川口市いじめ関連文書開示請求訴訟 市側は違法性を認め、不開示決定と不訂正決定を覆す 565枚の文書を開示 賠償請求は争う姿勢 - 渋井哲也
※この記事は2019年05月27日にBLOGOSで公開されたものです
埼玉県川口市教育委員会が「違法性」を認めたー。同市内の中学校に通っていた元男子生徒、栃内良介(16、仮名)が、部活動などでいじめを受け、不登校になった。この問題で、自身のいじめに関する情報を開示することを求めていたが、多くの文書が開示されていなかった。また、開示された文書の中には、事実とは異なる内容が書かれていた。これに対し、良介が市を相手に、不開示処分の取り消しと、内容の訂正を求めて訴訟を起こした。15日、さいたま地裁(谷口豊裁判長)で開かれた第2回口頭弁論で、市側は、処分を取り消したことを明らかにした。行政訴訟としての側面はこれで終了する。一方で、この問題に伴う損害賠償請求については、市側は争う姿勢だ。
市側が一転、565枚の文書を開示
良介は、自身のいじめに関する記録に関して、情報公開を求めた。しかし、市教委は請求された情報の一部しか開示しなかった。開示されたものにも、事実と異なる記載があったため、訂正を求めたが、実現しなかった。これに対して、市側は、事実上の違法性を認め、請求された記録を開示することと、誤った記録の訂正も職権で決めた。5月13日付。これを、口頭弁論で明らかにした。
これで開示される文書は565枚。これまでは54枚しか開示されていない。市教委に請求した文書と、同様な内容を県教委にも請求したところ、103枚が開示されている。これだけを見ても、市教委は、膨大な資料の一部しか開示していなかったことがわかっていた。
市側は、賠償請求は争う
訴状によると原告(良介)は、18年1月、市の「個人情報保護条例」に基づいて、いじめの重大事態に関する記録すべての開示請求を行なった。「人間関係のトラブルに起因する(保護者の申し立て)いじめ事案発生報告」など一部が開示されたが、いじめ発生日時の記載がなく、事実と異なる記載が多数見られた。「中学校生徒指要録」では、請求した部分は開示されていない。
他の文書が開示されない理由としては、市いじめ問題調査委員会条例を根拠としていた。良介のいじめ問題について、市教委による調査委員会が立ち上がっていたからだ。しかし、原告側は、条例では、会議を非公開しているだけであり、調査委の文書すべてを非公開にしていない、としている。
また、3月、事実と異なる部分について訂正請求し、市側は、訂正決定した。しかし、原告が提出した資料が添付されていただけだった。市教委は「元の文書と、原告が提出した資料を一緒に補完した。これで訂正とする」と回答した。そのため、情報公開の窓口である行政管理課では、市教委指導課に対応を求めたが、市教委指導課は従わなかった。
さらに、市教委は9月、3月の訂正決定を取り消し、不訂正等決定処分とし、訂正しないことにした。その場合、一度なされた決定の効力が失うことになり、市行政手続条例によって、原告からヒアリングを行う必要が生じるが、その機会は与えられていない。
市側は第二回口頭弁論で、これらすべての請求を認めた。しかし、「答弁書および準備書面」によると、行政上の「瑕疵」は認めたものの、瑕疵があるからといって、ただちに損害賠償請求が発生するものではない、として、国家賠償請求は争う、としている。
学校対応をめぐる訴訟への影響も
この裁判とは別に、このいじめについての学校対応をめぐる裁判も行われている。良介のいじめに関しては、加害者への指導が不十分で、部活顧問からは体罰を受けていたという。そのため、不登校になったとして、「教育を受ける権利を侵害された」として、市側を訴えている。市側はこれまでに「原告が違法だと主張する市の対応は、教育行政上、被告に与えられた合理的裁量の範囲内であり、裁量の逸脱・濫用の違法はない」「注意義務違反の違法はない」などと反論している。
今回の開示請求を求めた裁判で、学校側や市教委側はどのように認識し、どう対応していたのかを記録したものが開示される。県教委や文科省も、良介のいじめに関して記録を保有している。開示されたものが、それらと齟齬がないのか。きちんと報告していたのかがわかる。その意味では、学校対応をめぐる訴訟にも影響するとみられる。
訂正の仕方は条例で規定なし 代理人「検討課題」
母親は「開示しないこと、訂正請求を取り消したことは違法に当たると主張してきました。市側は、開示したり、訂正をすることを決定したということは、事実上、違法性を認めたことになる」と話す。また、「被害生徒に対して、いつまで傷を広げるのか」と憤慨している。訂正される内容については「条例では、『保有個人情報は、正確かつ最新のもの』とあるので、そうしてほしい」と述べた。
代理人の荒生裕樹弁護士は、市側の判断について、「求めていたのは処分の違法性だが、それを職権で取り消しを行なった。市側としては違法性を認めたということではないか。そのため、開示する、あるいは、訂正をするということは、今回で行政訴訟としての側面は終わります。しかし、訂正の内容については、この裁判では争っていない。条例上は、『訂正とはこうするものだ』という規定はない。そのため、裁判外でするのか、訂正のあり方は検討課題だ」と話す。
ただ、市側は、賠償請求の面では争っている。市側は、違法だからといって、賠償請求権は生じないという見解だ。