W不倫の両親の元で育ち、父には「生きている価値がない」と言われる。管理や支配から抜けきれない ~花絵の場合・生きづらさを感じる人々27 - 渋井哲也
※この記事は2019年05月27日にBLOGOSで公開されたものです
「私は空気のような存在です。とにかく自信がないんです。だからでしょうか、漠然とし死にたいんです。だって、人生、この先が長いじゃないですか。変化が起きる保証もない。このまま変わらないで生きていたら、嫌だな」
こう話すのは花絵(30代、仮名)=北関東在住=。小学校の頃までは、父親に「偉いね」と言われていた。私立の中学校へ行ってほしかったためだろう。しかし、いまいち乗り気ではなかったために、勉強がはかどらない。そのため、受験したものの、不合格になった。この頃から、父親は花絵に関心を寄せなくなる。
「一緒に受験をした友人は合格したんです。ただ、その子の父親は、うちの父と仲が悪い。そういうのもあって、中学以降、父は私の成績に関心がなくなりました。高校受験のときに、あらためて私立高校を受けようとしたんですが、父には『お前じゃ無理』と言われ、切り捨てられたんです」
両親がW不倫。「この家族は壊れている」
父親に認めてもらえないことで、目標を見失った花絵は中三の時、保健室登校になった。ただ、高校には行きたかったので、授業には時々出ていた。数学や英語を頑張っていたことを父親に伝えても、相手にされなかった。それだけ父親にとっては、私立中学に娘が不合格だったことが大きかった。
母親は見栄っ張りな人だという。聞いた話では、若い頃は男性からモテていたようで、複数の男性からプロポーズされた。その中で、『成功する男性』を選んだ。それが父親だった。しかし、夫婦仲がよいわけではなく、両親ともに浮気をした形跡を、花絵は見つけてしまう。
「家の中に、バイアグラが落ちているのを見つけてしまったんです。これだけなら母との間のことだと思うでしょうが、ロックがかかってない父の携帯の中に、他の女性とメールをしているのを見つけてしまったんです。母も浮気をしていましたので、W不倫が発覚した形です。『この親たちはダメなんだ』『この家族は壊れている』と思ったんです」
こうした両親の他に、兄からのトラウマ体験もあった。
「私が小学生の時、10歳ほど年齢が離れている兄が、お酒を飲んで暴れていた姿を見ました。大声をあげ、ガラスが割れた音がしていました。過呼吸のような状態になり、かつ、身動きが取れなくなるんです。すぐに回復をするので、精神科には行かなくていいかな?と思っています。怒鳴り合いの喧嘩も珍しくなかったんです。それがストレスでしたね」
突発的に「死のう」と過量服薬。だが、助かりたい気持ちもあった
家庭が崩壊して、機能してないようだが、それでも、志織は、高校の途中までは親から逃げようとか、親を切り捨てるとは考えなかった。しかし限界がやってくる。高校2年の時だった。
「もうダメだ。死のう。生きていけない」
突発的な出来事だった。精神科の処方薬を過量服薬して、自殺を図った。もちろん、日本の精神科で処方される薬は、全部を飲んでも致死量にならない。そんなことはわかっていたが、死んでしまいたい、という気持ちが生じた。ただ、助かりたいという気持ちもあった。そのため、母親の帰宅時間に合わせて、薬を飲んだようだ。
「胃が空っぽのときに飲みましたが、母の帰宅時間を計算していたんです。意識があるときに母は帰ってきました。病院のICUに行くまでは意識があったんですが、気がついたら胃洗浄を受けていました。ほとんど寝ていましたが、生き残った後の方が辛いですね。もう薬での未遂はしたくないと思いました」
一人暮らしになり、解放されるが、就職後ふたたび、家族の管理下に
大学生の頃に一人暮らしをはじめ、家族から解放された。誰にも気兼ねすることなく、どんな生活をしていても、口を挟む人はいない。しかし、高校までは、過度に管理されていた。「親の恥になることはするな」と言われながらも、具体的には教えてくれず、「自分で考えろ」と言われるだけだった。
「父が怖かったですね。でも、見放されたくないという感情もあったんです。前から、何かあったら勘当すると言われ続けていた。『誰が生活費を出しているんだ』『誰がそこまで大きくしてやったと思っているんだ』と、父から言われてきたんです。大学入ってからもの、解放はされた一方で、極力大人しくしていました。父の影響か、男性不信があります。目を見て優しそうならいいんですが、強気な男性はひいてしまいます。声を荒らげる人は怖いです」
両親の子育ては、就活にも影響する。就活するものの、体調が悪化し、結局は、父親が経営する会社に入ることになる。しかし基本的な研修はほとんどなく、3ヶ月間は、放置状態になっていた。何もできない中で、突然、「もうできるよね?」と振られることになる。右往左往していると、「なん3ヶ月も会社にいるのに、何もできないのか!?」と怒られたりした。父親は「教えてもらわないからわからない、というのは、言い訳にはならない」と言われる。
「仕事ってこういうものなのかな?と思って、友人に相談したんです。すると、三者三様でした。『自分のやり方を貫くしかいない』と言った友人もいましたが、自分のやり方をすると、ミスがある。責任を取るしかなくなるんです。父は、何も教えないのに、叱責が厳しい。『生きている価値がない』など。人格否定のようなことを言われるんです。他の従業員には言わない言葉ですよね。両親が信用できなくなり、会社を辞めようとすると、『やめる必要はない』と言われて、止められました」
生まれ育った家族像から抜けきれず、将来をイメージできない
結局、会社を辞めた。こんな状況で、「死にたい」と思うようになった。精神疾患になり、精神科に入院することもあった。その間、アルバイトもできない。生活費がひっ迫する。親に生活資金を借りようとするが、「借金してまで一人暮らしをせず、実家に戻りなさい」と言われてしまう。それでも、なんとかして、一人暮らしを維持した。ただ、将来をイメージできない。
「就活さえ成功すればいいのかもしれない。ハローワークにでも仕事はあるが、基本的には事務系。変わった仕事がいいのかな?それに、恋愛という意味では、男性とは仲良くなりますが、友達で終わってしまいます。『この人の子どもが産みたい』と思えば好きになるかもしれませんが、先のことを考えてしまうんです。自分の過ごしてきた家族像から抜けきれない」