「書類選考で軒並み落とされる」華の職業の代表・キャビンアテンダントが転職市場では冷遇される理由をCAたちに直撃(工藤まおり) - BLOGOS編集部
※この記事は2019年05月14日にBLOGOSで公開されたものです
可愛い制服に、綺麗な足とハイヒール。
小学生の将来の夢にもよく登場し、モテる職業ランキングでも上位に入る職業、「キャビンアテンダント」。通称CA。旅行や出張の旅立ちに丁寧な接客をしてくれる彼女たちは、男女共に“憧れの職業”として世間にも知れ渡っている。そして、その憧れの仕事を手にできるのも、「学歴」「外見」「英語」を兼ね備えた所謂“高嶺の花”に適した女性が多い。
そんな彼女たちが、CA から別のキャリアに転職活動をしたところ、軒並み書類選考で落ちるなど苦戦している人が多いという現実があるという。
理由をCAたちに聞いた。
退職後はマナー講師?
周囲に「キャビンアテンダントのセカンドキャリアは何だと思うか?」という質問をしてみたところ、「マナー講師」という回答が多数を占めた。
どんな国の人を前にしても不快にさせない身振り。また、外国人の方にも丁寧な英語で対応できる彼女たちは、「マナー講師を開業しよう!」と思い立ったら実現することも可能であろう。
しかしながら、それを現役CAのミカさん(仮名)に確認すると、「入社してから3年経ちますが、マナー講師になった人は聞いたことがありません。」という想定外の回答が返ってきた。
CAの仕事内容は「飛行機内のチェック」と「お客様へのサービス」
3年前に旅行代理店から、CAに転職したミカさん。「大学生の頃からの憧れの仕事でした。英語を使って外国の方と共にお仕事がしたかったので、この仕事に就きたかったんです」と話す。
ミカさんに具体的な仕事内容を聞いたところ、CAの仕事内容は「飛行機内のチェック」と「お客様へのサービス」の大きく2つに分けられるようだ。
「飛行機内のチェック」は、安全器具がしっかり設備されているか、不審物や忘れ物はないか、機内の清掃がしっかりと行き届いているか等を搭乗前に確認する作業。お客様の命を預かる乗り物だからこそ、細かいところまで念入りにチェックを行う。
何か問題があった際はすぐに担当者へ連絡し、迅速に処理を行う必要があるため、細やかな確認と、臨機応変に対応するスキルが必要だ。
「お客様へのサービス」は、注意事項や緊急時の対応説明や、お客様の食事や飲み物の手配等。
ミカさんは話す。「他国から様々なお客様が利用するため、国によって対応を変えなければなりません。台湾では、『ごはん食べましたか?』という中国語が、日常挨拶として使われているほど、食事を大切にする傾向があります。なので、食事のご案内の際は、寝ていたとしても肩を叩いて起こしてあげた方が喜ばれます。逆に、日本人のお客様は、寝ているのを起こされると不快に感じる方が多いので、タイミングを見て再度お伺いいたします。国によって対応が変わるので、そういうことを知れるのはとても面白いです」
機内の快適さは、CAのサービスによって大きく変わると言っても過言ではない。筆者も外国に旅行に行った際、困ったことに対して常に真摯に笑顔で対応してくれるCAの姿を見て、何度心が救われただろうか。
転職を難しくさせる「パソコン実務経験」の有無
一方、その華々しい職業の実務の中には、会社員として就職したら経験をするであろう「パソコン操作」がほぼない。それが、彼女たちのセカンドキャリアを考えた時に大きな課題となる。事務職に転職しようとも「オフィス経験」や「PCスキル」がないことを理由に落とされてしまうのだ。
ミカさんは、「転職活動をしている先輩を見てきましたが、パソコンを使った経験がないと書類で落とされてしまうんです」と少し肩を落としながら答える。
ミカさん自身も、一度転職を考えWEBサイトで探してみたこともあるそうだが、ホテルのコンシェルジュ等のサービス業が大半を占め、「その後のキャリアが不安になった」という。
講師として独立したいという願望を持っている人ならまだしも、出張が多く、肉体労働であるCA業務に多くの女性は、結婚・出産というタイミングで、一段落つけようかと考える人も多いようだ。
また、人生100年時代と言われるこの時代に、一生をかけて接客のプロを極めていくのは体力が限界になるであろう。
元CAに転職理由を直撃
CAとして外資航空会社に3年間勤めた後、外資系企業の秘書として働いているカナコ(仮名)さん。転職経緯を尋ねるとカナコさんは
「不規則な生活が身体に負担が大きかったので、規則正しい生活がしたくなったのと、激動する市場の中で、将来の選択肢をひとつでも増やしておきたいと思い、体力勝負の接客業とは異なるフィールドへ転職を決めた」と答えた。
「CAの転職活動は難しいのでは?」と聞くと、「CAは特殊な職業ですので、全く別のキャリアへの転職活動はなかなか上手く行かないのも事実としてあると思います。ただ、秘書であれば転職した方が何人かいました」と話す。
秘書の業務内容は、スケジュール管理、電話・メール対応、来客対応の他に文書作成や庶務。接客業を極めた彼女たちであれば、難なくこなせる内容だろう。
しかし、「秘書」の募集は「事務」に比べて格段に下がり、大多数の案件が20代-30代を想定している。
気遣い心遣いができ、外国語も使いこなす彼女たちは市場価値を考えても非常に高いことは想像できるが、「事務職」「企画職」というジャンルへの転職は、「書類選考」をまず行う一般的な転職活動においてその強みを活かしきれることができないのが現実だ。
カナコさんは「たまたま知り合いに声をかけていただき、秘書に転職しました」と転職のきっかけを話す。
近年リファラル採用が全体的に活発化してきているが、プロとしてサービス業を極めた、対面スキルが高い彼女たちにとってこの採用方法は非常に相性が良いのかもしれない。
採用において企業が大切にすべきこととは
筆者が人材会社の営業をしている際、人柄もよく仕事ができそうな女性たちが「パソコン実務経験」がなく選考に落ちる現場を数多く見て、心苦しい気持ちになった。
稀に「パソコン業務の経験はありませんが、会ってみてください」と企業側に提案し、それが採用に繋がった際、なんとも言えない歓喜の気持ちで満たされた。彼女たちは要領が良いので難なく業務をこなせたし、新しいことに対する勉強も熱心に行っていた。
近年「人手不足」が社会課題になる中、「パソコン実務経験」でスクリーニングをかけていくことで、中々採用ができない企業を多く見かける。企業側は人を雇う際に、「パソコン業務をした経験」を必須にするケースが多いが、本当にそれが必須なのかを改めて問いたい。採用において一番大切なのは、「目の前のその人と一緒に働きたいか否か」ではないのだろうか。
少なくとも今回の取材を通し、CA職経験者に関しては「パソコン業務経験」の有無よりもまず先に、彼女たちが培ってきた「どんな人にも対応してきたコミュニケーション力」に目を向けて欲しいと思った。
高値の花の彼女たちのセカンドキャリアが、もっと輝かしいものになるために。
プロフィール
工藤まおり
津田塾大学数学科卒。新卒で大手人材会社に入社し、1年間の法人営業を経て2014年にTENGAの広報に転職。TENGAと、女性向けセルフプレジャー・アイテムブランドirohaのPRに4年携わったのちにフリーランスとして2019年に独立。複数社のPR業務と恋愛・性・キャリアに関するコラムを執筆。