※この記事は2019年06月14日にBLOGOSで公開されたものです

女優やモデルに向かって、「整形でしょ」という言葉を投げかける人を見たことはないだろうか。かつては実際に整形をしていても真偽は明かさなかったが、最近では整形を公表する芸能人が増えている。タレントで女優の有村藍里さんが『ザ・ノンフィクション』(フジテレビ系)の番組内で自身の整形手術を公表したことも話題となった。

「整形を公表する人」は芸能界だけではなく、一般人の間でも増加している。美容外科『東京イセアクリニック』が16~69歳の男女900名を対象に行った美容整形に関するアンケートによると、「もし自身が"美容整形"をした場合、そのことを家族や友人へ伝えることができますか?」という質問に対して、「聞かれなくても言える」「聞かれたら言える」の割合が全体の約80%となったという。

整形のために渡韓する女性が増加

高須クリニックや湘南美容外科など、美容整形外科のテレビCMや広告はおなじみの存在となり、多くの美容整形外科が身近に存在している。そんな中、"あえて"韓国での整形手術を選ぶ人が増えているという。

韓国保健福祉部(日本の厚生労働省に相当)の発表によると、2018年に韓国を訪れた外国人患者は37万8967人に達し、2017年の32万1574人に比べて17.8%増加。全体の11.2%が日本人で、4万2563人が「患者」として訪れたという。

韓国で整形をする理由は何なのだろうか。今回、韓国で「二重幅切開(二重の線を形成する手術)」「目頭切開(目頭を切開することで目の横幅が広がり、目が大きくなる)」の手術を行った華さん(18歳・仮名)に手術直後、ソウル市内で直接話を聞いた。

―整形をしようと思った理由は何ですか

奥二重の目が小さいことがコンプレックスでした。アイプチ(専用のノリを使い二重の線をつける化粧道具)を使っていましたが、写真を撮った時に不自然でかわいくないと思い、今回整形に至りました。高校を卒業するタイミングでしようと決めていたんです。

―高校卒業後…ということは現在18歳。若いうちの決断ですが「後悔する不安」はありませんでしたか

思い立って、すぐに実行!...したのではなく、何ヶ月も整形について調べ続け、満を持して整形しました。私は未成年なので、韓国で整形をするには親の同意書が必要です。なので、親を説得し、1から10までとことん自分が受ける手術について調べていたので、後悔する不安はありませんでした。

―韓国では整形が盛んだというイメージがありますが、一体どうやって病院などを調べたのでしょうか

主にTwitterです。インターネットで、「二重手術 上手 韓国病院」などとGoogleで検索しても、お金がかけられている広告が検索上位に上がり、本当に調べたいことは出てきません。なので、Twitterの整形アカウント(自身が行った整形に関しての情報などを発信している個人のアカウント)や整形アプリ(実際に整形を行った人が症例などをアプリ内で公開し、情報共有を行えるアプリ)での口コミを重視しました。

―口コミでは日本での手術をおすすめする人もいたと思います。それでも、韓国での手術を選んだ理由は何ですか

一番の理由は「安さ」です。渡航費や滞在費を含めても日本で手術を行うより2、30万円安いんです。もう一つは、「一度で終わらせられる」という点です。韓国に1週間~10日間滞在し、二重で帰国できる、というのが魅力的で。

心配ごとを無くすために手術内容に関する韓国語を覚え、細かい指示書を作りました。また、韓国には整形手術をしに来韓する日本人向けに通訳をしていらっしゃる方がいます。私も通訳の方を雇い、病院側のイメージと自分のイメージに齟齬がないよう入念に打ち合わせしました。ここまでくると、日本の手術とあまり変わらないかなと。

―今のお顔、とても自然で、かわいいです

ありがとうございます。何度も調べ、手を尽くしましたが、手術が終わってすぐは「縫った痕、深く残ってる…二重の幅、不自然なんじゃ…」と、散々見た失敗症例の目になってしまった気がして、とても焦りました。けれど、これだけ調べて、失敗を配慮したにもかかわらず、失敗をしてしまったのならしょうがないという気持ちが大きかったです。

まだDT中(ダウンタイム。手術のあとの腫れがひくまでの期間)ですが、自分が望んだ目になったと思っているので、悔いはありません。

"整形公表"だけが正解じゃない

―「整形」ということに過剰に反応し、批判する人はまだまだ日本には多いと感じています。そういった声をどう思われますか

私が整形したことを「良いこと」と他者に認めさせようとは思いません。だけど、よってたかって批判するのは間違っていると、当事者として思います。

最近では一般人でも、「整形をカミングアウトした人」が注目を浴びることがあります。面と向かって直接、整形を批判する人は減ってきているかもしれませんが、何人か集まって、差別をする人が多いと感じています。健康な体にメスを入れることだし、受け入れるのはそんなに簡単なことじゃないけれど、文句を言うなら回りくどく言わず、はっきりと言えば良いのにと。

韓国で約2週間過ごして感じたことですが、日本は周りの目を気にしすぎているのかなと思いました。自分に自信を持ち、「私がかわいいと思っているんだからかわいい」という姿勢が韓国の方が強いと感じました。韓国と日本の比較というよりは、海外と日本の比較になるかもしれませんが…。

―整形を公表する人も増えてきました。この状況をどう思われますか

芸能人であれ、一般人であれ、整形を公表した人がいることで、「自分の整形もバレてしまうのでは」と恐れている人もいます。実際に、整形を公表した人がテレビなどに出演して何かを明かすと、Twitterの整形アカウント界隈では「自分勝手すぎる」「隠したい人のことを考えて」などの議論が巻き起こります。なので、とても難しい問題ですよね。

整形をした理由は人それぞれで、"公表する・公表しない"も人それぞれです。

私の周りでも整形を公表している子はいるし、私は今のところ、整形を公表するつもりはありません。ただ、仮に友達に整形を明かしても、批判的な声は返ってこないだろうなと思っています。

公表している人や、整形をしていない人は「何で?すればいいじゃん」と思うかもしれませんが、押し付けないでもらいたいですし、同時に「整形をしている私たちの存在を認めてくれ!」という主張にも違和感を感じます。

「整形推進派」もいるし、「整形批判派」もいる。それは仕方がないことではないでしょうか。

現地の整形外科医に聞いた、韓国整形のリアル

さまざまな整形手術の中でも、有村藍里さんが行った"輪郭修正"は骨を削るなど、大きな外科手術となり、リスクも大きくなる。こういった大きな手術を得意とする整形外科は韓国にも多く存在し、海外から手術を受けに行く人も多くなっているという。こういった大きな手術を異国の地、韓国で行うことについて、実際に手術を執刀する美容外科医はどう思っているのだろうか。

"輪郭修正"などを得意とする「ナム整形外科」のグァク・インス代表院長に話を聞いた。

―韓国へ整形手術を受けに来る日本人は増えていますか

確実に増えていますね。韓国保健福祉部によると、韓国を訪れる日本人患者数は2017年には2万7283人でしたが、2018年には4万2563人と、56.0%と大きく増加したと発表しており、整形のために渡韓した人もその分増えました。本院の患者の比率を計算してみると、国内の患者が約40%、海外からの患者が60%となっています。海外からの患者の場合、アジア圏からの患者が英語圏の患者よりも割合が高く、中国に次いで日本、他にインドネシア、ベトナム、タイとなっています。

―日本人が整形手術のために韓国へ訪問する理由は何だと思われますか

K-POP文化の影響もあると思いますが、整形手術のメニューの多さが一因だと思っています。患者のなりたい顔はそれぞれ異なり、自然な仕上がりを望む方もいれば、ハーフ顔のような、くっきりとした派手顔を望む方もいます。自分自身が望む整形手術を選択して、手術を受けることができるという点から、韓国を訪れるのではないでしょうか。

―街中で、血がにじんだガーゼを鼻につけている方や、輪郭手術後につける補正マスクをしている方など、DT中と思われる方を何人も見かけました。韓国の整形に対する意識はやはり寛大なのでしょうか

2000年頃から、テレビなどで綺麗な芸能人が自身の受けた整形手術を堂々とカミングアウトし始めました。そして、整形手術を受けて綺麗になったことで、以前よりも満足のいく生活を送っていることがテレビやインターネットを介して広がり、韓国人の整形に関する認識が変化していきましたね。

―芸能人のカミングアウトが大きな要因だったのですね。日本と韓国で、"整形に対する意識差"は感じますか

以前の韓国人の整形手術に対する認識は、現在の日本人が整形手術について感じることと大きな違いはなく、整形手術を受けたことを他人にバレないように隠密にしていました。しかし、芸能人のカミングアウトにより、韓国の文化は日本とは少し違う方向に流れ始めましたね。

少し考え難いかもしれませんが、韓国人の中には、高校卒業祝いに「目を整形すること」を選択するという子が多いです。卒業祝いのようなものです。母娘や友達同士で同時に手術し、一緒に入院するケースも多々あるんですよ。それだけ整形手術が普及しており、整形手術の認識が寛容なのでしょう。

―日本でも芸能人が整形をカミングアウトすることが多くなり、意識が変わりつつあると思います。どのように変化するのが良いと感じますか

開院当時に比べ、当院を訪ねる日本の方もかなり増え、日本でも整形手術に対し、大衆の認識が寛大になってきているのだろうと感じます。けれど、整形手術について、「こう受け入れるべき」という正解はありません。

韓国でも整形に対する批判はもちろんいまだにあります。どこの国でもそうですが、整形手術は個人の自由であり、批判はおかしいのではないでしょうか。

―整形手術が受け入れられることにより、安易に整形する人が増加することが考えられますが、整形手術を受ける前に考慮しないといけないことは何だと考えますか

整形手術は「手術」です。最も重要なのは安全、二番目も安全、三番目も安全です。安全に手術をするためには、手術のノウハウと手術経歴、何よりも"整形専門医"による執刀なのかが重要です。そのために必要な安全装備とシステム、麻酔科専門医療人が院内に常駐しているのかなどを、きちんと調べて手術に挑むべきです。

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インターネットを通して簡単に情報が手に入るようになり、「整形」も昔に比べ、手軽にできるようになった。日本国内での整形、韓国での整形、どちらであっても忘れないでもらいたいのは、グァク・インス代表院長も言っていたように「整形は外科手術」だということだ。

整形の当事者である華さんは「悔いが残らないくらい調べた」と話していた。もちろん担当医が悪く、手術が失敗してしまうケースもあるだろう。しかし、あまり下調べせず、手術後のケアを怠ったがために、取り返しのつかないことになってしまった人も多く存在する。

日本美容外科学会の調査によると、日本の2017年美容整形施術数は190万件に達し、16年の国際統計に当てはめると、米国(422万)、ブラジル(252万)に次ぐ世界3位になるという(国内の医療機関を対象に集計)。統計からも伺えるように、昔に比べ、多くの人が整形を行えるようになった今だからこそ、きちんと「手術」だということを理解し、悔いが残らない結果にしてほしい。【清水かれん】