恵と機転があったんだ。極端な話かもしれないけど、こういう技術と知恵と機転のほうが、いざという時に金よりも威力を発揮する。とくに大規模な自然災害とか非常事態には強いよな。
これからの時代、政府も年金も頼るに頼れない。これを人災という長い非常事態と受け止めて、ああ、ああいう顔した連中が人災を引き起こすんだなって腹立たしいのを一回飲み込んで、金では買えない人間力を磨いてさ、自分たちなりの生きがいを見つけていってほしい。そういうこれからの世代を俺は応援するよ。
(取材構成:松田健次)