JR4社の車内販売が大幅縮小!カチカチアイス、ポリエチレンの茶瓶、冷凍みかんの今を調べてみた - おおたけまさよし
※この記事は2019年05月30日にBLOGOSで公開されたものです
穏やかな気候になり旅行にピッタリの季節が到来。楽しい旅を盛り上げてくれるのが食事ですね。観光地で味わう絶品グルメもいいですが、機内の食事やお酒も旅のムードを盛り上げてくれます。ところが今年2月、こんなニュースが報じられました。JR北海道、東日本、四国、九州の4社は、弁当や飲料の車内販売を来月16日から大幅に縮小する。北海道と四国は一部観光列車などを除いてサービスから撤退し、九州は新幹線での販売を廃止。東日本は東北新幹線や秋田新幹線、在来線特急でサービスを中止したり取扱品目を絞ったりする。- https://this.kiji.is/470165552728507489
旅を盛り上げてくれるビールやおつまみ、駅弁などを購入するのに欠かせないのが新幹線の車内販売。独特のワゴンを引いた乗務員の姿が思い浮かびますが、報じられているようにこの車内販売が平成の終わりと共にほぼ終了していました。
車内販売でしか口にすることができないあの味を楽しむ機会が減ってしまうわけです。新幹線では当たり前の景色である車内販売がなぜ終了してしまうのでしょうか。調べました。
3月15日を最後に車内販売の営業を終了した新幹線は、はやぶさ(新青森~新函館北斗間)、はやて(新青森~新函館北斗間)、やまびこ(全区間)、こまち(盛岡~秋田間)。
在来線特急は、踊り子、日光・きぬがわ・スペーシアきぬがわ、草津、いなほ(酒田~秋田間)です。
3月16日以降は、これまで車内販売で扱っていたものが消えるケースもあります。取扱品目の見直し対象となる新幹線は、はやぶさ(東京~新青森間)、はやて(東京~新青森間)、つばさ、こまち(東京~盛岡間)、とき。
在来線特急は、あずさ、かいじ、ひたち、スーパービュー踊り子、いなほ(新潟~酒田間)。
これでJR東日本の運行する新幹線全体の7割で車内販売が終了。さらにJR九州の九州新幹線、JR北海道の特急列車での車内販売もこの春で終了しました。東海道新幹線では車内販売は継続されるものの、東北方面の新幹線で車内販売はほぼ消えたといっても過言ではないでしょう。
車内販売を中止する商品としては、お弁当、サンドイッチなどの軽食、デザート、お土産、雑貨。一方、車内販売を継続するものは、ホットコーヒー、ペットボトルのドリンク、お菓子、アルコール、おつまみです。
新幹線のアイスクリームが硬すぎる理由
デザートの車内販売が中止と聞いてピンと来た方。そうです。あの硬すぎるスジャータのカップアイスも車内販売中止の品目に該当しています。上記の列車では販売されません。北陸新幹線のかがやき、はくたかや新幹線のファーストクラスと呼ばれるグランクラス、東海道新幹線などに乗車すれば食べることができます。スプーンが刺さらないほど硬すぎることで話題になり、ネット上では「シンカンセンスゴイカタイアイス」とも呼ばれています。正式名称はスジャータスーパープレミアムアイスクリーム。
この硬さには秘密があります。スーパーで購入できるラクトアイスの乳脂肪分が8%前後なのに対して、スジャータスーパープレミアムアイスは15.5%。ハーゲンダッツの乳脂肪分が15%なので、とてもクリーミーです。
牧場で絞った生乳に加えて生クリームも使用しているため濃厚な味わいになっています。さらに食べ応えのある食感にするためアイスに含まれている空気を少なくしました。
空気が多く含まれるとソフトクリームのようなフワフワした食感になりますが、空気を減らすと、新幹線のアイスのようにシャリシャリとした食べ応えが生まれます。さらに空気を減らしたことでミルク感が損なわれず、溶けにくいのだそうです。
1991年に販売が始まったスジャータスーパープレミアムアイスは、スジャータめいらくの当時の社長だった故・日比孝吉氏が、新幹線専用アイスとして品質にこだわって作った逸品。
車内販売は縮小したもののどこかで味わうことはできないのかと調べたところ、東京駅の18番・19番ホームで購入できるという情報をキャッチ。本当なのか確かめてきました。
新幹線の乗り口は2つ(東北方面と東海道方面)ありますが、新幹線アイスが売っているらしい18番・19番ホームは東海道・山陽新幹線乗り場です。
駅のホームに来て気が付きました。キオスクを含め売店がたくさんあります。トラップです。こうなったらホームの端から端まで歩いて探すことにしました。
ホームにある売店の数は全部で10軒(キオスク含む)その中で新幹線アイスが売っているのはたったの2軒でした。
1軒は15号車が停まるこちらの売店。
この売り場にはバニラ、抹茶、イチゴの3種類のみ販売(季節でラインナップは変わる可能性あり)。
もう1つが7号車のところにあるこちらの売店。
バニラ、抹茶、イチゴに加えてリンゴ味もあります。
車内販売でこのアイスを買って、ホットコーヒーで少しずつ溶かしながら食べるのが好きだったので車内販売の減少は寂しいものです。
さて、続いては昭和の新幹線でよく見たこちらの容器です。
昭和の駅弁に欠かせなかったポリエチレンの湯呑み
使い方が分かる人は昭和世代確定。正確な名前まで知っている人は少ないと思います。こちらはポリ茶瓶といって、ポリエチレンでできたお茶を入れる瓶のこと。1964年、東海道新幹線が開業をきっかけに駅弁と一緒に販売されたことで売上がアップ。
ポリ茶瓶の製造と販売を行っていた大阪屋の広報・河口さんによると1ヶ月で1万5000個が製造されていたそうです。大阪屋一社でこの数ですから、実際はもっと多くのポリ茶瓶が作られていたと推測できます。
しかし、ポリ茶瓶の時代は長く続きませんでした。缶のお茶が登場したからです。「お~いお茶」で有名な伊藤園さんによれば1981年に缶入りの烏龍茶を販売。1985年に缶入りの煎茶を販売しています。この頃からポリ茶瓶の姿を見なくなってきました。
そんなポリ茶瓶ですが、実はまだ現役で活動している場所があります。温泉で有名な静岡県伊東市のJR伊東駅。こちらで60年以上にわたり、駅弁の販売を続ける祇園では今も駅の売店でポリ茶瓶の販売を続けています。
担当者によると、「売上が良いわけではないので辞めるのは簡単です。しかし旅の醍醐味の1つである駅弁をより楽しんでもらうためのアイテムとして今でも販売を続けています」とのことでした。
ちなみにポリ茶瓶を知らない世代でも、先ほどの大阪屋では今もポリ茶瓶を販売しています。インターネットで購入できるので旅の醍醐味を味わうために購入されてみるのもいいかもしれません。
逆転の発想から生まれた冷凍みかん
続いて新幹線の車内販売で思い出すものといえば、キンキンに冷えた冷凍みかん。考えてみれば、あのみかんがいつから販売されているのか知りませんよね。調べてみました。果物を凍らせて食べるというアイデアが斬新ですが、実は戦前から考えられていました。誕生は1955年(昭和30年)、神奈川県小田原市国府津でした。日本全国にみかんの産地がある中、小田原のみかんは和歌山の有田みかんや紀州みかんに比べて熟すのが遅かったのです。
ブランド力のあるみかんに比べて販売のタイミングでもハンデを背負っているというのは辛いところ。そこで考えたのがみかんの旬である冬ではなく真夏に売るという戦略です。
国府津で青果卸業を営む「井上」の井上誠一社長は、冬に収穫したみかんを凍らせて夏に売るというアイデアを閃きました。熟すのが遅いのであれば、しっかり熟したタイミングで冷凍して、競合のいない時期に販売しようと考えたわけです。ピンチをチャンスに変える素晴らしい発想です。
冷凍技術はマルハニチロ水産の前身である大洋漁業に相談を持ちかけました。驚くのはみかんを冷凍する方法です。ただ冷凍庫で凍らせていたわけではありません。
前年に収穫したみかんを皮が薄くなるまで保存し、それからマイナス25℃で冷凍。カチカチに凍ったみかんを出荷前に0℃の冷水につけて、みかんそのものの冷たさで周りに氷の膜を作ります。その氷の膜があるおかげで出荷した後の乾燥を防ぎ、冷凍みかんの持つ独特の爽快感を生み出しているそうです。
こうして生まれた冷凍みかんは、高度経済成長期に大ヒット。小田原から北海道の釧路駅まで出荷したこともありました。当時のインフラを考えると小田原で生まれた商品が釧路で販売されるというのはすごいことですよね。
鉄道旅の醍醐味の1つだった冷凍みかん。よく考えてみればスーパーなど町の商店ではあまり見かけなかったような記憶があります。これにも理由がありました。
当時、冷凍みかんの販売は鉄道の駅の売店のみ。それも長距離列車のホームを中心に販売されていました。実は冷凍庫から出して駅で販売し、食べ頃を乗客に届けるにはタイミングの調整が必要不可欠。そこで用意されたのが冷凍みかん専用の冷凍庫と専門の販売員でした。最も美味しいタイミングでお客さんの元に届くよう様々な工夫がなされていたわけです。
みかんが冷凍されているだけで美味しく感じたものですが、あの食感と味を出すのにこれほどまでの手間暇をかけていたとは驚きです。
そんな冷凍みかんの売上のピークは1970年(昭和45年)でした。売上減少の原因は冷房車の普及と新幹線の登場。冷房車の登場により車内でみかんが溶けにくくなり、鉄道が高速化したことで、冷凍みかんを買っても溶けて食べ頃になる前に目的地に到着してしまうようになったのです。
鉄道での需要が減って打撃を受けた冷凍みかんは、学校給食に導入されました。しかし2011年、さらなる問題が襲いかかります。2011年(平成23年)に起きた東日本大震災です。小田原のみかんが栽培されていた西湘地域は、原発事故による風評被害を受けて震災直後は学校給食への提供ができなくなってしまいました。
現在では、毎年5~9月頃にかけてJR東海の三島駅などで冷凍みかんが販売されています。こちらはJR東海なので今回の車内販売縮小の影響は受けませんが、冷凍みかん自体が今では貴重な食べ物になっています。
調べてみるとカチカチのアイスクリームも、ポリ茶瓶も、冷凍みかんも鉄道の旅を彩った食文化。正に醍醐味でした。どれも完全に販売終了となったわけではありませんが、今回の車内販売減少で我々が口にする機会が減ったことは事実。
寂しい気持ちもありますが、車内販売が終わる理由は駅の構内に売店や自動販売機が増え、売上が減少したこと。さらに人手不足によって車内販売の人材確保も難しくなっていることがあります。
JR東日本によると、車内販売の2017年度の売上高は前年度比で約5%減少。今期も減少が続く見通しで下げ止まる兆しが見えません。
今回調べてみて思うことは、インフラ技術の向上による鉄道の高速化、キオスクや自動販売機の出現で車内販売を始めとするサービスが減少したことは仕方ないことのようにも思えます。新幹線を移動と考えるのか、旅と考えるのか、利用者によってそのあたりの意識はかなり違いますね。そうした中、東海道新幹線のこだまのように、ゆったりと進む新幹線は旅の醍醐味を味わえる貴重な車両なのかもしれません。