※この記事は2019年05月12日にBLOGOSで公開されたものです

5月8日滋賀県大津市で発生した、保育士付き添いの下で散歩していた保育園児たちに、自動車が突っ込んでしまった事故。

全容の解明は今後の捜査に期待をしたいが、報道の画像などを見るに、両方の車とも運転席側のヘッドライトが壊れていることから、「右折しようとして鼻先を突っ込んできた車を、直進車が避けようとしたが、ヘッドライト部分が接触。その後歩道に突っ込んだ事故」であろうと考えられる。

さて、ネット上のマスメディアであるまとめサイトなどでは、なぜか「マスコミが悪だ~」と騒ぎ立てる人が多い(*1)のだが、そのような感情論や事故を利用したマウンティングやアクセス数稼ぎは放っておいて、今回の事故がなぜ発生したのか。そして再発防止にはどうすればいいのかを論じたい。

まず「運転していた側が悪い」ことは言うまでもない。しかし、では「ドライバーみんなが安全運転を心がけ、事故を起こさないようにすれば、事故は起こらない」のだろうか?

ドライバーも事故を起こしたくて運転をしていたわけではない。「この車で人を轢き殺してやるぞ~!」と歩行者天国にでも突っ込まない限り、事故を起こしたいというドライバーはいないのである。

しかし残念ながら、ドライバーの意図に反して事故は起こる。

「なぜ事故が発生したのか」と言われても「事故が起きたから起きたのだ」としか言いようがない。事故を起こしたドライバーの多くは、事故を起こす直前までは安全運転を心がけていたはずである。

それでも、金属の塊が時速数十キロで走る以上は、いつか事故は起こるのである。

心がけでは事故は防げない。事故を起こしたドライバーを叩いても、事故はなくならないのである。

それよりも重要なのは、運転のミスや不注意、またドライバー同士の意思疎通が上手く行かずに事故が発生したときに、どのようにすれば事故の影響を最小限で抑えることができるのかという考え方だ。

それは「フェイルセーフの考え方」である。

フェイルセーフとは、ミスや事故が発生したときに、いかに被害を最小限で抑え込むかという観点から、予めそうした機能を組み込む考え方である。

今回の事故が発生した交差点を確認してみよう。

グーグルマップでその現場を確認する。(*2)

すでに、いくつかのメディアでも報じられているが、偶然にも、グーグルマップにも保育士と園児らしき姿が写っている。今回車が突っ込んだのは、この少し右側の緑の金網辺りである。

これを見て疑問に思う。

「どうして、交差点角の縁石の位置にガードレールがないのか」と。

対向する右折車と直進車の事故というのは、交差点事故の典型である。

素人目に見ても「この道路で右折車と直進車が接触すれば、この園児がいる辺りに突っ込むだろうな」というのは想像がつく。しかし、その危険な位置にガードレールがないのである。

縁石が高く、かつ奥の商業施設の駐車場も縁石が高くなっており、交差点からは車で進入することができないようになっている。ここにガードレールがあっても邪魔にはならない。なのにガードレールがない。

この道路のこの縁石の地点には、フェイルセーフ機能としてのガードレールが存在する必要があった。そうすれば保育士たちも「ガードレールの後ろに子どもたちを待機させる」という、より安全な信号待ちをすることができたのである。

もちろんガードレールがあれば100%の安全が保証されるわけではない。しかし、今回の事故に関しては十分な危険予知がされていれば、被害を減らすことができたはずである。

ここにガードレールがなかったのは、行政や警察の問題であると言っていいだろう。

今回の事故で警察庁長官はガードレールの整備など、歩行者安全対策を進めるとの考えを示した。

今回の事故現場のように「なぜここにガードレールがないのか」という場所は全国にも多々あるだろう。そのような場所への速やかな安全対策を求めたい。(*3)

また、厚生労働省は、全国の保育所に対して園児たちの散歩経路の安全を再確認するように求めている。(*4)

このニュースに対しては「厚労省はアホか」などと噛み付いている人を見かけた。この対応が一部の人には保育所に安全責任を押し付けているかのように見えるのだろう。

だが、そういう話ではない。今回の事故を受けて改めて「よく考えれば、ここは危険ではないか」「ここにガードレールなどが必要ではないか」ということを保育所が確認し、行政に対して安全対策の要望を上げることが期待されているのである。

すでに事故は起きてしまった。

今回の事故を教訓に、少しでも早く足りない安全対策を補うことが、今まっさきに求められるべきことだろう。

*1:大津事故で見えたマスコミのミスと人々の悪意(東洋経済オンライン)https://toyokeizai.net/articles/-/280873
*2:県道559号 大萱六丁目交差点(Googleマップ)https://www.google.com/maps/@34.9938718,135.9098529,3a,75y,136.82h,80.2t/data=!3m6!1e1!3m4!1sqE5FaUCvnxnMgl85LhftTg!2e0!7i13312!8i6656?hl=ja
*3:ガードレールの整備促進 園児死傷事故で警察庁長官 - 産経ニュース https://www.sankei.com/affairs/news/190509/afr1905090010-n1.html
*4:「園児の散歩経路 安全再確認を」 厚労省(NHKニュース)https://www3.nhk.or.jp/news/html/20190511/k10011912151000.html