スルガ銀行「新生銀行と提携」報道の腐敗臭漂う裏事情 - 大関暁夫
※この記事は2019年05月25日にBLOGOSで公開されたものです
ゆうちょ銀行との提携解消を長引かせた”大きな力”
不適切融資による業績悪化からの経営再建をはかるスルガ銀行(以下スルガ)が、新生銀行との包括業務提携を発表しました。発表前の先行リーク報道では「新生銀行による資本支援」まで示されていたものの、正式発表された提携内容には資本提携は含まれておらず、この報道面での不整合にはなにやら穏やかならざる裏事情の存在を感じます。
この提携のニュースと呼応するように報道されたのが、ゆうちょ銀行(以下ゆうちょ)がスルガと結んできた住宅ローン提携を解消するというものでした。この提携は08年に結ばれたもので、当時はまだ地銀界に「ゆうちょは民業圧迫の敵」という認識が根強くあった時代で、その中での積極提携はまさに英断。スルガの個人ローン全国展開という革新的な戦略は、ゆうちょサイドからも大歓迎をもって迎えられました。
スルガはこの提携により行員を全国の郵便局に出向勤務させ、年間約400億円もの提携住宅ローンを全国のゆうちょ協力の下で10年にわたり実行してきており、相互に大きな成果をもたらす存在感ある提携関係を築き上げてきたと言えます。
しかし、本提携ローンの取り扱いは、同行が昨年10月に金融庁から半年間の業務停止命令を受けたタイミングで一時凍結。4月5日に同命令は解除されたものの、そのまま提携業務は再開されることなく提携関係は形式的に継続していました。
そして今般、「新生銀行による出資支援」報道を受けてよくやくゆうちょからの提携会解消公表。本来ならば、あれだけの大きな不祥事が発覚し、業務停止命令を受けた段階で即刻提携解消としてしかるべきところをここまで引っ張ってきた裏には、大きな力の存在を感じるわけです。その存在とは当局、金融庁です。
金融庁がひねり出した「新生銀行と提携」というウルトラC
今回の提携解消公表のタイミングから考えて、金融庁は業務停止命令の発令直後にゆうちょが一方的な提携解消を公表すれば、スルガ銀行の株価下落に歯止めがかからず、最悪は地銀全体の金融不安を招きかねないとの判断から、新たな提携先が公に現れるまで公表にストップをかけていたフシがあるのです。
さらに申し上げれば、新生銀行を連れてきたのも当局である可能性が著しく高いといえます。昨秋以降スルガの支援先として当初浮上していたのは、りそな銀行です。しかし同行が「業務提携は望むところだが、資本支援は難しい」(新聞報道)とこれを固辞したために、支援先探しは迷走。
その後、株式取得に動いた神奈川県を地盤とする家電量販店のノジマや、住友信託銀行との共同出資でネット銀行を持ちながらリアルでの銀行業務参入に意欲を見せるSBIなどが浮上してきました。しかし、金融庁は「より安心感の高い既存の銀行に支援させる、というスキームに強く固執してきた」(金融関係者)と言われています。
エリア的なプラス効果を考えれば、理想とされる支援先候補は静岡銀行か横浜銀行です。両行とも苦境に喘ぐ地銀界にあって比較的順調な業績を上げており、その意味からもいずれかが引き受け手となってくれるのが一番であったことは確実です。
しかし、地銀界でも指折りの堅実かつオーソドックスな経営で有名な静岡銀行は、言ってみればスルガとは水と油。同じ静岡県に本拠を置きながら「昔から有名な犬猿の仲」(地銀関係者)と、ハナから支援など望むべくもありません。
一方の横浜銀行は、「『地銀トップ行として統合の手本を示せ』と金融庁に押し付けられた東日本銀行の問題経営が昨年発覚して大混乱。これ以上のババ引きはご勘弁」(同行関係者)と、こちらも受ける気毛頭なしの状況なのです。
そこで金融庁がひねり出した苦し紛れのウルトラCが、新生銀行によるスルガ支援だったということ。新生銀行が浮上した理由は、大手銀行で唯一公的資金の返済ができず国の管理下にあるという「弱み」を握っているからに他なりません。しかも、新生銀行は大企業向け長期金融機関であった旧長銀時代から一転、現在は個人取引推進に軸足を移しているという点も、もってこいの状況にあったわけなのです。
スルガ銀行支援に躍起になる金融庁の本音
ではなぜ、金融庁は一地銀であるスルガ銀行事件の消火にことさら躍起になっているのでしょう。表向きは地域金融の安定運用ですが、最大の理由と思しきは森信親前金融庁長官時代の大失態にありそうです。
今から4年前、森金融庁は地銀指導に関して大きく変革の舵を切りました。その最たるものが、「地盤である地域経済が縮小に向かう中で、生き残りを賭けて『特徴のある経営」に転換せよ」との大号令でした。
そしてそれを押し進める過程で、いち早くビジネスモデル転換を果たした「手本」として大絶賛したのが、個人ローン業務の伸展で目ざましい利益を上げていたスルガだったわけなのです。もちろんそれが、1兆円を超える不適切融資に支えられたものであるなどとは知る由もなく、です。
すなわち金融庁は監督官庁の威厳を失わせかねないこの忌まわしき大失態を、一刻も早くなきものにして葬り去りたいのです。そのために、国民の目に安心と映るまっとうな銀行に、スルガを支援させたいというのが本音なのです。
だからこそ資本支援先は、銀行業務素人のノジマやSBIではなく新生銀行でなくてはいけないわけで、その新生銀行に単なる「業務提携」ではなく「資本支援」を説き伏せんがために、正式発表前にリーク報道で既成事実化しようと動いた、という裏事情も透けて見えてくるわけです。
未解決の「創業家支配」問題が腐敗臭の原因
新生銀行が現段階で「資本支援」に尻込みする最大の理由は、未解決のスルガ創業家支配問題です。前会長の岡野光喜氏は不祥事発覚後の昨年9月辞任。有国社長は「創業家支配との決別」を宣言したものの、いまだ創業家は持株比率13%を超える大株主です。
そればかりか、肝心の創業家の株式譲渡については、買取価格面で前向きな折り合い姿勢をみせていないなど、これまでの放蕩経営に対する反省の意思を全く感じさせない対応も伝えられており、その影響力の完全排除が見えない限り「資本支援」などできないというのは、至極まっとうな抵抗であると思われます。
どれほどスルガが前向きな提携発表をしようとも、どれほど金融庁が躍起になってスルガの不祥事を葬り去ろうとしても、依然として腐敗臭漂うニュースとして聞こえてしまうのは、すべて同行の創業家問題が全くの未解決であるが故でしょう。
岡野前会長はいまだに、銀行利用者、株主に対して同行の経営を長年リードしてきた創業家として謝罪の一言すら述べていません。そればかりか依然として、大株主として同行をいずれまた裏で操ろうとしていると疑われてもやむを得ない存在であり続けているのです。
スルガ銀行問題に関して金融庁が監督官庁として真っ先に取り組むべきは、新生銀行の「資本支援」応諾説得ではなく、スルガへの創業家謝罪会見実施と創業家所有全株式売却の強い要請指導です。その実現が何よりスルガ銀行問題に漂う腐敗臭を一掃させ、澄んだ提携をベースとして同行の経営を立て直す最大の近道であると考える次第です。