テレ東・名物DがLINE編集者の持ち込み企画をガチ検討 『1秒でつかむ』高橋弘樹氏インタビュー - BLOGOS編集部

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※この記事は2019年05月13日にBLOGOSで公開されたものです

若者のテレビ離れが叫ばれる中、独自路線を行く番組作りでファン層を拡大しつつあるテレビ東京。他のキー局に比べると小規模ながら個性的なスタッフが数多く揃う同局で、ひと際異彩を放つのがバラエティ番組『家、ついて行ってイイですか?』(毎週水曜21:00~)の演出・プロデューサーを務める高橋弘樹氏だ。

時に、企画から撮影、演出まで全てを自ら手がけ、局内の企画会議では誰よりも多くの企画を提出するという同氏だが、このほど長年の経験で培った企画術をまとめた著書『1秒でつかむ 「見たことないおもしろさ」で最後まで飽きさせない32の技術』(ダイヤモンド社)を上梓した。

今回、高橋氏に取材を行う機会が得られたため、弊メディア・BLOGOSで掲載するインタビュー記事という設定で企画案を持ち込み高橋氏に見てもらうという“フェイク”インタビューを行った。【取材:島村優】

読者が興味を持つシーンを企画に落とし込め!


持ち込み企画案①「あなた○○の人ですか?」

概要:事前準備なし、アポなしで、街中で偶然出会った相手にインタビューを行い、その人の人生について掘り下げる企画。 例えば、夜中1時に新橋の立ち食いそばで食事をしながらため息をついているスーツの男性に話を聞き、相手の内面を掘り下げる(※1)。相手が誰かわからないまま、聞き手の関心に沿ってその人がどんな人物か想像しながら会話を展開。


うーん、これだけだと読みたいと思わないかもしれません。もっと入口で興味を持ってもらえるものの方がいいと思います。

この例で言うと、ただ立ち食いそば食ってるだけより、もっと興味があるシチュエーションがないと。「深夜」とかは良いと思うんですけど。

--なるほど。事前に準備しすぎず取材対象者を掘り下げる、という狙いだったのですが…。

それも魅力的ですが、やはり多くの人に見てもらうには、なんで今、ここでこんなことしているんだろう、っていう違和感がある人に聞く方がいいかもしれません。『家、ついて行ってイイですか?』なら“終電後”というシチュエーションです。

取材相手も一般人だと、その人自体に興味を持つことは難しいから、時間とか行動とか、読者が興味を持ちそうな場面を考えて企画を立てた方が良いですね。何をやるインタビューかを前面に打ち出す。「○○の人」だけだと、その前提が感じられないので、そこをもっと企画に出した方が良いかなと。

--確かに、ただ偶然出会った人に話を聞くだけだと弱いですね。

なんで真夜中に歩いてるんですか、とか、なんで真夜中に飯食ってるんですか、とか、そういう方が面白いかもしれませんね。

※1
高橋氏は相手を取材するには、自分「取調べ力」が大事だとする。 「自分自身への認識を明確にしておかないと、自分が「興味深い」と思った事実や、「魅力的だ」と思ったストーリーの魅力を、うまく受け手に伝えることができない」
-高橋弘樹 『1秒でつかむ』 p.164

相手が話しやすくなる「心の貸し借り」を意識せよ!


企画案②「すいません、相席いいですか?」

概要:お店で偶然居合わせた人にいきなり話を聞き始め、即興インタビューする内容。なぜここにいるのか、何をしていたのか、これまでどんな人生を送ってきたのか、などを聞いていく。映画「ダイナー」のような、一見ダラダラした会話の中に隠れている本音や考えさせられる一言を拾いたいという狙い。


構造は違いますけど、千鳥の『相席食堂』みたいなものですよね。こういうのはありだと思うし、僕も基本的には好きです。

あと、これは設定の話になりますけど、相手がより深くまで話す仕掛けはしていいかなと。相席ってことで、酒を飲んでいるのは良いと思うんですけど、あとは例えばおごるとか。

--おごることで、相手が話すようになるんですか?

手練の演出家はよく使う手段ですが、相手に心理的な負担をかけるというのは、実はこういう仕掛けの一つ。インタビューとかでも、遅刻してきた人が必要以上に話してくれることってありますよね。

--よくありますね。申し訳ない気持ちで、いつもより口が滑らかになると。

あざといですけど、演出の方法として、限られた時間のインタビューで「心の貸し借り」をどう作っていくか、みたいなことも時に技術だったりします。これは営業の仕事でも、外交でも同じだと思いますが、心の貸し借りを作って本音を引き出したり、相手に譲ってもらったり。

僕だったらまず、おごります。人間って、相手にしてもらったことに無意識に報いようとすると思うので。『家、ついて行って~』でも必ずタクシー代をおごってますね。

--タクシー代をおごるってことには、そういう機能もあったんですね。

本音を引き出す「設定」を作れ!


企画案③「他人の履歴書」

概要:日本経済新聞の名物企画「私の履歴書」のイメージで、本人ではなく他人が回顧する構造のインタビュー企画。会社の若手社員が社長を、秘書が政治家を…様々な人たちが本人の代わりに、本人の考えているだろうことを回答し、実際のイメージとのギャップを浮かび上がらせる。


例えば、この会社のパターンだと、若手社員は匿名でやるんですか?実名で?

--実名かなと。

僕だったら、これは匿名でやるかな。実名でやると本音が出ないですから。こういう企画だと、本音を言いやすくする環境という設定が大事な気がします。(※2)

最近は『ダウンタウンなう』みたいなお酒を飲んで語る番組が流行ってますし、『家、ついて行ってイイですか?』もお酒を飲んでいたら本音がでやすいかもな、という狙いがあります。何かを暴露するにはそういう設定が必要になると思います。

--暴露に限らなくてもいいかなとは思っていましたが、確かにそちらの方が企画としては立ちますね。

はい。その設定が大事で、そういう風に考えると実名の若手社員じゃなくて、匿名にするかな。

設定でいうと『家、ついて行って~』はそういう本音がでやすそうな気分にある時を狙っています。お祭りのように「ハレ」と「ケ」で言ったら「ハレ」の瞬間とか。あとは気分がリラックスしてる銭湯上がりとか。

--ああ、なるほど。

もっと言うと「本音」を引き出すことを狙うなら、若手社員より退社した人だけが語る会社の話、とかも本音が出そうだなと。そういう設定が1つあるといいですね。

※2:すべては設定力
「見たことないおもしろいもの」を描くため、「ストーリー作り」に苦心しても、誰も見てくれず自己満足しているだけでは意味がありません。より多くの人に見てもらおうとするなら、「設定がすべて」です。
-高橋弘樹 『1秒でつかむ』p.235


企画案④「ラップバトルでインタビュー」

概要:平安時代の「連歌」の現代版とも言えるヒップホップのラップバトル。 聞き手も話し手もラップで応えないといけない、という縛りで行うインタビュー。この設定により、普段とは異なるコミュニケーションが生まれ、両者のやりとりで生まれるアウトプットの面白さをまとめた取材記事にする。


企画において大事なのは「なぜそれをやるか」ということですよね。ちなみに、これはなぜラップで?

--普通の形でインタビューするだけでは、出てこない話を引き出すための仕掛けとして考えました。

僕もよくやってしまうんですが、映像とか見た目の楽しさだけで作ってしまった「ガワ」ってスベることが多いんです。そのガワが内容の本質と一致していると、スベらないことが多いです。その「ガワ」を使う意味をしっかり説明できること、という感じでしょうか。

だから、なんとなくラップだけだと、スベるというか寒くなる気がする…。

--あ、これで言うとラッパーに対してインタビューするような形を想定していました。

それならアリなんじゃないですか。うん。

例えば、NHKで『ねほりんぱほりん』が人形のフィクションという体で、うまくノンフィクション・ドキュメンタリーを作ってますよね。ただ、あれは人形のパロディがやりたいだけだとスベってる気がします。人形にするのには意味があって、それは顔を出すことはできないけど、モザイクだけでは難しいと。それをクリアするための人形なのかなと。

--人形にする必然性があるんですね。

 

僕が担当したものだと『ジョージ・ポットマンの平成史』という番組があります。この番組でなぜ外国人にMCをやらせたのかっていうと、単に外国人が面白いということじゃないんです。そうではなく、平成って自分たちの生きた時代だから客観視できないですよね。それを客観視するツールとしての外国人。そういう狙いがあると、いざ作る時とてもやりやすいかもしれません。

--すごくよくわかりました。

「本音の怒り」はどうやったら引き出せるか?


企画案⑤「大人の怒りデトックス」

概要:怒っている人に気の済むまで怒ってもらい、怒りの奥にある思いを覗き見るインタビュー。 本気で怒っている人は、途中から何に怒っているのか、その主張が論理的に矛盾していないかなど無自覚になっているもの。時に筋道を整理し、時にさらに怒らせる可能性がある方向に話を展開し、怒りの先に何があるのかを見る企画にする。


これは取材対象者を怒らせるってことですか?

--怒っている人にとことん付き合って、納得するまで怒ってもらうという内容ですが、その様子を見てもらうと同時に、その怒りの奥にある本音を探ろうという狙いの企画です。

昔作った『吉木りさに怒られたい』という番組は、以前に中国のドキュメンタリーを見たときにすごく怒ってる人が出ていたことがアイデアのきっかけになっています。何を言っていたかは覚えてないんですけど、その映像のインパクトが強くて、怒ってる姿がすごく目を惹くなと。確かに、街中で怒鳴ってる人とかって見ちゃいますよね(※3)。

だから、怒っている人を見るのって確かに楽しいんです。それをショーにしている『朝まで生テレビ』のような番組もあります。あの番組の中では、田原総一郎さんは明らかに出演者を怒らせようとしている部分があると思うんですけど、それも本音を出させる一つの手段ですよね。ただ、ここで大事なのは田原さんと出演者の間に信頼関係があるということで、この企画でもインタビュアーが誰なのか、というところがすごく大事な気がしますね。

--なるほど。

田原さんはプロレスとして、あるいは問題を分かりやすくするために、ああいう番組の回し方をしていて。それは出演者にも共有されているんじゃないかなと思います。そういう環境を作るのにはどうしたら良いのか、という点を企画にも入れたほうが良いなと思いました。

--怒りやすくする設定ですね。

でも、始めからこれは怒らせる企画です、って言って相手も「これは怒らせる企画だな」とわかると、本気で怒らなくなるんですよ。だから企画も怒りを前面に出すよりは、人に寄った企画にして、怒りの要素をメインにしない方がいいかもしれませんね。そうしないと、構造として本気で怒らないので。本音で怒る設定を作るにはどうするか、ということを考えるのが番組の企画では大事になりますね。

--狙いを必ずしも前面に出さずに、その設定を作るにはどうするかを企画として形にするんですね。なるほど…勉強になります。

※3
「おもしろさ」を生み出す1つの手法として、「真面目も、度が過ぎるとおもしろい」があります。「量が過剰」であることは、「おもしろさ」を生み出すのです。
-高橋弘樹 『1秒でつかむ』 p43

政治家を褒め殺す番組を作る!


企画案⑥「政治家の手、貸します」

概要:政治家版「アンダーカバー・ボス 社長潜入調査」、現代版「暴れん坊将軍」のような企画。政治家たちが自らの素性を隠したまま、何でも屋として高齢者の多く住む団地に潜入し、普段見せる顔とは異なる、政治家の人間味に迫る。


政治家なのはどうしてですか?もしかして政治学科とかなんですか?

--そういうところは常に予想したり仮説を立てたりするんですね。実はそうなんですけど、個人的な理由以上に、BLOGOSというメディアでは政治をメインのコンテンツとして扱っているので、違った角度から政治家のパーソナリティに触れられないかなと。

僕も政治学科で、議員秘書のバイトをしていたことがありました。政治家の本性を暴いてやろうっていうのは週刊誌もテレビも一生懸命やってると思うので、僕はどちらかというと政治家の良い面も見せたいですよね。個人的には世論の逆張りをするのが好きなのもありますが、問題なのは、そういうよくない側面を描く報道ばかりで、政治家に対する不信が強くなったり、政治家の人気がなくなったりすることだと思うんです。

そういう本性を暴き出す報道はあるべきなんですけど、政治家の良い面も見せる番組、政治家を褒め殺す番組も作りたいです。これは政治家が仕掛けられる側ということですか?

--政治家が高齢者と接するのを観察する設定ですね。

なるほど。

--この企画も、どちらかというと政治家の良い面にフォーカスしたいなと。人間的にも大きい人が多いので。

そういうことですか。だとすると、この設定だと「良い人」を演じてしまうと思うので、秘書にだけ許可をとって政治家を隠しカメラで撮影するといったような、演じてしまう設定をどうやって排除するかを考えるのが大事ですね。政治家が仕掛ける側ではなく、仕掛けられる側の方がいいかもしれませんね。

『家、ついて行って~』でも、「その場ですぐついて行く」というレールを敷くことで、片付けられていない、素の自宅が見られます。やっぱり家を片付けた瞬間に、その人は演じ始めるわけです。片付けるということは、自分が人に見せたい家にすることなので。それと同じく、政治家にも演じさせない工夫が必要かなと思います。

ぶっ飛んだインタビュー企画のヒントがここに


企画案⑦「沈黙は金なり」

概要:ある道を極めた職人さんの中には、本当に口数が少ない人がいる。そうした方に一定期間密着し、締めくくりとして行うインタビュー。口数が少ない人の内面を、沈黙を通して見せる「史上初の前編ほぼ沈黙のテキストインタビュー」企画を目指す。


これは興味深い企画ですよね。

--ありがとうございます。

これって映像だとすごい楽なんです。沈黙の時の仕草とか表情をとてもストレートに見せられるから、まさに「沈黙は金なり」で、実際よく使っています。それこそ、本当に口を開いている時より雄弁だったりするんですよね。

でも活字だと制約があるから…面白いけどどうすればいいんだろう。これも誌面の企画ですか?

--そうですね。BLOGOSで掲載することを想定しています。

これは本当に難しいですよね。例えば地の文で表情の変化とかを入れたとしても、それは主観になるし。活字では沈黙を表せないですし、誰もやらないってことは、そもそもの考え方としてメディアに適していない企画と考えた方が良いのかもしれない。ただ、だからこそ、そこに挑戦していくのは手ですよね(※4)。

視点は面白いけど、どうすればいいんだろう、というのはありますよね。でも、活字って確かに時間軸を取っ払ってますけど、話した分量と沈黙の分量を誌面の見た目で正確に伝えるようなページの作り方ってあるんですかね。2行分の時間黙ったら、2行分の空白になるとかビジュアルの変化でわかればいいですけど・・・。

--……。

……。

…………………。

--……。

……………………。

………………………………………。

--ただ、沈黙してるだけに見えて何かわかりませんね。

そりゃそうですね(笑)。あと、表情の変化をどう表すかですよね。

--同じような相槌にしても、違った反応というのはあるかなと。

まあ、そうですよね。だから、沈黙のボリュームをビジュアルとして見せて、余白は読者に想像してもらうっていう方向も一つの方法ですね。

もう一つのやり方は、企画として立てていくなら「沈黙した質問」みたいな企画は面白いかもしれないですね。100個質問を当ててみて、沈黙した質問、答えなかった質問だけを集めると。

だから記事では取材対象者は何も答えていないインタビューになっていると。そこは話せないんだな、っていう。

--それはすごいですね。取材対象者が何も話さないインタビュー。

それをコーナーにしちゃうと。ただ、さすがにこれだけで振り切ったらヤバいやつですけどね(笑)。

「答えなかった質問一覧」みたいにしたら、見えてくるものありますよね。後ろの方のおまけ企画かもしれないですけど。

※4:親鸞式『ネガティブLOVE』力
親鸞聖人、マーケティングの神なんじゃないかと思う件についてです。神じゃなくて仏だろというツッコミはさておき、浄土真宗の開祖である親鸞は元祖「ネガティブLOVE力を実践し、それを大成功に導いた人物」だと思うからです。 -高橋弘樹 『1秒でつかむ』 p53

世の中のサラリーマンに読んでほしい!


企画案⑧「人生百年、私の一皿」

概要:年配の方に、人生で食べたもので一番印象に残っているものを聞くインタビュー企画。食べ物とその人の人生に興味があるところから発想した内容だが、小津安二郎の映画のような、個人の人生が時代とオーバーラップする仕上がりになっても面白いかな、と。


これは普通に良いと思いますね。一つに絞るってのもあるかもしれないけど、コース料理でも面白いかもしれません。長い人生で一番思い出に残った食事を聞くのもアリですけど、人生がそこに至るまでの流れを聞きたいですね。人生だとある程度、時間の連続なので、そこはコースで人生を表現する方が、興味が湧くかなぁ。

--なるほど。

自分の生涯に重ねたフルコースで表現するっていいですね。じんわりくる企画。

--やっぱり高橋さんは人に対する興味がすごく強いんですか?

人って本音では何考えてるのかな、とか、人はどんな生き物なのかな、とか、は考えてるかもしれないですね。あと、そこには強烈な自意識もあるような気がしていて、自分と比較してどうなのかなとかという感情があるんです。

もう一つは、こういう人間はこういう行動をとるとか、自分が持ってる人に対する仮説が覆されて、補正しながら見るのが楽しいのかなと思います。変態ですよね(笑)。

--『1秒でつかむ』を読んでいても変態感が伝わってきます(笑)。本はどのような読者に読んでもらいたいと思って書きましたか?

まずは、お金を出して買ってくれた方に役立つようにしたいなと思っていて。お金を出してくれる人は、やっぱりサラリーマンがメインですよね。でも業種が違っても根本的な考え方は変わらないと思っていて、どんな仕事かにかかわらず働いている人すべてに読んでほしいというか。

ミクロなところでいうと、半径5mにいる自分の番組の若いディレクターたちに、読ませたいなと。入ったばかりの24、25歳のディレクターをイメージして。どうしても教えきれないことがあるから、テキストを書かないといけないとずっと考えていたんです。そういう子たち、専門的な知識は持っておらず、テレビが好きで入ってくれた子が、映像を作ったりできるようにわかりやすく書こうかなと思いました。

--とてもわかりやすく、参考になる本だと思いました。今日はどうもありがとうございました。

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