辺野古の海を埋めれば埋めるほど、国と沖縄の溝は埋まらない - 毒蝮三太夫
※この記事は2019年03月26日にBLOGOSで公開されたものです
俺ね、こないだ沖縄に行ったんだよ。普天間基地のある宜野湾市だ。基地が目の前にあるような場所で講演会だったんだ。そこで宜野湾の市長とも会ったよ。講演のテーマ? 基地問題じゃないよ。俺の十八番、高齢化社会をいかに元気に長生きするか、健康寿命を延ばすか、ってことだったから、とくに基地がどうこうって話はしなかったんだ。延々と続く沖縄米軍基地問題
しかし、沖縄は米軍基地の悩ましい問題が長いこと続いているな。先月は普天間飛行場の辺野古移設をめぐって「名護市辺野古の新基地建設に必要な埋め立ての賛否」を問う県民投票が行われたね。その結果、投票率52.48%、内訳は「反対」が72.2%、「賛成」が19.1%、「どちらでもない」 8.8%」となった。この結果が今後どういう影響をもたらすのかな・・・。辺野古の問題は、普天間飛行場をどうするかって問題だろ。普天間飛行場は住宅密集地のまんまん中にあって、そこで戦闘機やらオスプレイが離発着している。なんでも普天間飛行場に所属する機体の事故は過去90回以上も起きていて、これがもしも近隣住民を巻き込む大事故になってしまったらという危惧から「世界一危険な基地」なんて嬉しくない呼ばれ方をしているわけだ。
宜野湾市で爆音被害がもっともひどい地区だと、年間約2万回の爆音があるってね。そんな環境じゃ、ストレスはたまるばかりで、元気に長生き、健康長寿を延ばそうったって、大変だよ。普天間周辺の住民には飛行場をなくすことが長生きの特効薬だな・・・。
普天間飛行場をなくすために辺野古賛否の立場が分かれている。まず、政府側は辺野古に新たな飛行場を作って、そこに普天間の機能を移そうとしてる。一方で県民投票を経て沖縄県民の民意とされたのは、普天間の閉鎖・返還を求めつつも、辺野古のような飛行場の県内移設を認めないって話だ。
ここにきて、辺野古での建設を進めても完成まで最低13年かかるとか、工事費用が2.5兆円だとか、地盤が軟弱で工事期間も費用も見通しが立たないとか、頭の痛い話も飛び交ってる。辺野古移設がこのまま進んでも、普天間は最低13年そのまま固定されるから、あまりにも長すぎるんじゃないか、とかね。
あと、沖縄の米軍施設や海兵隊をグアムに移す話も進行中だよな。あれはどういうことになってるんだ? なになに、訓練場とか司令部庁舎とか隊舎を作ってるのか? グアムに飛行場は新設できないんだな。土地の問題もあるだろうし、騒音問題や事故の危惧もあって、グアムにも基地反対の運動があるわけだ・・・そりゃあそうだろうな。
あとなんだ? 海兵隊の移転も当初、沖縄にいる海兵隊1万9千人のうち、9千人がグアムに移る計画だったけど、グアム側が「9千人は多すぎる!」って反発して、グアム受け入れは4千人に減ったのか。あとの5千人は? ハワイや他の地域に移る? まあ、グアムに何でもかんでも移せるわけじゃないんだな。
このグアム移転も日本が相当負担するんだよな? 28億ドル? ざっと3千億円か。巨額だね。それ、月に行くとか言ってた若社長にツケられないか? 月に行く前にツケをお願いしますって(笑)。 まあでも、沖縄が背負ってきた負担が軽減されていくことに関しては、どれだけ税金が使われたとしても俺は「是」だよ。沖縄にはそれだけの歴史と現状があるんだから。
それにしても普天間の問題、他に選択肢や解決策はないのかねぇ・・・。安倍さんは「沖縄に寄り添う」とか「沖縄の民意を真摯に受け止める」とか、その場でそれらしい言葉は埋めるんだよな。そう言いながら辺野古も埋める。ところが辺野古はいつになったら埋まるのか先が見えない。そして辺野古を埋めれば埋めるほど、国と沖縄の溝は埋まらない・・・(苦笑)。
沖縄が背負った戦争の犠牲
俺はさ、沖縄の問題を考える際に、沖縄に甚大な犠牲を強いたあの戦争、沖縄戦から続く歴史を思うようにしたい。現代に生きる者のひとりとしては、昭和20年の沖縄戦があり、日本の敗戦があり、アメリカによる沖縄統治があり、1972年の本土復帰があり、復帰してなお日本にある米軍基地の約70%を沖縄が背負い込む現実があるということを、歴史という線で考えたい。だから沖縄が背負っている現状に俺は心から同情する。日本とアメリカの板挟みで、本来なくてもいい苦痛があるわけだから。米軍基地が多くあることによる経済的依存もあるにはあるだろうけど、歴史を辿れば基地はないに越したことないんだ。
戦後74年に渡り日本が戦地にならなかった、戦争に直接巻き込まれずに来れたのは、日本がアメリカの軍事力の傘の下にあったからだ。その日米関係を保つために沖縄があり、沖縄の米軍駐留費を負担する年間約2千億円という思いやり予算があり、そしてアメリカから戦闘機だミサイルだオスプレイだって、しこたま買ってるよ。トランプ大統領になってから安倍さんちょっと買い過ぎだって話もあるよ。
その中で日本政府が沖縄の人々に対して最優先で進めなきゃならないのは、いかにして基地問題を軽減していくかってことだ。これを全国的に世論が後押しして、沖縄の問題が沖縄に押し込められてしまわないよう、日本すべての問題として捉えられるよう、関心が広がり継続すればと思う。
そのためにもね、たとえば普天間飛行場の騒音。あれを誰もが体験できる機会をつくるってどうかな? NHKがテレビとラジオで「これから普天間飛行場の騒音を皆さんにお聞き頂きます。いつも聞いているボリュームのままお待ちください」って言ってね、普天間界隈で聞こえる騒音をそのまま流すの。現地にいて聞こえてくるような音量でね。長さは1分なのか10分なのか1時間なのか、色々と選べるほうがいいな。やり方に試行錯誤が必要だろうけど、こういう試みがあったら誰もが普天間の騒音を少しでも実感できるんじゃないかな。
その目的はいたってシンプル。ああ、現地の人々はこの騒音が日常なのかって味わえば、普天間問題がより身近に感じられるようになる。それこそ「沖縄に寄り添う」、小さな一歩になるんじゃないか。
沖縄がアメリカから日本に返還され、本土復帰したのが1972年5月15日。だから、5月15日にそういう実験放送をするってどうかね? こういう試み、NHKでも民放でもいいし、ネットでも出来ることがあるんじゃないか?
人間誰しも「エゴ」がある
この米軍基地問題って、日本各地にある他の問題ともつながってるよ。たとえば「ごみ処理場」「墓場」「葬儀場」「火葬場」って、生きてりゃ誰もが世話になるのにさ、いざ自分の近所にそれが出来そうだって計画が立つと反対反対ってなりがちだろ。最近じゃ「幼稚園」「保育園」「託児所」も子どもの声がうるさいからって反対反対ってなったりね。昨年秋だっけ、東京・青山で児童相談所や、DV被害者などを一時保護する施設が入った、「総合支援センター」の建設計画が持ち上がったらさ、「青山という一等地の価値が下がる」なんて地元住民から反発の声が上がって、それに対する賛否が渦巻いたね。
これを一概に「我がまま」とも言いきれないよ。人間誰しも自分だけは嫌な思いをしたくないってエゴがある。だけど、ひとり勝手に生きられないのが社会だ。エゴがまかり通れば社会は成り立たないよ。
そのために、話し合いがあり、歩み寄りがあり、相互理解があり、納得がある。難しいことを解決するのに魔法みたいな近道はない。フェイス・トゥ・フェイスでね、地道に下から積み上げていくしかないんだ。
(取材構成:松田健次)