恋人からDVを受けたことがある男性は3割 周囲に相談しづらい男性のDV被害 - BLOGOS編集部PR企画

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※この記事は2019年05月29日にBLOGOSで公開されたものです

LINEの既読が付いているのに返信が遅い――

イライラして、恋人を問いただしたことはありませんか?

「好きだから」こその言動が、相手にとっては暴力になっていることがあります。

恋人間で起こる暴力「デートDV」を防ごうと予防教育のプログラムを中高生などに提供するエンパワメントかながわの阿部真紀理事長に話を聞きました。

「束縛だよね」と片付けられていた恋人間の暴力

――デートDVというのは具体的にどのようなことを指すのでしょうか。

「デートDV」という言葉は2003年、「dating violence」という英語から作られました。それまでは「好きならそういうことがあってもしょうがないよね、束縛だよね」と容認されていたようなことが、デートDV、つまり暴力だと認識することにより、嫌な場合は嫌だと声を上げられるようになりました。

デートDVの具体的な内容としては大きく分けて5種類あります。

1.行動の制限
他の異性と話をしないと約束する、返信が遅いと怒る、スマホのデータを消す

2.精神的暴力
体型や容姿について嫌なことを言う、別れたら死ぬという、理由も言わず無視する

3.経済的暴力
デートの費用をいつも払わせる、高いプレゼントを買ってほしいと言う

4.身体的暴力
殴る、蹴る、壁に押し付ける、突き飛ばしたり引きずる

5.性的暴力
嫌がっているのにキスする、避妊に協力しない、裸や性行為の写真を撮る

ただ、これらは両者ともに容認していれば、必ずしもデートDVには当てはまりません。「嫌だって言えない」「嫌だと言っても聞いてもらえない」と力関係が不均等になった時に初めて暴力ということになります。

私たちの団体は、デートDVということがあるということを啓発するため、2004年に立ち上がりました。現在は小学生~大学生を対象に予防プログラムを提供するとともに、相談体制も整備しようと、2011年に日本で初めて「デートDV110番」というデートDVに特化した電話相談を開設しました。

男性は恋人からDV被害を受けていても相談しづらい

――具体的にどのような相談が寄せられるのでしょうか。

開設をしてから2016年までの約5年間で、相談件数は722件にのぼりました。

このうち、被害者を性別で分類したところ、女性が91%に対し男性は9%とその差は約10倍になりました。

一方、私たちがデートDV予防プログラム終了後に中高大学生に行った調査では、デートDVに当てはまる30項目のうち1つでも被害を受けたことがあると答えたのは、女性44.5%に対し、男性は27.4%。

女性が多いものの、男性の2倍には満たないことがわかりました。男性は被害を受けていても相談につながりにくいということが言えると思います。

――男性が相談しにくい背景には何があるのでしょうか。

加害に男性が多いことと、男性が被害相談できないということには、実は同じ背景があると思っています。

日本は男女間格差を表すジェンダーギャップ指数が世界149か国中110位(2018年版)とG7で最低です。政治の世界に女性議員が少ないという事実はもちろんですが、潜在的に社会に「男性が強く、女性は弱く」というジェンダー意識があります。

「男は強くあらねば」という意識を、男性は幼少期から刷り込まれることによって、それが支配欲につながり、暴力として女性に加害を加えることにつながります。

そして、また「男性だから女性から暴力の被害に遭うわけがない」という思い込みを生むこととなります。そのため、男性が被害にあった場合でも、まず被害を受けているという事実にすら無自覚になりやすいですし、苦しんでいても「人には言えない」と助けを求めにくなってしまいます。

これまで相談を寄せた男性にはどのような声があったのでしょうか。

相談内容をそのままお伝えすることはできないのですが、たとえば、「彼女から別れたら死ぬと言われ、別れられません」と相談をしてきた男性のケース。「でも何とかして守らなきゃいけないと思ってるんです。だって自分は男だから」と。相談をしてきている電話口ですら、こうして「強くなくてはいけない」と自分を責める男性は多いです。

別のケースでは、一緒に住んでるマンションの家賃を全部出させられたり、生活費も全部負担させられたりした結果、自分が食べるものなくなってしまって、にっちもさっちもいかなくなっていましたが、それでも、「経済力がなく彼女を養えなくて情けない」と。

さらに、ジェンダー意識だけではなく「結婚してなんぼ」「子どもができてなんぼ」という「社会の当たり前」というプレッシャーも影響していると思います。

たとえば、さきほどのケースのように、経済的に無理しても結婚したい、あるいは浮気など相手が違う人のところにいっているのを知っていても結婚したいという声は男女関わらず聞くことがあります。

暴力を受けていると、「自分はダメな人間だ、相手はこんな自分を選んでくれている」と思いこまされるため、自分だけでその負のサイクルから抜け出すことは難しいのが現実です。

フィアンセから被害を受けているがどうしたらいいのかという、結婚式を数週間後に控えた男性に、相談員が「世間体にとらわれてしまっていませんか」と伝えたところ、「初めて気がつきました」とハッとされ、「世間体を考えてる場合じゃないですね、改めて本当にパートナーとして付き合っていきたいのかを考えてみます」と話されたケースもありました。

男性が強くあるべき、女は弱く守られるべきという「べき論」にとどまらず、男女は付き合ったら結婚するもの、そして結婚をしたら子どもを持つものという価値観が日本にはまだまだ根強いと思います。

デートDVを減らすことは子どもへの虐待減少にもつながる

――こうした価値観の連鎖はどこかで止める必要があります。どのような対策が有効なのでしょうか。

やはり、子どもの頃から啓発をすることがとても大切だと思います。子どもたちに「恋人との間で何をすると暴力になる可能性があるのか」ということを事前に教え、予防教育をすることで、まずデートDV自体が減ります。

デートDVが減れば、結婚後の夫婦間でのDVも減りますし、結果的にそれは子どもへの虐待の減少にもつながっていきます。つまり、デートDVを減らすことで、社会における様々な暴力をなくしていくことができるのです。

いま、世の中には、「男らしさ」「女らしさ」にあふれたキャラクターや、「異性からもてなきゃ」といった表現が、テレビやマンガ・雑誌にあふれています。

また、交際相手から殺された事件があっても、ニュースでは「別れ話のもつれ」「交際間のトラブル」とだけ報道され、結果的に社会では「二人の問題でしょ」「自業自得」と個人の問題として扱われます。

こうした固定化したジェンダー意識を子どもたちに持たせたり、男女間のトラブルを自己責任で片付けてしまうメディアにも責任があると思っています。

誰であっても暴力に遭うことはあります。でも、「暴力を受けていい人はひとりもいない」という確固たる価値観を持っていれば、自分自身が暴力をふるわないのはもちろん、暴力を受けた時に自分は悪くない、誰かに助けてもらって良い存在なんだということに気づくことができます。

今年1月、千葉県野田市で父親が娘を虐待死させる痛ましい事件がありました。容疑者の父親は、亡くなった娘だけではなく妻にもDVをしていました。社会に大きな衝撃を呼び、家族の問題だけではなく、地域が彼女のためにできたことはなかったのか、社会制度に穴はなかったのかという議論が湧き上がってきています。

デートDVも同じように、個人の問題ではなくて社会で取り組むべき問題です。誰もが身近にある問題で、決して他人ごとではないということを、これからも伝えていきたいと思っています。

「新たな被害者も加害者も生まない社会を目指してほしい」

こうしたデートDV予防啓発の取り組みへの日本財団の支援は、犯罪被害者支援の柱の一つとして行っており、支援を始めて3年目になります。

デートDVというのは潜在的なゆがんだジェンダーの固定観念や間違った支配欲が働くことで起こることです。そして恋人への暴力は配偶者、子ども、そして次世代へとずっと連鎖していってしまい、どこかで止めないといけません。

交通ルールであれば、横断歩道を渡る時に「右左を確認してからわたる」ということは小学校入学と同時に教わり、みなが常識として知っています。

たとえ自分の親が教えてくれなくても、学校で他の大人たちが、「パートナーへの暴力は絶対ダメ」というルールを教え、10代など思春期の頃からマインドセットとして持ってもらうということは本当に意義のあることだと思っています。

今年3月には、日本財団で全国のDV予防に取り組む団体が一同に介するフォーラムを開催しました。地域によって抱える課題は様々です。同じ社会課題に取り組む団体が、それぞれの課題を共有することは大事なことです。予防体制、相談体制を作り広めることで、新たな被害者も加害者も生まない社会を目指してほしいと、今後も活動に期待しています。